三十
「どうやら酸を操る能力に全振りしたようだな」
この威力。
そしてあの量の酸。
これだけでも脅威極まりない。
この分だと、あの大量の酸を手足よりも自由に扱えても不思議ではない。
接近するだけで一苦労となるだろう。
「だから、攻撃が通じたわけですね」
「その代わりに、あの酸……やっぱり、強敵でしたね」
むしろこれくらい厄介であることは覚悟していた。
そんなに甘いはずがない、と。
魔力は高まっているし、宙に浮かぶ酸からも強い魔力を感じる。
しかし。
あれは。
「魔術でも魔法でもないんだ……」
「そうだな」
「そうだと思うわ」
あの酸が出てくるときに何らかの術式の起動は見られなかった。
ただ、魔力が酸に変わったようにしか見えなかった。
「つまりただの特性、特殊能力か」
まあ、魔術だからどうなのか。
魔術でなかったら何か違うのか。
そう聞かれたら、別にそんなことは無い、と答える。
魔術だろうと魔術でなかろうと。
魔法だろうとそうでなかろうと。
やることは変わらない。
あの酸の攻撃をやり過ごして攻撃をして。
あの酸を潜り抜けて攻撃を届けるしかない。
「分かったようね。わらわにできるのはこれだけよ。まあ、このメイスもあるけれど……」
アンテは背中に背負っていた身の丈ほどもあるメイスを担いだ。
見ただけで分かるすさまじい重量だ。
魔力が身体能力にそこまで割り振られなかったアンテではあるが。
それでも、ただの金属の塊程度を片手で枝切れのように振り回すことくらいはたやすいだろう。
「これは見栄えのために持っているにすぎないの。別にいらないのだけどね」
「ああ、箔付けというやつだな」
「そういうこと。全く面倒だわ」
「分かるぞ」
思わぬところで思いが一致した。
レミーアとしても、正直装備品は飾りまである。
無い方が自由が効いていいときがほとんどだ。
杖が無いと満足に思う通りに扱えない、という場面はほとんどない。
使っても使わなくても魔術の質にほぼ変わりはない。
箔付けと見た目、そして魔術師としての存在感のためというのが主な理由だ。
それなりの頻度で使っているのは、せっかく持っているのだから使ってやろうか、くらいの認識でしかない。
使った方が多少なり威力や速度、精度が上がるという一面もあるものの。
片手をふさがれているというデメリットとおおよそトントンといったところだ。
「ふふ。じゃあ、お互いに準備運動を終えたところで、本番といきましょうか」
そうだ。こんなのは互いの手の内をちらりと見せただけに過ぎない。
ここからだ。
今度は凛たちの動きを待たず、アンテから動いた。
周囲に漂わせていた酸のうち半分を一気に固め。
広範囲に噴霧した。
効果的だ。
逃げ場はない。
ならば。
「はっ!」
ここはレミーアの出番だ。
強い風を巻き上げて飛沫を防ぐ。
凛、ミューラ、レミーアは被弾は無い。
無傷だ。
しかし周囲は惨憺たるありさまである。
だが逆にこれでこそ、という感じでもある。
アンテの攻撃なのだから、このくらいの威力があって当然だ。




