二十五
そのまま屋根の上をひょいひょいと軽やかに跳んで、城壁を軽々跳び越えて街の外へ。
「このあたりでいいのではないかしら」
さらに街からそれなりの速度で五分ほど移動したところでアンテは停止した。
それなりの距離が離れている。
ここなら、全力を出しても街への被害は生まれまい。
「そうだな、ここまでくればじゅうぶんであろう」
レミーアも納得の戦場である。
このアンテには、温存とか周囲への配慮はしていられない、というのは先ほど語った通り。
やはり思い切り戦える場所というのはいい。
場所は整った。
「よろしい、では楽しませてもらいましょう」
構えるアンテ。
凛、ミューラ、レミーアも戦闘態勢に移行する。
だがその前に。
浮かんだ疑問は、解消しておきたかった。
「一つ疑問なんだけど」
凛の問いに、アンテは「ああ」と得心したようにうなずいた。
「抜かりなどないわ。わらわを倒さない限り、到達できないようにしているもの」
「そう甘いわけがないわよね」
「そういうことよ」
まあ、相手は自分たちより格上だ。
その程度のことはやってのけても不思議ではない。
じゃあ――やりましょうか。
そう言外に告げて。
アンテは一気に魔力を高め、凝縮した。
聖都ギルグラッドの命運をかけた戦いへ。
いざ。
尋常に。
「ようこそいらっしゃいました」
同時刻。
シャルロットは護衛の騎士に守られて、聖騎士の基地に到着していた。
今のところ街に危険は来ていないように感じる。
そこには第一騎士団の団長が待機していた。
王女を出迎える準備は出来ていたわけだ。
ただし。
今はすでに非常時。
出迎えた団長はもちろん戦闘態勢だし、他の聖騎士は出陣に向けてあわただしく動いていた。
「せわしないのですが、そこはご了承いただきたく」
と頭を下げる団長に、シャルロットは首を振る。
「いいえ。この状況では仕方がありません。わたくしを気にせず、準備にいそしんでいただければ」
「寛大なお言葉、ありがとうございます」
気になどするはずがない。
むしろこの状況で。
アンテという巨大な戦力が戦闘態勢で動き出したこの状況で。
いつも通りの動きでは逆に不安になるというものだ。
治安自治、そして防衛を行う武力を持つ者が、有事の際に即座に動き出す。
そのことがどれだけ大切か、曲がりなりにも王女であるシャルロットが分からないはずがない。
自国であっても、もしも有事ならば王女が来た程度では動きは止まらないし、むしろ今は邪魔だと非常に遠回しな表現をされて追い出されるまである。
そうでなくては困る。
今シャルロットが部下を連れてここにいるのは、それこそ緊急事態で、自分の地位と相手の立場を鑑みた結果のことだ。
「それでは、わたくしの方は、この瞬間をもって指揮をこのテスランに預けます」
「殿下よりご紹介賜りましたテスランと申します。我々としては、基本そちらの意向に従うつもりでおります」
「承知しました。殿下の御命は、我が聖騎士団が誇りにかけてお守り申し上げます」
「ありがとうございます。では、さっそく簡単な打ち合わせを――」
その場で第一聖騎士団団長とテスランが会話を始める。
いちいち会議室に行くまでもない。
この話が終わったら即運用される、簡単な行動方針だからだ。
そんなものを隠す必要はない。
どころか、多少なり周囲が聞いている方がありがたいというわけだ。
その話はすぐに終わる。
細かく決める必要も無ければ暇もないからだ。
そして今決めるべき最低限のことの合意が取れた時。




