幕間~レミーア~
二章開始まで時間が空いてるので。
幕間ということでレミーアさんの一人称で描いてみました。
ろうそくの光は、集中力を増加させる。明かりを取る魔術はいくつか知っているが、研究や調査をする時は使わないようにしている。
その方がより没頭出来ると気付いてからの、私のルールでもあった。
「ふう」
羽ペンを机に置いて、背凭れに身体を預けた。しばらくぼんやりと天井を眺めてから、机に広げた本に目を向けた。
書庫の奥の奥、一体いつ買ったのかも解らない程に放置された本。それに目が留まったのは全くの偶然だった。
無造作に投げ置かれていたところを見るに、入手してから見向きもしなかったのだ。ミューラが日頃「整理は大事です」と言う理由が少しだけ分かった。本の上に積もっていた埃を払った時に出たオヤジ臭いくしゃみは、心の引き出しの奥にしまっておくこととする。
「まさか、こんなところに繋がる切っ掛けがあるとはな」
解らないものだ。
何のつもりでこの本を入手したのか、自分の事だと言うのに今でも不明だ。
だのに、数年……いや、数十年も経ってから、こんな形で役立つとは。
筆を走らせていた羊皮紙を取る。他人には理解が出来ないだろう走り書き。だが、私にとっては宝だ。四桁に及ぼうかというページ数を誇る文献にひたすら目を走らせ、重要だと思う事柄を、直感に全てを委ねて抜粋した結果が、この羊皮紙。
一つ一つの単語だけ見れば、ただの文字の羅列。断言してもいいが、その辺の宮廷魔術師程度では理解が及ばない。
私とて、記憶が新鮮な今だから、この単語の集まりを見て理解が出来るのだから。
「さて、早いところ纏めんとな。そう猶予はなさそうだ」
他人とは違う頭を持つ自信は大いにあるが、詰め込んだ情報量が多すぎた。
いささか過信し過ぎただろうか。
いや。今はそんな余裕はない。
「確か白紙の羊皮紙は……と。ここか」
新たに四枚の羊皮紙を用意する。その際いくつかの本が机から落ちたのだが、無視だ。タイチに言わせれば『華麗にスルー』との事らしい。意味は無視と同じ。語感がとても良く私は気に入っている。
そんな余談はどうでもよい。始めるとしようか。
「アルティア歴四〇〇〇……はて、今は何年だったかな? ん、大事なのはそこではないか」
走り書きから、記憶の断片を繋げ、明確かつ秩序をもって言葉にしていく。形が出来てくれば、思考も鮮明になり、考えも纏まっていく。
この文献から得たのは精霊に関するもの。そしてタイチに繋がるものだ。あのときタイチが聞いた声の主は恐らく精霊だ。
この世界には上級から下級まで数えきれぬほどの精霊が存在する。だが、精霊の意思を声という明確な形で受け取るなど、普通ではない。
そこから考えれば、タイチが持つユニークマジシャンの特性は精霊魔術師。私はそう当たりをつけて調査をしていた。
「……だというのに、全く物騒な事だ」
その仮説が覆される可能性を発見したのは、先述の埋もれていた文献を読んだからだ。
知的好奇心を大いに刺激されるのと同時に、底知れぬ恐怖も抱いた。
国が滅ぶというのは、本当だ。タイチを脅すのに使った言葉も本当だ。今のタイチでも、一〇〇パーセントの力で王城に殴り込めば、そこを破壊し尽くすのに三分とかからないだろう。国の中枢を小細工なしの正面突破で壊滅できる。力をわざと暴発させれば、城程度は消し飛ばせる。だからこそ「国と戦争して勝てる」のだ。
それだけでも桁違いだというのに。
私が気付いた可能性が本当なら。
王都丸ごと、一撃で焦土に出来る。となれば、王城とは規模がまるで違う。
ふと顔をあげて窓の外を見る。
星の光が、差し込んでいる。
「神よ……貴方はこの世界を、どうなさるおつもりか」
神など信仰していないが、ついそんな言葉が口をついた。
私がタイチと関わりがあるのは幸運だろう。あやつはまだ少年だ。私の影響力が及ぶ限りは、手綱を握ってやるつもりだ。
今頃は明日の依頼のために寝ているだろう弟子たちを思い浮かべ、私は尚も筆を走らせる。
今宵も眠れないだろう。
予定に無かった話。プロットも無い帰宅時間での携帯一発書きです(笑)
おかしなところがあっても、生暖かい目で見てやって下さい。
因みに、アルティア歴はこの世界の年号です。
この位の規模ならもう一人行けるかも?
誰にしようかな。