十二話
「うむ。よくやっているようだな」
凛もミューラも、順調に魔物を屠っている。
ひとまず周辺の掃討は順調、と言っていいだろう。
レミーアは、踏みつけていた魔物の頭を蹴り飛ばし、別の魔物にぶつけて転がした。
今しがた踏みつけていたのは、先ほど風の刃で無造作に撥ね飛ばした紅いオークの頭である。
後方のシャルロット一行を凛に任せ、飛び出したのは正解だった。
それによってここら一帯の魔物は加速度的に数を減らしている。
「さて……厄介な真似をしてくれる」
今すぐにでも領主の館に進みたいところだが、そうもいかない。
風の精霊の力で広範囲をざっと探ったところ、街のそこかしこに魔物がはびこっている。
「この紫色の妙な結界。この内側には、魔物があふれかえっていると考えた方がいいな」
くさい臭いを元から断つのは絶対に必要だ。
判断基準としては、魔物をいくら倒しても減った気がしない、もしくは都度補充されている。
それが分かった時点で、ジョバンニのところに向かうべきだろう。
ただし、もしも補充が無いのならば。
「減らすことに、意味はあるからな」
レミーアは杖を地面に突き立てる。
「リンもミューラもやってくれるな。私がやらぬわけにはいかないだろうが」
弟子二人の奮闘は、遠く離れたここでもよく伝わってきた。
それほどの魔力だったのだ。
師匠であるレミーアが、奮起しないと顔向けができない。
既に、レミーアの周囲に巻き上がる風は、もはや竜巻と呼べるまでに育っていた。
これならばいいだろう。
後は……。
標的を定めるだけ。
「行け」
狙いについては、風の精霊の探査能力を借りて、広範囲まで知覚の手を伸ばしていく。
太一ほどの察知能力は無いが、かつてのレミーアとは比較にならないほどの精度と範囲になった。
「……ふう」
そこそこ魔力を消費した。
「やはり、残ったか」
だが、やはりというべきか。
物事はそうそううまくは運んでくれないものだ。
くるりと振り返る。
そこには、レッドオーガの威容。
皮膚にはいくつもの切り傷がついている。
レミーアがある程度攻撃を割り振ったからだ。
だが五体満足。
「あの時のヤツではないが、借りを返させてもらおう」
足を踏み出したレッドオーガに、レミーアは正対して杖を構えた。
レッドオーガは怒りのうなり声をあげた。
自身が圧倒的強者であると本能で自覚するレッドオーガは、弱者が弱者らしくしないのが許せなかった。
「私が気に食わぬか」
レミーアは口の端をあげる。
「ごらぁ!」
レッドオーガが、近場に生えていた街路樹を引っこ抜き、投げつけてきた。
怒りに我を忘れたか、殴りかかるのですらなかった。
樹木を風で受け止め、横に放り投げる。
ゴトリと大きな音が響いた。
巨大な木を難なくいなされたことでレッドオーガはついにしびれを切らしたようだ。
「ぐがががが!!」
直接ひねりつぶそうとレミーアにつかみかかろうとしていた。
「最初からそうすればよいものを」
速い。
確かに速い。
だが、遅い。
「ふっ」
風の強化。
一言で表すなら、速度の異常強化。
風の一陣。
それが、レッドオーガの首筋を撫でる。
レミーアはふわりと着地した。
先ほどまで立っていたところから、一足飛びで一〇〇メートル以上移動していた。
レッドオーガの丸太よりも太い、分厚い筋肉で覆われた首が八割以上裂ける。
「け?」
今わの際の言葉はそれだった。
首から盛大に血を噴き出し、その巨体は地面に沈んだ。
「なかなかのものだ」
これまでと比較して、体感で三倍から四倍の速度アップというところか。
あくまでも瞬間的なものだが。
さらに、手にはやした風の刃の切れ味も、レッドオーガを一撃で死に至らしめるまでに鋭くすることも成功した。
いい収穫だった。
引き続き魔物の駆除を続けながら、レミーアは改めてそう決意するのだった。




