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異世界チート魔術師(マジシャン)  作者: 内田健
八章 強敵・対決・完遂

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四十

 上々。

「ふふふ……」

 酒精がうまい。

 いつも飲んでいる極上の一品ではあるのだが、飲みなれてしまってその味が当然になってしまっていたシェイド。

 しかし今日はその味がことさら旨く感じる。

 香りも良し。

 鼻に届くアロマのように、ふわりとしたさわやかなハーブの香りがとても良い。

 ここまで鮮明に感じることがあっただろうか。

 どれもこれも、今回のことがいい結果に終わったからだ。

 酒が旨い……そう感じるくらいの成功だった。

 こちらからの干渉は当初の予定のうち、最低限で終わった。

 太一はもちろん、凛、ミューラ、レミーアも望外の奮闘を見せた。

 ここで彼ら彼女らを失うというのはシェイド的にもありえなかったので、行くところまで行ったら干渉も厭うつもりはなかった。

 しかし結果を見れば、干渉は最低限。

 十分満足できる結果だった。

「うまくいったようで何よりだよ」

「はっ、ご期待に副えたようで何よりでございました」

「うん、君もよくやってくれたね」

「ありがたき幸せ」

 アルガティは深々と頭を下げた。

 空中に投影されている映像を見て、シェイドはうんうんと二度頷いた。

「少年は無事にサラマンダーと契約して、更には制御も他人任せにしないということを覚えた……」

「そして、あの娘たちは皆、自分よりも格上の敵と戦い、無事に勝利を収めました」

 太一が得たその知見とサラマンダーに課せられた試練の数々。

 あれを元に鍛えていけば、太一の実力はさらに上がっていくだろう。

 正直これまでは暴れ牛を無理やり押さえつけてやっていたのを、これからは自分の意志で暴れ牛を制御して乗りこなしてくことになるだろう。

 一方の凛、ミューラ、レミーアの三人。

 こちらは格上と激突し、一発も被弾できないというプレッシャーの中見事に立ち回って倒してみせた。

 十分すぎるというものだ。

 本人たちは気付いていないが、あのアンテを三人が倒すには、精霊魔術のより洗練した行使が必要だった。

 彼女たちは戦いのさなか、成長し、強くなったのだ。

 本人たちは気付いていはいないだろうが。

 それは太一と変わらない。

 いやむしろ、伸び代としては三人の方が大きい。

 本人たちが自分の成長に気付くのはいつだろうか。

 その時のリアクションが楽しみである。

「今後もこの調子で、成長してくれたらいいけれどね」

「ご要望とあらば、また何か計画を立案いたしますが」

「そうだね。必要だったらやってもらおうか」

「はっ」

 今はこの美味い酒が味わえるようになった。

 それで十分だ。

 劇的な成長をしたといえるが、まだまだ伸びるだろうこともいいニュースだ。

 この一連の、セルティアからの刺客を利用した太一、凛、ミューラ、レミーアの成長のための試練は、成功裏に終わった。

 それなりに犠牲も出たが、必要な犠牲である。

 シェイドの認識からすればそれ以上でもそれ以下でもない。

 世界を奪われてもいいのか、ということだ。

 犠牲になった者やその関係者から見れば納得はいかないだろうが、シェイドがそれを気にすることはないのだった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 さわやかなそよ風がふく草原のど真ん中。

 草と木がきれいだった草原は、土がむき出しになっていたり、何かで溶かされたりしてぼこぼこになっていた。

 そこには、男が一人。

「ふん、派手にやられたな」

 誰もいないその場所で、その男はそうつぶやいた。

 ローブを深く着込んでおりその人相は知れないが、声は男のものだった。

 誰が応えるのか。

 見ている者がいればそう思っただろうが。

「ええ、全く。見事に負けたわ」

 答える者はいた。

 むくりと起き出したのは、ミューラの剣を受けて斃れたはずのアンテだった。

「お前を倒すとは、ずいぶんとやるようだな」

 男は心より感嘆した、という声色で言った。

「楽しかったわ。まさかわらわをこうして倒せる人間がいるなんてね」

 アンテは満足した様子でくつくつと笑う。

 先の凛たちとの戦闘を、本当に心から楽しんでいたからこその反応だ。

「ほう、それは楽しみだな。いずれ相まみえるときが待ち遠しいな」

「そうね。でも、わらわの相手よ。横取りは感心しないわ」

「一人で独占するのも無体だとは思わんのか?」

「思わないわ。やりたければわらわが返り討ちにあってから、思う存分やりなさいな」

「ふん、返り討ち前提とはな」

「三対一では確実にそうなるでしょうね。でも、一対一なら分からないわ」

 その尊大な口調と態度に反するように、戦力分析はいっそ謙虚ともいえるほどだ。

 強い者に対する敬意がにじみ出ていた。

「まあいい。先に戦ったのはお前だからな。面子を壊さないとは約束するさ」

「それでいいのよ」

「さあ、帰ろうか」

 そう言って、男が手を差し出す。

 アンテはその手を取って、よいしょ、とでもいうように立ち上がった。

 膝が少し笑っており、力が出ないようだ。

「あー、負けるとこうなるから嫌なのよね」

「負けたのはいつぶりだ? その感覚は久しかろう」

「もう覚えてないくらいよ……」

 男はアンテに肩を貸し。

 アンテは遠慮なく肩を借り。

 そんな雑談をしながら、二人は地平線のかなた目指してどこへともなく歩いて行った。

 しばらくして、歩いていたはずの二人の姿は消えていた。

 その歩く速度では、決して遠くまで、行けなかったはずなのに。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「こたびの活躍、実に見事であった」

 ペドロは安どの表情で言った。

 少しやつれており、大聖堂に閉じ込められて何もできなかったというのは、彼の精神にもいくらかのダメージを与えたようだった。

「恐れ入ります」

「ひいてはクエルタ聖教国として正式に表明をさせていただこう。貴国を通じ、必ずや御礼をいたす」

「猊下の御心のままに」

 この会話は、当然ながら事前の打ち合わせの通り。

 シャルロットは、この場で報酬は決めない、国同士で話し合ってほしい、ということを伝え。

 今ここで多額の金銭を払ったりしなくてよくなったクエルタ聖教国は二つ返事で頷いたわけだ。

 シャルロットとしても、今後はクエルタ聖教国を味方につけたい。

 そのためにはこの災害の復興にまずは注力して欲しかった。

 その財源を奪っては、クエルタ聖教国の国力の回復は遅れてしまう。

 なので、そこは国同士の交渉で……ということで長引かせ、その間に復興してもらう、という腹積もりだ。

 当然その意図を汲むであろうクエルタ聖教国は必死に復興するだろうし、エリステイン魔法王国もダラダラと交渉をする。

 エリステインの交渉役にはシャルロットの息がかかった者を用意させるので、長引くのも出来レースというわけだ。

 もっとも、これで報酬、御礼をもらわないのもそれはそれで両国のメンツが傷つくので、そこが面倒な話ではある。

 が、そこはシャルロットが深く考えることではない。

 実務方面はそれが得意なものにやってもらえばいいのだから。

「ふう……」

 謁見が終わって堅苦しい場所から解放され、太一は伸びをした。

 ああいうところにも慣れてはきたものの、それが好きかどうかは別問題。

 それは凛も同じで、手を組んで前に伸ばしながら「ん~~~……」と身体をほぐしている。

「さて、帰国の準備と参りましょう」

 もともとの目的は達成し。

 結果論ではあるが、クエルタ聖教国に恩も売れた。

 犠牲が出たことは痛ましいが、為政者としてはそれにも目をつむる度量が必要だ。

 大のために小を切り捨てる――これはどこでも起きていることである。

 今日日珍しい話でもなんでもなかった。

 これが国王ジルマールであればもっと割り切ってみせるのだろう。

 割り切れないところが、シャルロットの為政者としての器の限界でもあった。

「そうさな。もう、この国にいる必要は無いからな」

 目的を達した以上、ここにいなくてもよい。

 ならばまずは帰国して、次に向けて備えねばならないのだ。

「テスラン。帰国の準備を手配しなさい」

「御意」

 テスランは数名の部下に命令を出した。

 彼らが出立の準備を行うのだろう。

 もっとも今命令を出して数時間後に出ねばならない、というほどひっ迫はしていない。

 準備をしている間、ゆっくりと休んでいればいいのだ。

「おや、帰るのですか」

 ふと背中にかけられた声。

 振り返ると。

 そこにはカシムがいた。

 当然彼だけではなくグラミも。

 ロドラはいないようだが、まあ、どこぞでなにかしらをしているのだろう。

「なんだ、こっちに来たのか」

「ええ、向こうでできることも終わりましたしね」

「私らの本拠地も、本来はこっちなんだよ」

 なるほど、こちらに来た、のではなく、帰ってきた、ということか。

「次に会う時を楽しみにしていますよ」

 カシムは別に何かを言うでもなく、背を向ける。

「腕ぇ磨いとけよ」

 それはグラミも同様だった。

「また会うだろうからな」

 太一はそう小さくつぶやく。

 聞こえていなくてもいい。

 別れの挨拶ともいえない淡泊なやり取りだったが、それで良かった。

 別になれ合う相手ではない。

 今回もたまたま共闘しただけ。

 陣営が同じであるだけ。

 仲良しこよしする必要はない。

 そんな間柄は、似合わない。

 ただ分かっていることは。

 いずれまた会い。

 そして、戦場を共にするだろう――

 それだけだった。


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