二十九
シンプル。
しかし、実に効果的だった。
発射速度が速く、ダメージよりも吹き飛ばして体勢を崩すことを目的にした風魔術だった。
土煙を巻き上げて不可視の弾丸が飛び。
あまりの速さによけきれなかったアンテの全身に衝撃。
土煙が先ほどの氷柱以上の高さに舞い上がった。
ダメージは大したことはない。
しかし、瞬間身体の制御を奪われた。
強制的に作り出されたその隙はさすがにまずい、と思ったアンテだったが、どうしようもない。
この連続攻撃はかなり効果的だった。
相手の力量を測るため、避けはしたが全力では防がなかった。
その結果が、これだ。
「……くくっ」
陽の光を浴びて輝く無数の切っ先。
「いけ!」
凛の号令を契機に、それが一気に動き出す。
速度も速い。
来ると分かっていれば避けるのは難しくはないが、こうして一瞬でも隙を作られてしまったら受けるしかない。
どどどど、と無数の氷柱が降り注いだ。
全弾がアンテに向かったわけではない。
むしろ大部分がアンテの周囲に刺さっている。
逃げ道らしい逃げ道はほとんどない。
これは撃たれる前に範囲内から抜けなければ避けられないものだ。
氷柱の攻撃が終わった。
凛、ミューラ、レミーアの連携による先制攻撃。
それによってどれほどのダメージを与えることができたのか。
砂ぼこりがおさまり、そこから現れたアンテは。
身体のところどころに切り傷や擦り傷ができているが、大きなダメージというか、深い傷は出来ていない。
「ふふふ……あなたたちを選んで良かったわ。わらわが傷を受けたのは何十年ぶりでしょう」
その言葉で、アンテが長寿であることは分かった。
ミューラとレミーアも長命種なので珍しいことではない。
むしろ重要なのは、数十年もの間、傷を負わない程度には強く、敵になる者がいなかったということだろう。
「直撃のはずだけど、やっぱりタフだね」
「そりゃあ……あたしたちの誰よりも強いのだもの」
「むしろこうして傷を与えられることに安堵して良いくらいだな」
その通りである。
まったく攻撃が効かなくてもおかしくなかったのだ。
魔力の強さのレベルであれば相当強いはずの身体能力。
何らかの理由でその基準には達しなかったということだろう。
さて。
となれば気になるのは、アンテの戦闘能力だ。
感じる魔力としては明らかに格上なのに、こうして攻撃が通る。
ということは、だ。
「なら、次はわらわの番ね。行くわよ」
ぶわ、と一気に魔力が凝縮された。
その濃度。
精度。
強度。
どれか一つでも警戒するに値するほどのもの。
一体何が起きるのか。
すると、アンテは身体の周囲に大量の深緑色の液体を生み出した。
そのおどろおどろしい液体の量は尋常ではなく。
身体の周囲、などと言うのがおこがましい量が。
一秒と経たずに生み出された。
「わらわの力は、ほぼコレに集約されていてね」
無造作に手を突っ込み、握りこぶしほどの液体を取り出す。
それをこれまた無造作に、凛、ミューラ、レミーアに向けて放り投げた。
そんなに大した量ではない。
速度も大したことは無い。
だが、凛たちは警戒心MAXで大げさに回避した。
それは、正解だった。
ジュワアア! という音とむせかえる刺激臭と、明らかに身体によくなさそうな白い煙を沸き立たせながら。
半径数メートルに渡り、深さ二メートルほどの穴が出来上がった。
「酸……」
それも、相当に強力な。
大げさに避けておいて正解だった。
直撃は間違ってもできないだろう。
飛沫だって受けられない。
どうにかして避けるか、確実に防ぐかしかない。
街中でなんて戦えはしない。
拳一つでこの威力。
アンテの周りには、数百リットルにもなるだろう酸が揺蕩っている。




