張り切ってがんばるのです
あれからの馬車の旅の間、私とアインスさんはずっと魔術の事について熱い意見を交わして過ごしました。
ジェーシャチ国の国王に「国家機密とか魔道の研究内容とか全部ばらしちゃいますよ!」と宣言した通りに私は私の持っている知識を出来る限り披露したのです。
毛生え薬とかデカ猫のおもちゃとか私が研究途中だった城の魔法障壁とかいろいろと!
さてさて、そんなこんなで、ディエテ国の王都へつきました。
すると私は一息つく間もなく、王城のとある一部屋へと連れて行かれました。
部屋の中では数人の人々が何やらフラスコに怪しげな液体を入れていたり、魔石を削っていたり、ぶつぶつと呟きながら紙に何かを書き留めていたり……
この雰囲気は知っています。
ジェーシャチ国の研究室と同じです。
皆、丈の長いローブを身に着けていて、そのローブはあちこちにカラフルな染みができています。
人によっては袖口が虹色のグラデーションに染まっちゃってます。
私もちょっと前まではあちこち染みのついたローブで仕事をしてたのです。
きっと魔石の粉で染まっちゃったのですね~。
魔石って、採掘場所によって石の色がそれぞれ違うんです。
しかも、同じ場所で取れた石でも濃さや色味が違っていたりして、見ていてきれいで面白いのです。
でも、魔石を加工するときに出る粉があるのですが、この粉は一旦布につくと本当に落ちないのです。
石鹸をつけて洗っても、熱湯で煮込んでも、石をぶつけ足で踏みつけても、色が薄くなることがあっても完璧に落ちはしないのです。
なので、仕事中は全身をすっぽり包める丈の長いローブが必須です。
まあ、ローブには研究で使う薬品から身を守る役目もあるのですが、あまり危険な薬品を使うことのなかった私にとっては貴重な私服が魔石で染まらないようにガードするために着ていたのです。
一度、暑くて腕まくりをしていたため、うっかり服の袖を空色に染めてしまった時、
いっその事、全体を魔石の粉で染めてしまえばいいじゃない!
と思いつき、粉を集め染めてみたものの、前衛美術的な服が出来上がってしまったのはいい思い出です。
結局その服は鋏を入れ、小さな巾着袋や髪留めのリボン、細く裂いた後に編んで飾り紐なんかに加工して使ったのです。
その後、糸や端切れ、麻紐なんかをいろいろ染める事にはまって、よく魔石の粉を集めていたのです。
研究所の皆も自分のところで出た粉を私用に取っておいてくれたりして、お礼に染めたもので作った小物をあげたりと、和気あいあいと過ごしていたのです。
みんな元気に過ごしているでしょうか?
なんて事を考えていたら、ここ数年でなじんだ研究所のことがものすごく懐かしく思い出されました。
研究室に入って、初めに褒められたのは一桁の掛け算と、二桁の足し算を暗算でしたときでした。
きっと、知らない世界に来て落ち込んでいる私を励ましてくれていたんだと思います。
研究室の皆は私が小さな仕事をするたびにその仕事ぶりを褒め、私の居場所を作ってくれたのです。
そんな心優しい研究室の皆の役に立ちたくて、いろいろ調べた結果、私の特技を知ったときは本当にうれしかったのです。
私の特技、それは魔力を目視できる事、それと、魔力を微調整して使えることです。
具体的にどういう事かというと、この世界の人は魔力を使う事ができますが、その魔力自体を目で見る事はできないのです。
人の魔力量を知りたいときはそれ専用の道具を使って量りますし、魔石の魔力蓄積量を量るときも専用の道具を使います。
私は見ただけでその人や石の蓄積魔力量が分かりますし、魔法を使っている人の放出魔力量や残魔力量も分かるのです。
それから、この世界の人は魔力の調整がとても大雑把にしかできなくて、自分の魔力を使う時、全力で魔力を使うか本当にすこ~しだけ魔力を使うかしかできないのです。
それに、少し魔力を使った場合も、いつも同じ少しの魔力量を使っているわけではなく、魔力の全体量を100とした場合、その時々によって10の力を使ったり、20の力を使ったり、毎回同じだけの魔力を使うのはとても難しいのだそうです。
一方私は、魔力事態が見えているので、目で確認しながら微妙な魔力調整ができるのです。
なので、ほかの人より正確にほしい分だけの魔力を注げるのです。
この魔力調整、普通に魔法を使うときはそれほど気にしなくてもいいのですが、魔力を注いで使う魔道具や魔法陣を使うときに大いに役立つのです。
これは、私が召喚されるちょっと前に分かったことらしいのですが、適度な魔力量を注ぐことによって魔力を注ぐ本人の負担を減らすことはもちろん、その魔道具や魔法陣の劣化が軽減できたり、一番良い状態で道具や魔法陣を使うことができるそうなのです。
私が研究途中だった城の魔法障壁は私が魔力を調整することによって今までの2/3の魔力量で劣化して使えなくなるまでの年数を大幅に減らせるようになり、なんと、今までの倍の強度を保てるようになったのです。
この魔法障壁、実は一昨年から実用化され、城で使われているのです。
どうやら今までは魔力の注ぎすぎのため、障壁を作るための魔道具の劣化を早めていたうえ、本来の道具の力を引き出せていなかったようなのです。
まあ、私は魔力量が少ないので、人に魔力をある程度注いでもらった後に上乗せで私が魔力を注いでちょうどいい状態に調整するという手順を踏まないといけないので、私一人では強力な障壁を作ったりはできないのですが。
「イチカさん」
つい物思いにふけっていた私はアインスさんの声で我に返ったのです。
彼の手には魔石と魔力測定器が握られていました。
きっと私の特技を確かめるのですね。
よ~し!
張り切ってがんばるのです!