十一話
鋭い剣閃が一条。
中空に光の糸を引く。
それに引き裂かれ、魔物が真っ二つになって崩れ落ちた。
「うん、だいぶ違うわね」
格段のレベルアップ。
一年前とは文字通り桁が違う。
「……それと比べても、これはちょっと言葉では言い表せないわね」
太一が見ている世界に片足を突っ込んでいる――
それは、ミューラが感じていることだ。
ふと振り返りながら、指先に作った小さな石の弾丸を放つ。
それは精霊魔術ではなく、普通の、いつもの魔術だ。
後方から迫っていたリザードマンの三又の槍をはじいてかちあげた。
紅の魔物でないなら、普通の魔術でも十分通用する。
武器を跳ね上げられたリザードマンは無防備。
そこを見逃す理由も意味もない。
ただ、一閃。
精霊魔術による強化を施したミューラのスピードは、リザードマンでは視認するどころか、始動を察知することさえできない。
そのまま首を撥ね飛ばされ、その命の炎は消え去った。
「……来たわね」
ようやく近づいてきた、大物の気配――
ミューラはくるりと振り返る。
ミューラが察知した大物の気配。
間違いなく、これまで戦ってきた魔物たちよりもレベルが高い。
やがて、姿を現した。
「レッドオーガ……!」
オーガ。
筋肉の鎧に覆われた体躯。特殊能力などない。ただただ、突出した強靭な力を頼りに敵を真っ向から粉砕する魔物。
少なくともゴブリンやオーク以上の知能を持ち合わせており、それなりに頭も回る。
それが紅に染まったオーガ。
かつてアズパイアで猛威を奮い、師であるレミーアですら倒せなかった魔物だ。
「行くわよ」
レッドオーガからの放たれる押しつぶすような視線を受けて、ミューラは左半身を後ろに半身になり、切っ先をぴたりとレッドオーガに向けた。
これだけ離れていてこの威容。
かつてのミューラでは、勝てなかっただろう。
だが今ならばどうか。
新たな力を手に入れた、今ならば。
そのまま地を蹴り、一気にレッドオーガに向かって突進する。
そのスピードは、本日最速。
レッドオーガはやはり強い。
ミューラのその動きも、かろうじて目で追えているようだった。
ただし、身体の方はついてこれていなかったが。
迎撃のために放たれた拳は、明らかにミューラを捉えられるタイミングではなかった。
「ふっ!」
拳の打ち下ろしを紙一重でかわし、すり抜けざま肘に剣を突き立て、移動速度に任せて上腕に向けて切り裂いた。
「ぐぎあ!?」
レッドオーガの悲鳴が、吹き上がる鮮血とリンクする。
かつては最大威力の魔術剣でさえ傷ひとつつけられなかったレッドオーガに。
今はただの斬撃でダメージを与えることができた。
劇的な進歩。
そして得られた大きな手ごたえ。
一人で、狩れる――
そう。
狩る、だ。
それは対象を上から見下ろす言葉。
ミューラは振り返りざま、炎を剣にまとわせた。
レッドオーガの、首が飛ぶ。
一撃。
それなりに力を使ったものの。
かなりの脅威となるレッドオーガを一撃で倒せるのならば。
それは、間違いなくお釣りが来る成果であった。




