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異世界チート魔術師(マジシャン)  作者: 内田健
五章 北の呪い

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二十五話

引っ越しで投稿遅れました。すみません。

今日までに投稿出来なかった二十八話までを毎日更新し、15日から5日毎更新に戻します。

 もうすぐ最奥だ。

 ここまでまったく代わり映えのしない洞窟だった。

 一直線に進めば一時間ほどでたどり着く程度の距離だが、時折分岐があったためにそちらもしらみつぶしに進んでみた。

 結果的に何も無かったものの「何かあるかも」と気になってしまうよりマシだと、徒労だったことを無駄だと思わないようにしていた。


「さてと」


 最後のフロアの手前で休憩していた太一は、荷物を手早く片付けると立ち上がる。

 到着したフロアはなかなかに広い。

 長テーブルが、三つ並びで一列、それが二列分。テーブル一つで複数人が作業できる程度の大きさがある。

 更に奥の方、壁に沿うように設置されているのは、個人で使うと思しき執務机とかけ心地の悪くなさそうな。それが一五組。

 壁にいくつか設けられている扉、その向こうにはベッドが五個置かれた寝室が四つ、キッチンらしき部屋やパウダールームなどの生活に必要な部屋があるようだ。

 そんなことを考えながらも見ていた長テーブルの上には何も置かれていなかったので、念のため天板の裏を見て何か貼り付けられていないかの確認をして、何も無いことが判明してから執務机に向かう。


「さぁて、何か残ってるかな、っと」


 もともとそれほど期待してはいない。何かが残っているかもしれない、程度だ。

 ひとつひとつの机の上を眺め、引き出しをもれなく抜き取って隠し蓋がないかどうか、机に仕掛けがないかを探っていく。


「んー、やっぱ何も無いな」


 全ての執務机を探って、成果はゼロ。

 一目見て分かるものはおろか、太一では判別ができないような「何かの手がかりになるかもしれないもの」すら残されていなかった。

 それと同時に、別の疑問が脳裏をよぎり始める。

 続いて太一は寝室などの様子も見ていく。

 もちろんそこにも何一つ残されていない。


「本当に、もぬけの殻ってやつだな」


 残りの寝室も全て空振り。

 それはキッチンも同様だった。

 これまでの例に漏れず、パウダールームにも何も残っていなかったが……ここで、異変が起きた。


「たいち。どうやら、罠だったみたいだよ」

「ああ……感じたよ」

「うーん、そっか。全ての鍵が解除されると、発動する仕組みかぁ」

「鍵は何だろうな……全ての引き出しを開ける、全ての扉を開ける、とかか?」

「そんなところかなぁ。アタシたちを欺くなんて、どんな術なのかな」

「そうだねぇ、ボクたちに気付かせないなんてよっぽどだよ。気になるねぇ」

「ある意味じゃあ、俺たちの予想は当たってたな」


 フロアの中央で、何か黒い煙のようなものが渦を巻いていた。

 それを眺めながらも、太一はシルフィ、ミィと会話を続ける。

 慌ててここを引き払った訳では無い。

 何も残っていないこと。罠がしかけてあること。

 この二つを考慮すれば、敵はある程度の時間的コストを支払って念入りに退去を行い、更にエレメンタル二柱にも見つからないレベルで隠蔽されたことが察せられるのだ。

 こういうとき、相手の変身を待たず攻撃をしてしまうものだが、今回ばかりは待つことに決めていた。

 相手がどういう存在なのか、戦いながらシルフィとミィに見てもらうためだ。なので、ある程度のことが判明するまでは、なるべく倒さないようにすることも求められる。

 どうやら形は完全に定まったようだ。

 現われたのは、赤黒い毛皮の熊。

 ただし当然ながらただの熊ではない。

 後ろ足が二本で、太一がよく知る熊と変わらない。鋭い爪が生えた前腕は通常の位置に二本、その後ろから更に二本あり、四本とも金属の腕輪をはめているところが、まず太一が知る熊では無かった。腕輪からは短い棘がついた短い鎖が取り付けてある。更に背中からは同じく真っ赤な山羊が生えていた。おまけにその尻尾はサソリの尾に変化している。


「……キメラ、って怪物か?」


 太一の記憶では、何かの神話にキマイラが出てきたと記憶している。太一が忘却している神話とはギリシャ神話。獅子の頭に山羊の胴、蛇の尻尾を持つ怪物がキマイラだ。


「生き物だけど、動物じゃないよ」

「そうだね。攻撃力が高い形態として、大元を熊にしただけだと思う」


 熊は太一を見据えるとうなり声を上げた。


「……でかいな」


 四足歩行状態なのに、既に背中が天井に着きそうなくらいなのだから。

 面積はそこそこあるが、後ろ足で立ち上がることもできなさそうな場所でこのキメラを用意しても、本領は発揮出来ないのではなかろうか。

 まあ、それで問題は無い。敵の動きが制限されて、太一側が不利になることはないのだから。

 すると、熊が四肢でぐっと地面を掴む。

 踏ん張っている様子だ。

 それを見て、太一は警戒を強める。


『Grrrrrrrr!!』


 そう大きく吼えながら、おもむろに天井に向かってその爪を振り上げた。

 猛烈な一撃が、天井を軽々とぶち抜く。

 熊の攻撃が当たったところを中心に蜘蛛の巣状にヒビが入り、崩落が始まる。

 どうやらこの天井は地面にそう遠くなかった様子で、少し厚めの岩が割れ、空が見えた。

 すると、熊のキメラはその場から跳び上がり、自身が作った穴から外に出て行った。


「あっ、この位置は良くないな」


 相手が高所、自分が低所。これは頂けない。

 何せ、熊は自分が空けた穴からこちらをのぞき込み、おもむろに腕を振り上げたのだ。

 この場所を崩し、生き埋めにでもするつもりか。

 跳び上がってもいいのだが……太一は地面をつま先でトンと叩いた。

 熊の思惑を根底から壊すのも、悪くは無い。


「壊れろ」


 ここはミィの力を借りる。

 地面から壁、天井まで、岩を破砕する魔法。

 とまれ、土のエレメンタルが行使する岩盤破砕魔法は当然ながら非常に強力で、あっという間に地下室は崩落した。

 熊が狙ったのは天井の崩落。

 太一が起こしたのも天井の崩落。

 事象の結果は同じ。

 しかし、自分で起こすのか他人に起こされるのかでは、雲泥と言っていい差が生じる。


『Grooo!?』


 己が立つ地面が支えを失ったことで、熊はバランスを盛大に崩し、岩と共に落下した。

 轟音と砂煙。

 太一は平気だが、熊にとっては鬱陶しいことだろう。


『Graaaaaaaahhhhhhh!!!』


 苛立たしげな咆哮が響く。

 相当な音圧があったようで、舞い上がった砂煙が吹き飛ばされた。


「まぁ、傷なんかないよな」


 立ち上がった熊は、太一を血走った目で見下ろす。

 それにしても巨大だ。

 立ち上がった熊に見下ろされたからこそ分かる。

 熊の体長は一〇メートルをくだらないのではないだろうか。

 太一はそのように結論づけたが、実際は一三メートルをやや超える程だ。

 更にサソリの尻尾に、真っ赤な山羊。

 恵まれた体躯を生かした戦法だけでないのは間違いは無い。


『Grrrraaaa!!』


 振り下ろされる腕を、太一は裏拳を小さい軌道で振り上げ、受け止める。

 太一の両足を中心に、地面が放射状にひび割れる。

 つまりそれだけの衝撃があったということだ。


「うん、少なくともパワーはレッドオーガ以上だな」


 この一撃が熊の全力ではあるまい。とすると、比較対象としてレッドオーガでは力不足だ。

 受け止めた腕をはじき、太一は一度後退する。

 もちろん撤退ではない。

 適当な岩にほぼ垂直に着地すると、それを蹴り、熊に向かって突進する。


「これはどうだ!」


 熊は太一の攻撃を、二本の腕で余裕を持って受け止めた。

 相手に重量があろうと殴り飛ばせる太一だが、熊はそれを軽く受け止められるだけのスペックを誇っていた。

 当然ながら弱い攻撃を放ったわけでは無い。

 太一と熊の激突の余波で、周囲にあった岩が吹き飛んだくらいだ。


「っとお」


 そこで、警戒していた攻撃が来た。

 本来の二本の腕に加えて、その肩から更に生えている二本の腕。

 そちらからの振り下ろしの反撃が来たのだ。

 もちろんそれも想定していたので、分かってさえいれば回避するのはそう難しいことではない。

 もう一度距離を取り、今度は適当に手を置いた岩を使うことにする。

 幸い、弾は周辺に腐るほどある。


「なら、こういうのはどうだ?」


 地面一帯にミィを通して魔力が行き渡り、散らばった岩全てが弾丸と化す。

 そして、弾幕となって飛んでいく全ての岩を、熊は四本の腕でもってたたき落とした。

 やはりメインウェポンである腕は頑強なようで、傷ひとつついていない。


「おう……タフだな」


 熊が両腕を振り上げ、振り下ろす。

 すると、どういう理屈か衝撃波が指向性をもって太一目がけて放たれた。

 どうやら、そういった特殊能力らしき何かも持ち合わせているらしい。


「そんなこともできるのか!」


 太一は右腕を真横に払う。

 発生した風が衝撃波を打ち払い、かき消した。

 隙は探せば普通に見つかるが、太一は致死性の攻撃を仕掛けることはなかった。

 倒そうと思ったら、火力を上げて攻撃してみればいい。

 こうして戦えているように思わせているのは、ひとえに敵の情報を得ようとしているからである。

 始まったばかりで、まだまだ切っていないカードがあるはずだ。

 洒落にならないと思った攻撃がきた場合、この遅延行為は即座に止めることで、太一を心配したシルフィとミィとの話はついている。

 相手が捨て鉢にならないように、競っているように装わなければならない。

 ティアマトを殺さぬよう攻撃したときのような、神経を使う戦闘が続きそうだ。


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