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異世界チート魔術師(マジシャン)  作者: 内田健
七章 再会・試練・罠

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九話

 その変化に気付いたのは誰が最初だったか。

 ブゥン――という音が、凛の耳に届いた気がした。

 建物の壁を透過し、紫色の膜が拡がっていく。

 これが何か。

 それを問う必要は無かった。

「これが、例の……」

「おそらくはな」

 凛が思わずつぶやいた言葉に、レミーアが同意した。

 返事を求めてのものではなかったが、それはレミーアも同じだろう。

 何が起きるかは分からなかったが、何かが起きることは分かっていた。

 その心構えが出来ていた以上、それが起きたことそのものについて驚くことはない。

 凛はおもむろに窓から街を見た。

 わずかに届いていたのは、町人たちの動揺する声。

 仕方のないことだ。

 心の準備ができていないのだから。

「始まりましたね」

 シャルロットがそう言って立ち上がった。

 そうだ。

 太一がサラマンダーと契約するため、というのがクエルタ聖教国に来た主目的である。

 そのさなか、こうして喧嘩を売られたのならば、言い値で買い取ってやろうというのだ。

「さて、まずは色々とすべきことをせねばな」

 敵が行動を起こした場合、指揮権はレミーアに渡ることになっていた。

 経験値と実力、カリスマ性。そのどれをとってもふさわしいとはシャルロットの言。

「よし、まずは出るとしようか」

 ひとところにとどまっているのは危険。

 そして、シャルロットたちを残して動くのも危険。

 レミーアはそう判断した。

 当然ながら、戦闘が発生した場合凛たちのいる場所がもっともはげしい戦場になる。

 それは承知しているものの、ではこの宿に残しておくのが正解なのかと言われれば疑問は残る。

 この術式がかなり広範囲に広がったことを考えれば、恐らく街ごと巻き込むものと思われる。

「かしこまりました。まいりますよ」

「はっ。御身は、この身命を賭しても」

「……ええ、頼みますね」

 命に代えても守る。

 そう言われたシャルロットは、返事をするのにわずかに時間がかかった。

 彼女としては、連れてきた者たちに死んでほしくは無いのだろう。

 だが、そんな甘いものでないことも同時に理解している。

 そして何より、騎士たちのお役目は王族の盾になること。

 自分の命ひとつで、王族に迫る凶刃を防げるのならば喜んでその身を投げ出す。

 そういった者のみが騎士になれるのだ。

 よってシャルロットは彼らの心意気を飲み込んでいた。

 返事に要した間は、飲み込むために必要な時間だったのだろう。

 レミーアについて外に出ると、より濃密な、得体の知れない何かを感じた。

「……なんともいえない、気持ち悪さを感じるわね」

 ミューラは少々顔をしかめ、周囲を見渡した。

 その感想に、凛も同意だ。

 なんといえばいいのか、ざらついたような、ぬめっとしたような、じめっとしたような。

 そんな人を不快にさせるような空気を足して割ったような空気だ。

「ふむ、魔力は問題なく使えるようだな」

 レミーアが右手に力を込めている。

 そこに渦巻く魔力の強さはかなりのもので、彼女の突出した実力は横にいるだけで伝わる。

「何かいるかな……」

 凛はソナー魔術を使い、周辺を探査する。

 ひとしきり探ったが、この周辺には人しかいないようだ。

 その誰もが慌てふためいているのが分かる。

「騎士様!? お助けください!」

 ところで、凛の周辺には二〇以上の人員がいる。

 凛、ミューラ、レミーア。

 シャルロット、アルセナ、テスラン、ティルメア。

 シャルロットの護衛一五名。

 騎士がそれだけ集まっていたら、勘違いしてもおかしくはなかった。

 それに加えてこの異常事態だ。

 すがってきても別に何も不思議ではない。

「ご婦人、外は今異常が起きている。自宅に戻り、この妙なものが見えなくなるまで、自宅で待つがよかろう」

「ああ、ありがとうございます……!」

 話しかけてきた夫人は、騎士の一人からの言葉を受けて、早足で去っていった。

 騎士の言う通り、家にこもるのだろう。

 そこが確実に安全であるとは断言できないが、外をうろうろしているよりはよほどいい。

 さて、一刻もはやく、この紫の膜によって何が起きているかを把握しなければならない。

「ミューラ」

「はい」

「私とお前で、探ってみるぞ」

 凛のソナー魔術で何も反応が無いとなれば、次は精霊魔術の出番だ。

 とはいえ、さすがに探索を行うには、それよりもさらに優れる手段をとるのが効果的だ。

 ミューラもレミーアも、凛の探査魔術よりもよほど強力な手札を持っている。

 もっともまだ修行中であるため、詳しい探査はきないのだが。

 ただ、その範囲は凛のソナー魔術は比較にならないので、一概に比べるのは間違っているともいえるだろう。

 レミーアとミューラが探査を始めて一〇数秒。

 先に見つけたのはレミーアだった。

「何かいるな」

「えっと……」

 果して何がいるのか。

 少し遅れて、ミューラもレミーアの言葉から探査範囲を絞り、レミーアが見つけたという先に向かって探査魔術を放つ。

「……!」

 それから少しして、ミューラも見つけたようだ。

 どうやら、ここでたちだどまっていたのを間違えられたのだろう。

 そう指さした先は、目抜き通りの人通りが激しい巨大な道だ。

 果たして何がいるのか。

 シャルロットの許可を得たので、一行はそちらに向かう。

 そうしてしばらく歩くと……。

「あそこだな」

 そう言い残し走り出したレミーアの声は非常に深刻だった。

 それを疑問に思う暇もなくミューラもその後に続く。

 二人がトップスピードで走り出した理由はすぐに分かった。

 たどり着いたのは街の中央、目抜き通りが交差する大広場だ。

 そこには、かつて見た紅の魔物がいた。

 それも一体だけではなく、無数に。

 そうではない魔物もいるにはいるが、どうしても紅の魔物の方が目立ってしまう。

 当然ではある。

 戦ったことがあるのだ。

 あの魔物が、普通の魔物とは一線を画す強さを誇っていることは、嫌というほど知っているのだから。

「あれは……!」

 そう、かつてのアズパイア防衛戦で見かけた紅の魔物。

 それが複数存在していたのだ。

 その物量は、当時見た数よりもはるかに上。

 かなり危険だ。

 とんでもない、と断言してもいい。

 そして敵の手段もはっきりした。

 これだけとは限らないが、少なくともひとつは分かったわけだ。

「やつめ、私たちを攻撃するためなら、街はどうなってもいい、ということだな」

 それ以外に考えられない。

 あの紅の魔物は、ただのゴブリンを、上級ランクの冒険者でなければまともに討伐できないだろう強さまで大幅にパワーアップさせるもの。

 それを、こんな街中で無数に放つなど。

「はやく駆除せねば……!」

 シャルロットが切羽詰まった声で言う。

 それはその通りだ。

 こんなもの、放っておくわけにはいかない。

「うむ、シャルロットの言う通りだ。では、速やかに駆除を始めよう」

 非常に強かった記憶が、凛の頭にはある。

 だがそれは、過去の話。

 今の凛ならどうか。

 一年前の自分と比べて、今の自分はどう変化したか。

 それを見るにはいい機会でもあった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 召喚師としてのタイチに精霊は「契約して欲しくて仕方がない」みたいな話だった気がするけど、いつの間にか「契約してやらん事も無い」的な立ち位置に? この先必要だから試練受けるけどそうでなければ「…
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