三十三
こればかりは全力で対処せねばならない。
狙われているわけではない散弾。
目で見ながら一つ一つ、丁寧にさばいていく。
かなり神経を使うし疲れるのだが、スペックが上がった今だからこそ対処できている面がある。
これでも一発一発の速度はかなりのもので、
もちろんそれだけでは終わらない。
アンテはそんな甘い相手ではない。
なのだが、「それだけで終わるはずがないだろう」と分かっている状態ならば、戸惑わずに対処しに行けるのだ。
さらに突進する、と見せかけて、酸を大きく風呂敷のように空中に広げて、降り注がせてきた。
広げると一見薄くなって破りやすくもなりそうだが。
「はっ!」
ミューラが放った土の杭は、ごぷりと酸に沈む。
穴は空いたものの、感触的にはそれなりの厚さがありそうだった。
全体的に、アンテは逃げ場がない広範囲攻撃を好むようだ。
逃げ場はない。
破るかして防ぐかするしかない。
「合理的だな!」
叫んだレミーア。
まったくもってその通り。
当たればいい。
なんなら掠るだけでもいいのだから楽なものだ。
自分がアンテの立場なら同じようにする。
酸だけしか使えないが、これだけの威力があるならアンテの戦法で十分だ。
何せこちらも対処療法でどうにかしているだけで、根本的な攻略は出来ていない。
これだけ戦ってこの体たらくなのだから、アンテが自分のスタイルを崩さないのもむべなるかな。
同じ攻撃ばかりしていては勝てない、と思わせられていないわけだ。
ただし。
「別に、崩す必要は、あるまいがな!」
空気を強力に、一瞬で圧縮。
それを前方に向けて、衝撃波として放った。
風圧で吹き飛ばす。
レミーアの狙い通り酸が吹き飛び、三人には当たらなかった。
「私の風は、相性が良さそうだ」
溶かすものが存在しない空気の流れを操るのが風魔術。
土魔術も氷魔術も、溶かすものが存在するのだ。
それが無い風は実に相性がいい。
ある程度の威力は必要とするものの、アンテの攻撃をはじき返すのだから、そんなことは織り込み済みだ。
「リン、ミューラ」
「はい」
そのまま、レミーアは自分の方針を表明した。
「私はこれより、防御に徹する」
「……!」
師匠が何を言いたいか。
みなまで聞かずとも理解できた。
「お前たちで、こじ開けろ」
「了解です!」
「分かりました!」
何故レミーアがそう口にしたのか。
試練ではない。
最適な役割分担だ。
さて。
ではどう破るのか。
そこが問題だ。
「どうやら、そろそろ大詰めのようね」
不意に、アンテがそう口にした。
なんとなく理解できた。
凛たちが役割分担をした。
つまり全力でアンテの攻略を開始するという宣言だ。
アンテとしても、今の広範囲攻撃に勝るような、効率的かつ効果的な戦闘方法は持っていない。
より考えて、各個撃破のようなじっくりと戦うのはそんなに得意ではない。
それでも、通じない攻撃に後生大事にしがみついて使い続ける趣味は無い。
一対一ではない。
無視できない強さの人間が三人。
防御に専念する、というレミーアも、当然だがアンテがあまりにも意識を逸らしていたら攻撃はする。
そうなったら、アンテの有利はかなり消え去ると思っていい。
だから、今のうちに仕留めるように努めるのがアンテにとっての最適解。
ならばこそ。
アンテは空中から地面に場所を移した。
空を飛んでいたのは、高いところから無差別に広範囲を攻撃するのに適していたからだ。
そういう攻撃方法を取らないのなら、アンテは地に足を付けて戦った方が強い。
「さあ、改めて始めましょうか」
これまでとがらりと変えたアンテを迎え撃つは凛、ミューラ、レミーア。
三人にとっては、この広範囲無差別攻撃を攻略するのが最適解。
この膠着状態が崩れるとなると、一気に事態は変化する。
根拠はないし、傍で見ている者がいたら信じなかったろうが、戦っている本人たちが誰よりそう思っていた。
だからこその大詰め、というアンテの言葉に誰も異論を唱えなかった。




