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元凶だったのです

 「お待ちください!何のためにイチカ様をこの国にお呼びしたと思っているのですか」

 外交官さんが悲鳴のような声をあげました。

 何のためって、剥製にするためですよね?


 「黙れ、イチカさんをこんなに怯えさせて、どれだけ人権を無視した拉致の仕方をしてきたんだ。これじゃあ、ジェーシャチ国のやつらより酷いじゃないか」

 なにやらアインスさんがお怒りなのです。


 「それもこれもあなた様のためです。私はイチカ様をこの国にお連れする命を受けましたので、いろいろ知っているのですよ。アインス様がこっそり国を出ようとしていた事や、遠くの空を眺めながらイチカさんに会いたいと呟いていた姿が目撃されていた事や、いい年して、こいわ……」

 「だ ま れ、それ以上言うとお前の口を縫い付けるぞ」

 アインスさんはぞっとする様な低い声で外交官さんを黙らせました。

 ううっ、アインスさん、前に会ったときはずっと紳士的な方だったんですが、今のはちょっと怖かったのです。


 「私はイチカさんの異世界の知識や彼女の魔術に対する発想、研究の取り組み方や情熱に感銘を受けていて、一緒に研究が出来ればと考えていたんだ。なのにこんなふうに連れてくるなんて!こんな国にいても、彼女を怯えさせるだけだ」

 やっとわかりました。

 外交官さんが話していた高貴な身分の方とはアインスさんの事だったのですね。

 助けかと思ったら元凶だったのですよ。


 でも、アインスさんの話を聞くと、剥製にはしないようですね。

 どうやら、私と一緒に魔術の研究がしたいようです。

 これでも私は魔術研究所で5年過ごしてきたのです。

 内容にもよりますが、少なからずアインスさんのお役に立てると思うのです。

 私にはちょっとした特技もあるのです。

 研究所の皆も私の特技は手放しでほめてくれたのですよ。

 ……でも、あの研究所の人は、皆が皆優しいせいか、褒めて伸ばそうと思っているのか、ほんのちょっとしたことでも大げさに褒めてくれていたのです。

 空気の読める私はもちろん勘違いして「私は偉大な魔術師だ!」なんて思ったりはしなかったのです。

 これでもいい大人ですから、自分の身のほどは良く知っているのです。



 「あのっ大丈夫です」

 私はアインスさんに話しかけました。

 先ほどの大丈夫じゃないは撤回です。


 「逃げないです私」

 「イチカさん?」

 「アインスさんなら……」

 剥製にはされ無さそうなので、逃げなくてもよさそうです。


 それに、リップサービスかもしれないですが、私の発想を評価してくれて嬉しいのです。

 少し照れてしまいます。

 えへへ。


 「イチカさんっ」

 照れてアインスさんから視線をはずしていたら急に抱きつかれたのです。

 うわあ!不意打ちとは卑怯な……ではなくて、抱きつかれた勢いで馬車の奥に押し付けられて苦しいのです。

 「ううっ……くるしっ……」

 「ああ!すみません!」


 私を高く評価してくれて、私と一緒に研究できる事を喜んでいるのは分かるのですが、少しは私とアインスさんの体格差を考えてほしいのです。

 アインスさん、背がすらっと高くて、今抱きかかえられている感触だと服の下にはたくさんの筋肉が!きっと脱いだらすごいに違いまりません。

 ……なんて、すいません、知ったかぶりをしました。

 私、思春期過ぎてから異性でハグされたのはアインスさんが初めてなのです。

 魔術研究所で女性の研究員さんに抱きついた時とくらべて、ごつごつ硬い感じがするので適当な事を言いました。

 ごめんなさい。

 ……誰に謝っているのかよく分かりませんが。


 アインスさんはそのまま私を抱きかかえて馬車から降りました。

 ふうっ苦しかった。

 苦しみから解放され一息ついていると、アインスさんが私の耳元へと口を寄せてきました。


 「何があっても私が守りますから」

 ひゃぁっ!耳は弱いのでそんなに近くで囁かないでほしいのです。

 なんかぞわぞわしますよ。

 気持ち涙目です。

 でも、その守ると言う言葉は

 「信じて良いんですよね?」

 私が問いかけると、アインスさんはにこりと微笑んだのでした。


 よかったー。

 これで剥製は無しですね。

 きっとこれからはアインスさんの研究のお手伝い……助手とかですかね?する事になるようです。


 

 ところで、守ってくれるの嬉しいのですが、いつまで抱きかかえているつもりなのでしょう?


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