三十八
太一は、ふう、と安どのため息をついた。
試練の達成率はまあまああると踏んでいた。
少なくとも低くはないと思っていた。
とはいえ、高くはあるものの、確実に成功する試練ではなかった。
なので成功したので一安心だ。
「さて、じゃあ……」
太一は顔をあげてサラマンダーを見た。
「ああ。オレはお前と契約するぜ」
達成だ。
この言葉を、待っていた。
サラマンダーとの契約。
契約には特別なものは存在しない。
「これからよろしく頼むよ」
「ああ。長いからな。オレのことは好きに呼んでくれ」
「分かった。じゃあ、サラ、とでも」
「それでいいぜ」
契約は一瞬。
苦労はしたのだが、それに比べてあっさりとしている。
だが今更だ。
ミィやディーネと契約するときもそうだった。
「もう、解禁していいんだよな?」
「ああ。好きに使え」
「分かった」
ふわり、と空に浮かぶ。
久々の感覚だ。
正確には数日といったところだが、その間は一度たりともサラマンダー以外の力を使わなかった。
「さて、聖都はあっちか……」
太一は風をまとって力を溜める。
一路ギルグラッドへ。
これまではシルフィに任せっきりだった部分を自分でやってみる。
どれだけ精密な制御をしなければならないのか、自分でやることで改めて分かる。
そして、より風の力への理解が及んだ気がした。
エレメンタルの力は、常人にとっては暴れ馬もいいところ。
それを自分で整えるのはかなりの苦労を擁するが……。
でも、できないことはない。
これまでも全くやってこなかったわけではない。
ただ、大部分がまかせっきりだったのは事実。
それを出来る範囲とはいえ自分でもやるのだから、大変でないわけがない。
「でも、出来る」
そう、できる。
できることが拡がった。
だから。
一気に加速して飛んでいく。
これまでよりも速度を出しやすくなった。
これなら最高速度も更新できそうだ。
あっという間に聖都ギルグラッド上空までたどり着いた。
馬車など比較にならない。
音までは超えなかったので、大体旅客機くらいのスピードだっただろうか。
以前は音を超えるにはそれなりの苦労をようしたのだが、
街の外には凛、ミューラ、レミーア。
肉眼だと三人の姿は豆粒ほどにしか見えないが、彼女たちがこっちを見ているのは分かる。
街中はそれなりに被害が出ているようだ。
しかし、こちらでもパリストールと同様に街中での魔物との戦闘があったのは間違いない。
こちらの様子を探ることはなんとなくしかできなかったが、アンテのような強力な敵がいて、魔物も街中に現れて。
それでなおこの被害なら、十分抗った方だろう。
少し行ったところにシャルロットたちもいる。
どうやら無事だったらしい。
結構派手な戦いになったようだが、五体満足でいるようだ。
もちろん騎士にはそれなりのけが人や被害は出ているものの、彼らにとっては、守るべき主君を守っての負傷は名誉の傷だ。
「ふむ……んで……」
街をぐるりと見渡して。
走査する。
「見つけた」
ここから逃げている者の姿を。
間違いなく、その者の意識は太一に向いている。
今ここで、太一の姿を見て逃げているのはその人物のみ。
魔力はそれなりに発しているが、別に威圧は一切していない。
魔力を感知できる人間には「それなりに大きな魔力だ」くらいにしか思わず、魔力を感知できない人間はそもそも気づきはしない。
なので、逃げているということは……。
太一はそこから移動する。
速すぎて、かき消えるように見えたのだが、当人はそこまで意識はしていなかった。




