十三話
「……」
ドナゴ火山山頂からだと紫色のドームに包まれていく様がはっきりと見えた。
おそらくはあのドームが、ロドラが言っていた策だろう。
ドームは一気に広がり、ドナゴ火山のふもとまで飲み込む大きさ。
だが、あの紫のドームに対して太一ができることはない。
太一は太一で、やることがあった。
「よそ見とは余裕じゃないか」
サラマンダーから放たれるのは火炎放射。
「ちっ!」
太一はそれを、同じく炎で迎撃した。
炎同士はぶつかり合い、わずかに押した。
「あっ、やべ!」
押してしまった(・・・・・・・)。
「失敗だな」
「あー、またかぁ」
太一はその場に座り込んだ。
これで一七回目の失敗である。
課せられた最初の試練は、サラマンダーが放つ様々な威力の炎を、押すことも押されることもなく一〇連続で相殺すること。
その試練に際し、火の魔法を扱う権利を、サラマンダーから臨時で貸し与えられている。
火山の火口にて生き延びるための術は変わらず行使しても構わないが、相殺のために使えるのは、貸与された火の魔法のみ。
つまるところ、精霊によるアシストが無い状態で魔法をコントロールしてみせよ、ということだ。
一貫してシルフィたちからの助言は無い。
この試練が太一がより強くなるためのもので、太一自身が強くなりたいと願っているからこその、いわゆる愛の鞭だ。
やることは自体は非常にシンプルな試練である。
ただ、シンプルだから簡単なわけではない。
いかに自分が、シルフィ、ミィ、ディーネに助けてもらっていたのか、それを改めて痛感している。
その助力を得られることも、太一の力だ。
ただその助力があることが当たり前だと思ってはいけない。
自分でもできるにこしたことはないのだ。
こうして自分でやってみると、大精霊の調整力の高さと、ひるがえって太一の未熟さが大きく浮き彫りになっていた。
「どうした。試練はこれひとつではないが、そんなに楽しいか」
そんなわけはない。
ひねりのない煽りだが、返す言葉が無かった。
実に二〇回近くの失敗を積み上げている今では、何を言っても力などない。
「大事なことだ。特に、今のお前にとってはな。そうだろ?」
その通り。
大切なことだ。
だから、こうして挑み続けている。
つい先日。
太一は、自分の力のなさを思い知ったばかりだ。
かろうじて互角だった。
同条件なら、負けていた。
その差を詰めるにはどうするか。
こうした地道な修行こそが大切だろう。
これまでも魔力操作の鍛錬について、欠かしてきたことはない。
「けど、それじゃあ足りなかった……」
最大効率で完ぺきな鍛錬を積んでいたのなら、この試練に苦労することなどなかっただろう。
サラマンダーは手を変え品を変え様々な炎を様々な威力で撃つ。
直前には、大きな火球の塊ひとつを作らされたかと思えば、次は無数の小さな火の矢で、その次には三本の槍。かと思えば火炎放射。
これは直前に失敗した試練のメニュー。感覚のアジャストが出来なければ即失敗してしまうようなラインナップである。
同じことをしていてはまず相殺という土俵には立たせてくれない。
しかしそう時間はかけていられない。
この試験をはやくクリアして、次の段階に進まなければならないのだから。
「心配するな。街の方はまだ手遅れじゃない。まだな」
「……」
まだ手遅れじゃない。
被害自体は出ているということだろう。
ならばきっと、凛たちも対応に当たっているはずだ。
それでも、被害をゼロにできないこと自体は仕方がない。
サラマンダーから「もうダメだ」と言われる前に、終わらせなければ。




