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異世界チート魔術師(マジシャン) 作者:内田健

第四章:見聞を広めようとしたらやっぱり色々巻き込まれました。

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異世界のヴェネチア

 港町シーヤック。
 エリステインの南東に位置する湾に存在する島に築かれた、エリステイン魔法王国においてウェネーフィクスに次いで二番目に大きな都市だ。ほぼ九割方の商人や旅人が、エリステインとガルゲンを往き来する際に中継地点に入れる。太一一行もそれに倣い、ここシーヤックを中継地に定めたのだ。
 エリステインの本土からは、橋島と呼ばれる横幅四〇〇メートル程、長さ三キロの細い陸地が続いており、その先には成熟した茄子のような形の島、ウェンチアがある。このような地形を作り上げてしまうのだから、自然の力とは偉大だ。
 人口は島に住む者が一〇万人、本土に発展した街に居を構える者が九〇万人超。合わせて一〇〇万人を超える巨大都市だ。島の方は居住区というよりは観光地区、商業地区の意味合いが強く、元々この島に住んでいた先住民の血筋を引く者が今も住んでいる。人気の宿泊施設があるのもウェンチアだ。
 シーヤックはウェンチアに漁を生業とする者が住み着いたのが始まりと言われている。海でも川でも漁ができた、という文献が多数残されている通り、大小様々な運河が一〇〇以上も街の中を走っており、その運河を渡る橋の数も三〇〇を越える。陸の道路と、川の水路を進む舟が都市内の主な移動手段。反対に街の中は馬車、馬が禁止されている。馬車や馬でこの街を訪れた者は、橋島を渡る前にシーヤックが公営している厩舎に預けるのだ。アルティアにも満ち潮と引き潮がある。シーヤックは海抜三メートルの高さにあるため、高潮が発生すると水没の危険がある。その為この街の建物はみんな高床式だ。一階は丸々基礎になっている。
 太一と奏の率直な感想は、「異世界のヴェネツィア」だ。島の形と、本土を結ぶ橋が自然由来か人工的かの違いを無視すれば、「イタリアのヴェネツィアがこの異世界アルティアにあったら」という例え話が実現したかのような街並みだった。地球上でもっとも美しい都市の一つと言われるヴェネツィアならば、シーヤックを例えるのにおあつらえ向きだろう。島の名前も何だか似ていることであるし。

「すげー」
「綺麗な街だね」
「うん……ほんとね」

 三人は思い思いの言葉で感動を表現する。
 太一と奏はヴェネツィアを訪れたことはないし、ミューラは一度だけこの場所に来たことがあるらしいが、小さい頃の話だったのでうっすらとしか覚えていない。
 橋島から見えるウェンチアは、海原に街が直接浮いているように見える。やや赤の強い建物の屋根が、コバルトブルーの海によく映える。

「でしょう? ここから眺めるウェンチアも私たちの自慢なんですよ」

 馬車を預けるために訪れた厩舎の、爽やかな青年といった出で立ちの若旦那が、ニコニコとそう言った。
 その言葉もこの景色を見た後ならば納得である。
 絶景を横目に馬車を預ける手続きをする。滞在日数を明確には決めていないので、前金で一週間分を納め、後は実際の滞在日数から精算する方法を選んだ。

「良き癒しの時間をお過ごしください。ようこそ、水の都シーヤックへ」

 いい子にしてるよう目一杯クロを撫でて。
 青年の歓迎の言葉に送られて、太一たちは橋島を渡る。
 静かに打ち寄せる波が砂浜を洗っている。透き通るように綺麗な海。工業排水などで汚染されていないのは一度見れば分かった。波打ち際から数メートル海に入れば、水深二メートルほどの浅瀬にもたくさんの生き物がいる。
 この景色と水平線、髪を撫でる潮風を味わいながら、素の状態で歩いていく。一キロの道のりを、時折立ち止まりながらたっぷり二〇分以上かけて渡る。
 そうして辿り着いたウェンチア島の街並みに目を奪われる。濃いオレンジの屋根。白い壁の建物。石を切り出して組み上げた基礎は平均で二~三メートルといったところか。それらは常に潮風と高潮にさらされるウェンチア島において、塩害に強い材質で、水没しない建物をと先人が厳選した結果。それが機能美と外観の美しさを両立するという黄金比になったのは奇跡的とも言うべきだろう。
 歩けば至るところに運河があり、所狭しと小舟が往来している。そこには様々な商品を並べた行商船もあり、同じく船で移動する人々と盛んに交渉をしている姿が見てとれた。

「来てよかったね」
「そうだな。飯も旨そうだし」

 風景に目を向けて顔を綻ばせる奏に、小舟で売っている新鮮そうな肉を見ながら同調する太一。何を目当てにしているか丸分かりだ。

「はいはい。まずは宿を取らないとね。観光は後よ」

 何はともあれ寝床の確保は最優先だ。本土にも多数宿屋はあるが、折角観光しにここに来たのに、寝るためにわざわざ本土に戻らなければならないというのは些か締まりが悪い。
 観光地らしく宿屋は街の真ん中に固まって多数営業していると、厩舎の若旦那から情報を得ている。早速そちらに足を向けて歩くこと三〇分。宿屋の区画に辿り着いて、三人は焦らざるを得なくなった。

「ちょ。満室ばっかじゃねーか」
「どういうことなの?」
「分からない。でも、どこかに空きはあるはず。探すわよ」

 宿屋は確かにたくさんある。しかしその軒先には「満室御礼」と書かれた立看板が出されている宿屋ばかりなのだ。これはあまり芳しくないと、太一たちは小走りで宿屋通りを進んでいく。
 全長三キロの通りをほぼ真ん中まで来たとき。立看板がかけられていない宿屋を数件見付けた。これは渡りに船と駆け込もうとして、「満室御礼」の立看板を持った従業員と鉢合わせた。

「……もしかして、満室ですか?」
「申し訳ございません。たった今全室お客様が決まりまして」
「そんなあ……」
「またのご利用お待ちしております」

 事務的な謝罪と共に、従業員は立看板を立て掛けて、中に入っていった。宿の無い客を放り出したことをあまり気にしていないような口調と態度だった。
 そして、一瞬呆然としてしまったのが運のツキ。次々と出される立看板。本当にタッチの差だったのだ。

「……やべ。素で宿無しだぜコレ」
「参ったわね……」

 勿論本土にも宿屋はあるし、そちらは空いているはずだ。とはいえ折角観光しにここまで来たのだから、ウェンチア島に泊まりたいと思うのは普通だろう。しかし、現実は無情だ。
 偶然にも人通りが途切れる。立ち尽くす三人を風があおっていった。

「あら。貴方たち観光客?」

 後ろから声をかけられて振り返る。
 両手で紙袋を抱えている若い女がそこにいた。声をかけてきたのは彼女らしい。ウェンチア島を囲む海と同じコバルトブルーの髪が印象的な、一〇人いれば八~九人は美人と答えるだろう美貌の持ち主だった。

「そうだけど」
「そう……」

 何かを察したのか、彼女は気の毒そうに眉を下げる。

「何か知ってるんですか?」

 否定も肯定もしない女性。しかしその目が「知っている」と告げていた。

「本土の宿を取った方がいいかもしれないわ」

 狙っているのか天然なのか、明らかに「何かある」と言わんばかりの台詞と態度。
 とはいえ何も情報が無い以上、手を貸すにもどこから手をつければいいのか分からない。相手から乞われたならばいざ知らず。

「埋まってしまったものは仕方ないわね。本土の宿で我慢しましょ」

 ミューラがそう言って太一と奏を促す。このままなら、三人とも黙ってウェンチア島を立ち去っていただろう。太一たちに背を向けた女性が、「ホントはお客として迎えてあげたいんだけど……」と呟かなければ。
 腕を掴まれ、女性はびくりと身体を一瞬震わせて立ち止まった。
 太一が真剣な目をして、彼女を引き留めていた。

「お客として? そんな台詞、一般家庭じゃ出てこないよな?」

 太一の台詞に女性は目を白黒させた。間違っても、普通の聴力で聞き取れる音量ではなかった。
 呟かずにはいられない。しかし聞こえて欲しくはない。だから消え入るように声を出したのに。面と向かっていたって、彼女の唇が微かに動くのを見て、やっと「何か言った」と分かるようなレベルだったのだ。
 しかし、「何かある」と感じて聴覚を強化していた太一には、その程度はなんの意味もなさなかった。

「わ、私の言葉が聞こえたの?」
「地獄耳でね」
「え? じごくみみ?」
「あー。えっと。めちゃくちゃ耳がいいんだよ俺。この距離なら、声に出されればどんなに小さくても聞こうと思えば聞ける」
「そうなんだ……」

 信じられないとばかりに今度は彼女が呆然とする番だった。

「話してみませんか? 力になれるかは分かりませんが、吐き出すことで楽になるときもありますから」

 悩みごとは抱えれば抱えるほど、悪い方悪い方へ進みがちだ。それを身をもって知っている奏はそう申し出てみる。
 その声色から奏の純粋な厚意を感じ取った女性は、目尻に涙を浮かべて頷いた。





◇◇◇◇◇





 熱いクーフェが湯気を立てる。五つのカップをテーブルに置いた女性は席についた。
 案内されたのは、宿屋通りの外れにある宿屋。それなりの大きさで建物も立派だが、ここだけ立看板が出されていなかった。聞けば、一人も客がいないらしい。両隣も対面も立看板を出しているというのに、どういうことなのか。
 女性はミントと名乗った。二一の若さにしてこの宿屋の女将をしているという。そして彼女の隣に座るのが、この宿屋の持ち主にしてミントの夫であるテイラー・マゴット。両親から受け継いだ宿を経営する四代目主人だ。歳は三〇。柔和な顔つきながら、芯の通った緑色の目が印象的な男性だ。それなりの歳の差夫婦。

「今までと変わり無く、宿を経営していただけなんだ」

 テイラーはとつとつと話し始める。

「かつてはそれなりにこの宿も繁盛していたし、両親や祖父母に恥じないよう、必死にお客様にサービスしてきた。手前味噌だけど、評判も悪くなかったんだよ」

 それが徐々に変わったのは、今から二年前。

「ウェンチアで一番の大商人、ガルハドが病気で倒れて、息子のミジックが継いでからなんだ」

 誠実で敏腕と評判だったガルハドが健在だった頃は、大人しく父親の事業を手伝っていたミジック。才能豊かだったガルハドに比べ、商売の腕は平凡であったが、彼はまだ若かったし、何よりガルハドに負けず劣らず誠実な人柄が評判であった。しかしその跡を継いでからは、ミジックは好き放題やり始めた。普通の商人がやったら途端に爪弾きにされそうな横暴ぶり。しかしそれは出来なかった。ありとあらゆる分野に手を出していたガルハドは、シーヤックの商業の六割、ここウェンチア島に限っては九割を牛耳っていた。下手に逆らえば一家が路頭に迷うことになるとあって、あまりに横暴なミジックに誰も逆らうことが出来なくなっていたのだ。
 しかも質が悪いのは、ミジックに逆らわない限りは商売が上手くいくことだ。ミジック自身の商売の才覚は並みレベルだが、人心の掌握術には人一倍長けていた。
 特に被害にあっていたテイラー夫婦を皆気の毒に思っていたが、かといってそれを表立って口にすれば次に標的になるのは自分たち。結果的にテイラー夫婦は孤立無援の状態に追い込まれたのだ。
 現在は三代かけて築き上げた資産を少しずつ切り崩して繋いでいるという。しかしそれもいつまで持つか。当然ながら金は湧いて出てくるものではない。

「なるほど。何で、そんなに目をつけられるようになってしまったの?」

 ミューラはその核心と言える部分に切り込んだ。
 びくっとミントが震える。その顔は怯えているようにも見えた。

「ミントは、僕と離婚してミジックの妻になるように言われているんだ」

 権力者にありがちな横暴であった。女として嫌悪感を抱く奏とミューラ。

「やっとの思いでミントを振り向かせたんだ。あんな脂ガエルにくれてやるものか」
「テイラー……」

 身も蓋もない口振りに、ミジックの見てくれが知れるというもの。しかし元は引き締まった身なりをしていたのだ。自分に甘いミジックに対し、見た目も商売では大切だと説くガルハドが贅沢を厳しく禁じていた。自分の天下になって好き勝手やり始め、あっという間にぶくぶくと太ってしまったのだ。
 テイラーからは断固たる決意が見てとれる。

「でも、結果としてこの有り様」

 太一の一言に、ぐうの音も出ずにテイラーは項垂れる。
 欲しいものが手に入らないミジックが、テイラー夫妻が経営する宿屋に客が来ないように仕向けているのだろう。その程度のことは、これまでの話を聞けば嫌でも想像ができる。

「そうなんだ……何も知らないお客様は、時折ここを訪れる。その度に、僕らだけならまだしも、お客様にまで嫌がらせをするんだ。そんなことを許すわけにはいかない。僕らは、お客様が来ても断らざるを得ないんだ」

 彼らはお人好しなのだろう。自分たちが苦しいにも関わらず、他人が困るのは嫌だというのだ。それが原因に自分たちがいるなら尚更。それを当然として口にする夫と、一瞬の間もおかずに頷く妻に、太一たちは好感を持った。
 テイラー夫妻をお人好しと心の中で評する太一たちだが、彼らも大概お人好しである。現に、放っておけないと思っている。

「決めた。俺たちこの宿に泊まるわ」
「はっ?」

 今しがた断らざるを得ないと話したばっかりである。それは遠回しに、太一たちにお引き取り願うための言葉でもあったのだ。それを一瞬で反故にされてテイラーとミントは目を白黒させる。
 奏もミューラも、太一の言葉に異論は無いようだった。

「な、何を言っているんだ。この宿に泊まったら、君たちまで嫌がらせされるんだよ!? 僕の話を───」
「貴方たちが気に入った。だから貴方たちからの依頼という形でどうだい。報酬は、俺たちに部屋を貸すこと」

 何様だ、と思うほどの上から目線の台詞に太一は少しだけ自己嫌悪を覚えるが、今は強引さが必要だろうとあえてそれに目をつぶる。

「依頼って……君たち冒険者か。しかし、こう言ったらなんだけど、君たちの若さで何が」

 出来るのか。その台詞が出てくるのは想定内だったので、太一は黙ってギルドカードに魔力を通し、二人の前に翳す。
 テイラーとミントが固まった。

「………………B、ランク、だって?」

 Bといえば、相当な実力者か、大がつくほどのベテランでなければ冠することが出来ないランク。ギルドカードの権威はこの世界に生きる者なら誰でも知っている。ギルドとて遊びでランク分けしているわけではない。冒険者に与えるランクに、ギルドは沽券を賭けているのだ。
 例えば、正規ルートでBランク冒険者を護衛なりで雇った場合、たった一日で一般家庭の一ヶ月の生活費が軽く吹き飛ぶ。三人のチームともなれば、割引がされても二ヶ月半位の値段になるだろう。それが部屋を貸すことで雇えるなど、相場破壊もいいところだ。ジェラードやマリエがここにいたら、慌てて止めに入るだろう。
 テイラーとミントは非常に運がいいと言えるだろう。彼らは知らないのだ。太一たちが首を縦に振っていたら、BランクどころかAランクになっていたことは。Cランクからの飛び級ランクアップなど、過去に片手で数えるほどしか実例がない出来事だ。因みに太一たち以前の直近ではレミーアがCランクから一気にAランクに上がっている。世間は狭い。

「あたしたちはこの宿に泊まりたいの。宿の主人と宿泊客じゃなくて、クライアントと冒険者でどう?」
「つーか、この宿の周りにチンピラが何人かたむろってるけど、あれこの宿を監視してるミジックの手先だろ?」
「な、なんで気付いて……」
「気配で分かりますよ」

 あれしかいないなら、ミジックって雑魚じゃん、と一言で切って捨てる太一に、あれでは気付かない方が難しいと追い討ちをかける奏。
 普通に考えれば分かる。Bランク冒険者と一般人を比べるのは、剣士と、よちよち歩きの子供を比べるが如くだ。ぶっちゃけ話にならない程の力の差がある。
 彼らから受ける嫌がらせなど、ものの数にも入らない。この時ばかりは冒険者ランクに感謝してもいいだろう。思う存分その威光を借りることにする。いっそAランクにしとけば良かった、なんて思うほどには、太一たちはミジックに対して憤りを覚えていた。
 一度主導権を握ってしまえばこちらのものとばかりに畳み掛けてから凡そ一時間後。
 この宿一番の部屋のベッドに身を投げている太一は、大きなあくびをした。
 四人までが泊まれる、元の世界で言うところのスイートルームというやつだろう。
 奏、ミューラと同室だが、ベッドを仕切る衝立が備えられており、それなりにプライバシーの確保も可能だ。

「それにしても、この規模の宿にこんな部屋があるんだな」
「そうだね。何か悪いな、こんないい部屋用意してもらっちゃって」
「気にするだけ損だと思うわよ」

 四階建ての宿の、四階部分の半分をこの部屋が占領している。残りの半分は同じような部屋がもうひとつ。この部屋だけで、今まで宿泊してきた一人用の部屋が四つは入るだろう。
 衝立の向こうから聞こえてきていた衣擦れの音が収まり、部屋着に着替えた奏とミューラが顔を出した。二人のリラックスした格好を見たいと思う男はかなりいるだろう。太一は役得役得とばかりに二人を見た。もちろん、ポーカーフェイスそのままに。
 太一はひょい、とベッドから飛び降りてソファに座る。その対面に奏とミューラも腰を下ろした。座っただけで分かる、ソファの高級具合。テーブルにも埃一つ無い。ベッドメイキングも完璧。浴室やトイレといった水回りもピカピカだ。
 客に帰ってもらうしかない、と苦々しくテイラーは言っていたが、この部屋の手入れの行き届き具合はどうだ。いつ客が来てもいいように、見事な用意がされているではないか。
 来るはずがないと分かっていながら、それでも準備に手が抜けないテイラー夫妻。
 そして、来るはずがない客を、ずっと待ち続けていた客室。
 宿をどれだけ大切に思っているかはこの部屋からびしびしと伝わってくる。切なささえ覚えるほどに。

「さて。ここまでは順調だな」

 何となくしんみりしてしまった雰囲気を吹き飛ばすために、努めて明るく振る舞う太一。

「どうやって脂ガエルに一泡吹かせるかね」
「カエルだけに?」

 つまらない太一の合いの手に凍える視線をミューラが浴びせる。その横で吹いてしまった奏が、耳まで真っ赤にして俯いた。彼女の笑いのツボは時折よく分からない。

(可愛いなあ……)

 とは太一とミューラの感想である。

「どうやってって言っても、俺たちとミジックじゃあ土俵が違うからなあ」

 気を取り直して話を進める。
 先程までの重い空気が取り払えたため、太一のつまらない駄洒落も、吹いてしまった奏も、よしすることができた。

「片や冒険者。片や商人」
「あたしたちに商売の心得はないわね」

 今なら元手も十分あるが、それだけで成功できるなら今頃破産者は生まれていない。今からここで商売を立ち上げるような時間的余裕はない。軌道に乗るまで何年も待たせることになるし、第一冒険者が出来なくなる。商売で勝負というのは却下だ。

「となると、向こうにこっち側に来てもらう必要があるわけだが」
「それをどうするか、だよね……」

 奏の言葉も尻すぼみ。具体的な案が出てこないのだ。何をどうすれば、ミジックを引きずり出せるのか。
 腕を組んでいたミューラが顔をあげる。

「あたしたちは冒険者よね?」

 聞くまでもないことだが、無意味な発言ではないだろう。太一と奏は頷いた。

「冒険者って、自由な仕事だと思うの」

 それはその通り。

「今まで巻き込まれてばかりだったんだしね。こんな風に自ら考えてやるなんて中々なかったし、これこそ醍醐味じゃない?」

 そう言ってミューラは笑う。この難しい状況を楽しんでこそ冒険者だ。
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