二十
「本当にあるのかねぇ」
聖騎士たちは、地下に張り巡らされている下水道を調べていた。
特別取り上げてはこなかったが、ある程度以上の規模を誇る街には下水道があるのが普通だ。
都市全域に張り巡らされているわけではないが、それでも首都ともなれば大部分をカバーできていることがほとんどとなる。
下水道は、冒険者ギルドで依頼を受けた冒険者が、まず初めに重点的に探索を実施して何も無いことは報告が上がっている。
しかし、だからといって聖騎士が見ない理由にはならない。
人間がやることなので、見落としがあってもおかしくはない。
だからこそ、聖騎士がすでに見たところも、冒険者にも調べてもらっているのだ。
聖騎士が見落とす可能性を考えてのことである。
見落とすことが悪いのではない。
見落としをフォローしないのが良くない。
「どうだろうな。結構優秀なレンジャーやスカウトがくまなく見たっていうからな」
「彼らが優秀であることは認めるが、とはいえ完璧ではないぞ」
「そりゃそうだろうねぇ。僕らだって完璧を求められたら苦しい」
ミスをゼロにするなんて現実的ではない。
ミスが無い方がいいのは否定しないけれども、きわめて実現は難しい。
人に完璧を求めると、逆に人から完璧を求められて苦しくなるのだ。
ならばこそ、人は間違えるもの、という前提のもと、どのようにカバーするか、が運用の肝である。
「我らとて完全ではない。だからこそ我らのフォローを冒険者が、冒険者のフォローを我々ができるのが良い」
「そうですね」
「さあ、おしゃべりもいいがちゃんと見ているな?」
「もちろんです」
「冒険者たちに使えないと言われたくはないですからね」
小隊長の言葉に、聖騎士たちは胸を張ってそう答えた。
彼らとて精鋭。
そうでなければなれないのが聖騎士。
多少のおしゃべりをしながらでも、周囲への注意は一切怠っていないし、隅々まで目を光らせている。
ともあれ、下水道に入って結構経っているが、今のところ成果は無い。
小隊長もその辺は疑っていないようで、彼らの返事にひとつ頷いただけだった。
聖騎士たちは粛々と調査を続けていく。
手がかりがあろうとなかろうと。念入りに、慎重に。
そのような光景は、聖都ギルグラッドのいたるところで見られた。
こちらは住宅が密集している区画。
男二人女二人の冒険者たちは、住宅街に存在している怪しい場所を調べていた。
聞き込みをしたり、裏路地をくまなく歩いたり、空き家を調べたり。
そんな中、捨て置けない情報を聞くことになった。
ある家の住人の姿をしばらく見ていないというのだ。
「怪しいな」
「そうね」
「その場所がどこか分かるか?」
「ああ、そこの一つ先の角を曲がったところにある、屋根が青色の一軒家だよ。不審といやあ不審だし、怪しいといやあ怪しいから、どうかと思ってね」
これだ。
こういう見落としがあるから、同じところを調査するのも意味がある。
この地区は聖騎士も調べたし、冒険者ギルドも調べた。
その二回とも真剣に調査をしたのは間違いあるまい。
しかしそうであっても見落としが発生した。
だからこそ、何度も同じところをチェックするのがいいということだ。
「聖騎士様とかが来たりもしたんだけどさ、どうしてもタイミングが合わなかったりして伝えられなかったんだよねぇ。でもあんたたちみたいに頻繁に調査に来てくれて助かったよ。夫婦二人とも毎日顔を見てたのに急に姿を見なくなっちまってねぇ。本当に心配なんだけど、この状況だろう? そうじゃなかったら踏み込んでたんだけど、なんだかどうにも恐ろしくてねぇ。あたしだけじゃなくて他のもそうさ。うちのも肝っ玉小さくびびっちゃってんだけど、さすがに責められなくてね。それでねぇ――」
怒涛のおしゃべり。
ここは多少しゃべらせて満足させるのがいいと思ったので少しそのままにさせた。
しかし、得られた情報は有力だ。
調べるに値する。
「確かに怪しいですね。行ってみましょう」
冒険者パーティのリーダーである女が、初老の夫人の言葉をさりげなく遮った。
「そうかい? あんたたちみたいなプロにやってくれると助かるよ。じゃあ、頼んだよ!」
夫人は忙しいのか早足で去っていった。
これが実にうまい。
冒険者たちの自尊心もくすぐっていったのだから。
「……ここですね」
その家はすぐに分かった。
扉をノックしてみるが、反応は無い。
もっと強く、騒音にも感じるほどに叩いてみるが、リアクションは無かった。
冒険者たちは顔を見合わせて頷き、ドアノブを回してみる。
開かない。
ここは強行突破だ。
「よし、どけ」
パーティのアタッカーの男が、得物であるバトルアックスを振りぬいて、木の扉を粉砕した。




