三十二
右手に持つのは、氷で作り出した銃。
その中には当然氷の弾丸。そしてバレルには螺旋を刻んでいる。
細かい造作はしていない。銃の形をしていて、引き金を引くことで撃つ、というイメージが成立していればいいからだ。
これは別に自前の魔術でも可能だが、違うのは強度。
そして、威力。
照準をアンテに合わせ、発射。
火薬の代わりに圧縮した氷を弾けさせて推進力とした。
速度に全振りした一撃。
その代わり自由度はなく、弾丸も小さい。
なので仮に当たっても大きなダメージにはなるまい。
一応、傷が出来る程度で。
だが。
命中率は、極めて高い。
「くっ!?」
アンテは、ぎりぎりで避けた。
今度は必死そうだった。
先ほどのレミーアの攻撃よりは。
それだけよけづらかったということだろう。
そうでなくては困る。
凛の攻撃を回避させる、すなわち、酸での防御をさせないためにはどうするか。。
それを判断するための一撃だったのだから。
アンテの方も、何があるか分からないということで避けたのだろう。
凛としてはかなりの収穫だ。
アンテが一生懸命避けるだけの速度で撃てたわけで。
弾速で言えば『電磁加速砲』の方が速い。
しかしそちらでは威力が圧倒的に足りない。
アンテにダメージを通すには、氷の精霊魔術を使う必要があった。
「やるわね……!」
特殊能力全振りのアンテだからこそ凛の攻撃が通るのだが、そこは幸運だったと喜ぶところだ。
自分の練りが甘いことを嘆くのは、この戦闘が終わってからでいい。
このことはミューラとレミーアにとっても朗報である。
長期戦にはしたくはない。
ならば、立て続けにダメージを与えるか、強力な攻撃で一発で仕留めるか。
それしかないわけだ。
「やられっぱなしで終わるとは思わないことね!」
アンテがさらに酸を生み出した。
とんでもない量だ。
魔力を変換しているのだろうが、無尽蔵にも思えてしまう。
特殊能力全振りという推測が正しければ納得もできる。
「わらわも行くわよ!」
アンテはその酸を全身にまとわせる。
すさまじい量が浮いていたのだが、それがすべてアンテの身体に。
触れるものすべてを溶かす鎧だ。
そのまま突進を開始するアンテ。
なるほど、攻防一体。
強力な攻撃である。
「凍れ!」
アンテが突っ込んでくるのに合わせ、凛が急いで絶対零度の空間を作った。
酸を凍らせて無力化しよう、という魂胆だ。
絶対零度という高威力なので効果範囲は広くないが、確実にアンテを巻き込むことができた。
結論から言うと、うまくいかなかった。
表面をはがしただけにすぎず、パラパラと氷の欠片が散らばるだけだった。
「散れ!」
レミーアの声で、凛もミューラも散開して突進を回避した。
ただ凍らせるだけではうまくはいかない。
あの酸の鎧をはがすのは容易ではなさそうだ。
そして。
避けただけでは終わらなかった。
アンテは、通り過ぎた後に酸の弾丸をばらまいたからだ。
狙いはつけていない。
指先ほどの弾を無数にただ放っただけにすぎない。
狙っていないからこそ脅威だった。
視線や殺気などで射線を読んで予め避けるのではなく。
目で見るなりしてその存在を肌で感じ取り、回避する必要があったからだ。




