二十七
「やはり、紅い魔物を用意できなかったのは痛いですね」
街中各地で起きている戦闘を眺めながらマルチェロはそうつぶやく。
パリストールでは主力として大量に用意できた紅い魔物。
しかし今回、それは用意できなかった。
理由はシンプルもシンプル。
もう、マルチェロの不手際でもなんでもない。
アンテが嫌がったから。
ただその一点に集約される。
凛、ミューラ、レミーアの気がそがれる要素をなるべく入れたくない。
そういった発言をアンテがしていたからだ。
彼女は決して、マルチェロに「紅い魔物を出すな」とは言っていない。
そのことを彼女のせいにしたところで、アンテには「私はやめろとは言ってないでしょう」と突っぱねられるだけだろう。
「実質上、飲むしかありませんでしたからね……」
そうごちた彼の言葉は本音だ。
確かに紅い魔物を用意出来れば、勝ちの目はかなりいいところまでいく。
だが。
そう、だが。
それでアンテのやる気が減ってしまったら、そちらの方が紅い魔物を用意できないことよりも数十倍痛い。
もう耳にタコができるほど自分に言い聞かせたのだが、マルチェロの最大戦力はアンテなのだ。
彼女が気分よく戦いに赴いてくれることこそが最大の勝機。
そして、凛、ミューラ、レミーアに実力を完全に発揮してもらい、そのうえでアンテに気持ちよく勝ってもらうこと。
それこそが、マルチェロが立てた作戦の肝。
作戦ともいえない、頭脳派が聞いてあきれるものだが、これが一番確度が高いと思ったのだから仕方あるまい。
それに。
「気持ちよく戦えて勝てた暁には、一気にケリをつけてくれると約束してくれましたしね」
あれで割と義理堅いところがあるアンテ。
必死に彼女の要望を叶えることに尽力したマルチェロの願いを叶えてくれる公算はかなり高いと踏んでいた。
唯一の不安要素はなくはない。
そう、太一だ。
召喚術師がドナゴ火山から出てきていないのが気になるが、そこはもう考えても仕方がない。
彼の手札ではどうにもならない相手である以上、そこは一切考慮しない作戦になっている。
下山してきたら負けだ。
何をしようとも関係ない。
「かの少年がいないうちにケリがつくのがいいですね」
勝っても負けても。
勝負は時の運。
マルチェロはやれることをすべてやった。
完璧には出来なかったのは間違いない。
だが、そこに後悔はない。
何事も、手持ちの札でどうにかするしかないのだ。
「読み勝つか、押し切られるかです」
マルチェロが用意した数多くの魔物。
そして、それを現地で率いる部下たち。
戦闘の最初から気が散るわけじゃないから構わない、とアンテから許可をもらった手だ。
どうなるのか。
予想通りに進むのか。
予想が外れるのか。
想定外のことが起きるのか。
あるいは何もかもうまくいかないのか。
マルチェロには分からない。
力及ばぬ時は、無能のそしりを甘んじて受けよう。
「さあ、頼みますよ、アンテさん」
街の外で激しい戦いを繰り広げているアンテに、マルチェロはすべて託した。
やはり最大限期待できるのはアンテだからだ。




