十話
走り出したのはレミーアとミューラ。
一方、凛は紅の魔物を見かけた瞬間に足を止めた。
『ファイアアロー』
走って現場に急行する二人を追い越すように、凛が炎の矢を投げる。
かなりの力を込めた攻撃。
それは一撃でレッドゴブリンを貫き、さらにその後方にいた紅のリザードマンの左足を吹き飛ばして消えた。
威力が上がっている。
今撃ったのは魔術で、精霊によるブーストも無い。
これはひとえに、魔力の運用が巧みになったということだろう。
魔力量と魔力強度は変わっていない。
それで威力が上がったということは、魔術に対してより適切に魔力を扱えたということ。
二匹の戦闘力を奪っただけなのでこれで止まるわけにはいかない。
凛は素早く周囲を見渡す。
(数が、多い!)
尋常ではない数いる紅の魔物。
そこかしこから聞こえる悲鳴と怒号、壁が破られ物が砕かれる音。
一体一体やっている暇はない。
(状況は、終盤と思った方がいい!)
こんな街のど真ん中で紅の魔物が暴れている現状。
ただ目に付く魔物を倒して、焼け石に水をかけるのか。
それとも、焼け石を丸ごと凍らせるのか。
選ぶなら、当然後者。
(アヴァランティナ……!)
凛の周りを、凍える魔力が渦を巻く。
それを両手でぐぐぐ、と握る。
自身が操るよりもはるかに大規模な力の奔流に、圧縮するのに膨大な力が必要だった。
「う……くっ!」
これだけの威力は、精霊魔術を扱い始めてから初めて発揮するかもしれない。
『フリージングランス』
握りしめた両手を開きながら空に掲げる。
青白い一粒の力がはじけた。
そして現れたのは、都合一〇〇発の氷の矢。
その一発一発が、凛がかつて奥の手としていた『電磁加速砲』をはじめとした高火力魔術をわずかにだが上回る程。
かなり力を分散したのでレッドオーガクラスの相手には何発撃ち込もうと効果は無いだろうが、幸い近場にいる敵はそこまでの強さは持たない。
凛はそれを維持しながら、周辺の魔物のおおまかな居場所を観察する。
見敵必殺。
見つけ次第、氷の矢を放ちながら歩き始めた。
その破壊力は相当なもので、ほぼ一撃で仕留めることができている。
ある程度はアヴァランティナが照準補正のオマケをしてくれるが、基本的に自分で狙わなければならない。
一度に一〇〇の敵を狙うような真似はできないので、一体から三体を倒していく。
「数が、多い……!」
この街に来なければ、この術式は発動しなかったのだろうか。
これほど入念に準備していたということは、太一の狙いからこの街に来る必要性を、理解していたということだろう。
では、来ないという選択肢はあったのか。
答えは否である。
「そこ!」
角からこちらに出てこようとしていた魔物を、先んじて仕留める。
地面に倒れ伏したのを気配だけで感じ取り、凛は更なる獲物を求めて探知の手を広げる。
このあたりはもはや作業なので、そうしながら別のことを考えるのも難しいことではない。
凛の思考はやがて、自分たちのことから敵のことにシフトしていった。
この術式は一体何なのだろうか。
紫の膜が拡がったら、一気に魔物が街中にあふれた。
とんでもない。ずいぶんと思い切ったことをするものだ。
自分たちの被害も辞さない、という敵の強い覚悟も感じ取れてしまう。
そんなものと向き合わされるとはつくづく勘弁してほしいものである。
後先を考えない相手は本当に恐ろしいし、自分たちでやろうとすると手間取ってしまう。
今から考えるだけでもおっくうになってしまう。
ただ……今はそれに思いを馳せ、考えをめぐらせている場合ではない。
どうにかして敵を減らし、街の被害を減らさなくてはならないのだから。




