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手紙を受け取ったのです

 「私に手紙なのですか?」


 仕事が終わり、朝同様、無言の馬車で帰ってきた私は、一通の手紙を受け取ったのです。

 そこに書いてあったのは、懐かしい名前。

 ジェーシャチ国の研究所でお世話になったタウゼントさんの名前だったのです。

 その名前を見ると同時に、私は急いで自室へと行き、手紙の封を開けました。



 タウゼントさん大きなおなかでぽっちゃりした体形、優しそうなたれ目の柔和な顔で、そこにいるだけで場を和ますことができる癒し系なおじさまなのです。

 そして、彼は私を拾って研究所に連れて行ってくれた大恩人です。

 子煩悩な人で、お子さんの数はなんと12人! 1ダースなのですよ。

 荷物を取られた後捨て置かれて、途方に暮れている私を見て、もし自分の娘が異世界に召喚されて、そのまま捨てられたら……と考え、いてもたってもいられなくなり手を差し伸べてくださったそうなのです。

 タウゼントさんがいなかったら、今の私はいないのです。

 あんなにお世話になったのに、私はディエテ国についてから手紙の一つも出さなかったのです。

 優しいタウゼントさんだから、きっと私の事を心配してくれただろうに……。

 私は胸がちくりと痛みました。

 ”新しい環境に慣れるのに忙しかった”

 ”手紙という手段があることを思いつかなかった”

 ”国に売られたという事を思い出したくなかったので、ジェーシャチ国の事は考えないようにしていた”

 言い訳を考えればいろいろ出てきますが、罪悪感はぬぐえません。

 なんて私はバカだったのでしょう。


 私は胸に痛みを感じながら、手紙に目を走らせました。

 タウゼントさんは、私が難しい文章が苦手なのを知っているので、手紙は難しい言い回しなどはなく、子どもに向けて書いたような簡単な単語が並んだ物でした。

 そこには驚くことが書いてありました。

 なんと、タウゼントさんは今、私が住んでいるこの王都に彼と同じく研究所員であるツヴェルフと共に来ているのだそうです。

 ツヴェルフはひょろっとした体に不健康そうな青白い肌、大きな眼鏡が特徴の青年で、私が研究所にお世話になりだした後に入ってきた、いわば後輩なのです。

 けれど、彼は雑用係の私なんかとは違って魔力量も魔法や魔道具に対しての知識もあり、ちゃんとした研究員として入ってきた人なのです。

 そんな彼に私が、研究所の資料の場所や備品のありかや、書類の提出方法などを教えたのです。

 私は雑用係としてそれらを教えたのですけれど、彼は私を仕事の内容にかかわらず先に研究所に勤めていて、仕事も教えてもらったのだから、と私を先輩として立ててくれたいい人なのです。


 手紙には私に会って話がしたいと書いてあり、滞在している宿が記されています。

 今すぐ会いに行きたい気もしますが、外はつい先ほど日が沈み切って、夕闇に包まれているのです。

 タウゼントさん達のいる宿まで、夜の道を一人歩いていくのはちょっと躊躇われます。

 日本ほど治安が良くないので、日が沈んでからはなるべく女性は出歩かない方がいいのです。

 まだ宿や夜もあいているレストラン等がある繁華街ならましなのですが、ここは貴族が住む住宅街で、この住宅街を出てタウゼントさん達がいる宿までの道は、人通りの少なくちょっと怖い場所が多いのです。

 今晩会えないとすると、明日のお昼の休憩に会いに行くのが一番早いですが、昼間タウゼントさん達が宿にいない場合は無駄足になるのです。

 何の用事でこちらまで来たのかは知りませんが、二人の組み合わせから見て、きっと仕事関係なのです。

 魔石や魔道具などの買い付けか、資料探しか、はたまた誰かをヘッドハンティングしに来たのかはわかりませんが、昼間は宿にはいない可能性が高いのです。

 先に手紙を出していついつのお昼にどこそこで一緒に昼食を食べましょうと誘ってみましょうか。

 ああ、でも、私はこの町の昼食に誘えるようなレストランを知らないのです。

 とにかく手紙の返事を出すことにしましょう。


 よし、手紙を書こうと決めた私は、ハッとしました。

 そう言えば私、この国の手紙の出し方を知らないのです。

 このディエテ国どころか、ジェーシャチ国でも手紙を出したことがないのです。

 届いた封筒を見てみると、切手のようなものが貼ってある様子はなく、表にはこのお屋敷の住所らしきものと私の名前、裏面にタウゼントさんの名前が書いてあるだけなのです。

 郵便料金っていくらくらいなんでしょうか?

 郵便配達は国営でしょうか?民営でしょうか?

 国営なら郵便料金がある程度決まっていそうですが、民営なら頼む場所によって料金が違いそうなのです。

 それに、もし配達に時間がかかるなら、無駄足覚悟で直接会いに行った方が早いかもしれないのです。

 この世界に来てだいぶ住み慣れたと思っていましたが、まだまだ知らない事がたくさんあるのです。


 郵便の出し方をアインスさんに聞いとみようと思い、部屋のドアに手をかけたところで、私は立ち止まりました。

 いつもの流れでアインスさんに郵便の出し方を聞こうと思ったのですが、今はまだ顔を合わせるのが辛いのです。

 それに、普通に質問できるかも怪しいのです。


 アインスさん以外の別の人……メイドさんたちに聞いてみることにしましょう。

 そうだ、ついでにどこかおいしい昼食を食べれるレストランも聞いてみましょう。

 私はそう決めると、部屋を出たのでした。 

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