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異世界チート魔術師(マジシャン)  作者: 内田健
六章 表と裏

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十九話

 神殿に入ると、すぐさま階段があった。

 やはり自然物ではない。

 明らかに何者かが創り上げたものだ。

 しばらく登っていくと、広間があり、奥には巨大な扉が見える。

 入り口といい、階段といい、そしてこの広間と扉といい。

「どうやら、神話に語り継がれたことは当たらずとも遠からず、といったところだな」

 周囲を見渡し、しゃがみ込んで床を見つめながらレミーアは言った。

 まず普通の神経をしていたら、こんなところに神殿を建てようなどとは思わない。

 建てるだけなら、時間さえあればできなくもない。

 ただ、そのための準備を考えるだけでめまいがしそうだった。

 神殿をここに建てるのならば、まずその前に滞在する拠点を作る必要がある。

 日帰りで建築できるわけがないからだ。

 この寒さに耐えられるよう拠点を構築せねばならない上、気を付けなければならないのはそれだけではない。

 かかるコストとかける命を天秤に賭けたら、ここに神殿を建てる、なんて選択はしないのが当たり前なのだから。

「見事なものだわ」

 壁も、床も、天井も、階段も。

 人の手で作られたにしてはあまりにも質がいい。

 それはミューラ達も同感である。

「この材質なんだろうね?」

 見た目はのっぺりとした灰色でコンクリートのようにも見えるが、どうやら違う様子だ。

 軽くノックすると、まるで金属を叩いたかのような音がする。

「ミィ、これ何か分かるか?」

 その様子を見ていた太一は、土の精霊に問いかけてみる。

 何で出来てるのか太一も判断ができない。

 しかし土の精霊ならば。

「これは……」

 ミィは壁に手を付けて少し考える。

「どうだ? なんかわかったか?」

「うん……分かったけど、ボクの口から答えるのはちょっと、ね」

「?」

 ミィの歯切れが悪い。

 何を気にしているのか。

 ミィは壁から手を離すと、真っ黒な扉をに向けて指をさした。

「あの先。行ってみるといいよ。そしたら、分かると思う」

「あの先か……」

 太一はそちらに目を向けた。

 やはり気になるのはあの扉である。

「ただではいけないから気を付けてね」

「やっぱりか」

「やっぱりだよ」

 そんなことだろうとは思っていた。

 ここでミィがそう言う、ということは、何かしらの力試しのようなことが行われるのだろう。

 ミィは分かっているようだが、内容は口にしなかった。

 乗り越えることに意味があるのは当然。

 何があるのか、攻略情報を知っていてはうまくいかないかもしれない、ということなのかもしれない。

「よし、やるか」

 太一は拳を掌にぶつけた。

 ここまで来て挑戦しない手はない。

 ミィがそう言ったことに意味があるのだ。

 ミィの言葉を聞いていた凛、ミューラ、レミーアも意志は決まったようだ。

「やらぬ理由はないな」

 そう、その通りだ。

 精霊が関わっている以上、精霊魔術師としてここは引けない。

「じゃあ、始めるぞ?」

 太一が扉に触れる。

 すると、ずっと静かに鎮座していた扉が輝く。

 太一は数歩後ずさる。

 何かが現れるだろうと予想し、スペースを空けたのだ。

 太一としては、これから行われるのは試練の戦闘であり、敵との戦闘ではない、という認識だ。

 ならば、よーいドンで始まってもいい気がしていた。

 扉からぬう、と影がしみだしてくる。

 その大きさは人と同じくらい。

 だが、真っ黒な影がただ人の形をとっただけとしか思えないのっぺりとした造形。

 見た目だけでいうなら全く持って強そうには見えない。

 だが。

「油断するでないぞ、リン、ミューラ。タイチのように余裕な態度ではいられんからな」

「はい」

「分かっています」

 精霊が関わる試練。言わずもがな、つい最近精霊と契約した三人にとっては非常に大きな意味を持つ。

 黒い影はよたよたと歩き始める。

 よーいドン、ではないが、相手が現れた瞬間に攻撃を仕掛けてはいないし、向こうも登場後に奇襲をしてこなかった。

 合図などないが、同時に戦闘を開始した、といっていいだろう。

 黒い影はふらりふらりと右へ左へと動きながら、向かった先は距離が一番近かったミューラの元へ。

 前衛として最前列に立っていた彼女を選んだのだろう。

 特に意味はなさそうだ。

 フォームなど何もなく、ただ振りおろすだけの腕。

 ミューラは剣を合わせて……。

「ぐっ……!」

 ミシミシと悲鳴を上げる剣。

 重い手応え。

 つきそうになる膝。

 ミューラはとっさに刃の上を滑らせて逸らし、一足飛びに後退した。

 見た目には想像もつかないすさまじいパワー。

 相手に「技」がなかったからいいようなものの、これで身体を動かす戦い方に精通していたとしたら危うかった。

 今の一撃で、ミューラは戦闘不能になっていたかもしれない。

「……『精霊魔術、身体強化!』」

 後のこととか、温存とか、そういったことが、一瞬で頭の中から吹き飛んだ。

 出し惜しみしてのらりくらりとやって、倒せる相手ではない。

 ミューラの対応で凛とレミーアの緊張が一気に上がる。

 太一ももちろん、傍観して終わるつもりは無い。

「力が強いのか! どんなもんだ!?」

 おもむろに接近すると、拳を突き出す。

 すると、それまでの緩慢な動きが嘘のような機敏な動作で拳を突いてきた。

 炸裂音。

 太一と黒い影の双方が弾き出された。

「……?」

 ざざ、と地面を滑って止まる。

 太一は自身の手のひらをまじまじとみつめた。

 明らかにミューラを攻撃した時とはパワーが違っていた。

 ミューラが一瞬でも耐えられる程度の力ではどうあっても抗いきれない力で殴りつけたはずなのに、太一にも拮抗した。

『氷河瀑布!』

 牽制のため、凛が氷の大波を放った。

 今のやり取りで理解した。生中な攻撃では何の意味も持たない。

 これで、違和感の正体、そのヒントが得られるかもしれない。

 そのための攻撃。

 まったく効かない、そう思って撃ったはずだったのに。

 黒い影は凛の狙い通り凍り付いたが、数秒と持たずに粉砕されて脱出される。

「おかしい……」

 そんなはずはない。

「太一と互角に打ち合えるんだから、氷から抜けるのに数秒もかかるはずがない、と思ったんだけど……」

「ほう……これはどうだ」

 レミーアが両手を前に突き出し、そこで風を固める。渦を巻かせ、固めて、凝縮する。

 そのまま間髪入れずに容赦なく、風の弾丸を打ち出した。

 かつてのレミーアの数倍の威力を持つ魔術。

 黒い影はそれを真正面から受け止め、数秒拮抗したのちに押しつぶした。

「ふむ、確かにおかしいな。この何とも言い難い差は一体何なのだ」

 ミューラに対したときはミューラが持つ力なりに。

 凛とレミーアの攻撃を受けたときは凛の攻撃力なりに。

 太一の攻撃を受け止めたときは太一の攻撃に匹敵する力を発揮。

 まったくつじつまが合わない。

 太一に拮抗できる力があるのなら、ミューラは最初の攻撃で戦闘不能になっていたはずなのだ。

 ミューラと太一の視線が交錯した。

 同時に頷くと、変わらずよたよたとしている黒い影に対し、今度は二人で飛びかかった。

「これはどうかしら!?」

「受けて見せろ!」

 タイミングを合わせた二人同時の攻撃。

 相手を攪乱するために、ワンテンポ遅らせる、といったギミックは仕込まない。

 衝撃が広がり、空気が攪拌される。

 同じような力がぶつかって力が行き場を無くしたからだ。

「……!」

「おいおい……!」

 ミューラの攻撃も、太一の攻撃も、同様に互角の力で受け止めた。

 推測していたことが当たった。

「どういう理屈かは分からないが、向けられた攻撃と同程度の強さで反撃してくるようだな」

 そう、そういうことだ。

 レミーアが言った通り、どういう理屈かはさっぱり分からない。

 ただ現実はそうなっていた。

「どういう理屈かはさっぱり分からんが、現実に起きていることだ」

 ただそうすると、倒せるのかどうか。

 倒せばいいのか。

 倒す必要があるのか。

 果たして、何を試しているのだろうか。

 ……と、あれこれと予想することはできるのだが。

「うん、考えたって分からないものは分からないね」

 ふと、何か割り切った様子で凛は顔を上げると、おもむろに杖の先を黒い影に向けた。

「せっかくだから、試させてもらうよ!」

 そう言いつつ、かなりの強さで氷塊を放つ。

 見た目ただの氷塊だが、その実相当な魔力を込めて作られていることが分かる。

 凛の魔術ではあれだけの出力は出せない。

 アヴァランティナに相当な量の魔力を供給したのだろう。

 つまりあれは精霊魔術。

 自身の魔力量にものを言わせた後先考えない一撃である。

 黒い影はそれを受け止めて……吹き飛んだ。

 ただし無傷。

 受け止めて吹き飛んだものの直撃はしていない。

「ちぇっ、やっぱりね」

 勇ましい顔をしているものの、流れる一筋の汗は止められない。

 しかし、その結果になると理解していた。

 吹っ切れているようだった。

「お前の言う通り、考え込んでいても何も打破はできそうにないな」

 レミーアが凛にならう。

「ならば、私はこうさせてもらおうか!」

 一点突破ではない、すべては防げない風の弾丸の嵐。

 案の定、黒い影は防ぎきれずにいくつかは直撃を受けていた。

 その様子を見ていたミューラ。

「……?」

 何かが視界の端をちらりとかすめる。

 正体がわからずに首をかしげるも、近くに黒い影が寄ってきていたので急いで退いた。

 離れながらも、ミューラも同様にミドガルズオルムにお願いして石の槍を五本放った。

 黒い影は四本を打ち砕くと、残り一本を受け止めた。

 その場で踏ん張れずに後ずさるものの、直撃はしていなかった

「……」

 とっさの動きをしながらも、ミューラは周囲に目を向けていた。

 そこで何が起きているのかを見逃さないために。

 ミューラは目を細めた。

「タイチ」

「なんだ?」

 目を皿にして黒い影を観察していた太一に声をかける。

「一発撃ってくれるかしら?」

「……? 分かった」

 太一は理由を聞かず、手のひらを黒い影に向ける。

 疑問はあるのだろうが、黙ってミューラに従い、水の塊を生み出した。

「これはどうだ」

 凛も得意とする『水砕弾』を、召喚魔法で模倣したもの。

 太一はそれを容赦なく、黒い影に向けて叩きつける。

 凛とレミーアが、巻き込まれてはたまらないと急ぎ距離を取る。

 どぱぁんと破裂する音と共に、黒い影は吹き飛んで後方の壁に叩きつけられた。

 すさまじい威力と勢い。

 壁に放射状の亀裂が入ったものの、影響はそれほど大きくはない。

 太一が放つ『水砕弾』による破壊と考えると影響が少なすぎるが、ここは常識で物事を考えてもらちが明かないと分かっているので、凛もレミーアも、もちろんミューラも。そして撃った太一自身も棚上げをしている。

 結論から言えば、黒い影は健在だ。

 あれだけの一撃を受けたのに、ふらふらよたよたと再び立ち上がり、歩き出している。

「……なんかわかったか?」

 ただ、指示を受けた太一は、ミューラに何かしらの考えがあるのだろうと察していた。

「ええ……あの扉、あそこにある水晶みたいなもの、分かるかしら?」

「ああ」

 太一が見ると、確かに扉の中心部分には、水晶球のようなものがはめ込まれていた。

「あれ、攻撃するたびに、色が濃くなっているというか、光が強くなっているというか、そんな感じがするのよね」

「……なるほど?」

 あれが輝いてきているというのか。


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