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憧れのその先で  作者: ハイカラな人


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6/6

ふたりの光

 療養中の光は、その配信を病室で見ていた。


 後で言葉が聞いた話によると、最初は画面を直視できなかったらしい。

 自分の代わりをしていた相手が、自分を脱ぎ捨てていく瞬間を見るのが怖かったのだろう。


 妥当である。

 それは、かなり怖い。


 だが、光は見た。


 そして知った。


 完璧でなくても。

 未完成でも。

 誰かに届くことはあるのだと。


 光が復帰したのは、それから数か月後だった。


 復帰ライブの告知文は、以前と違っていた。

 『最高到達点』も、

 『完全復活』も、

 『無欠のパフォーマンス』も、

 そういう、偶像を過労死させるための単語は消えていた。


 代わりに、短く、こう書かれていた。


 また歌いたいから、戻ります。


 その一文だけで、言葉は泣きそうになった。


 復帰ライブ当日。

 会場は満員だった。

 以前より静かな熱を帯びていた。

 誰もが、昔の光と同じものを見るつもりでは来ていない。

 そんな空気があった。


 ステージに現れた光は、確かに、以前ほど“完璧”には見えなかった。


 動きは少し変わっている。

 無理をしない振り付けに組み替えられた箇所もある。

 息が上がる場面もある。

 笑顔の中に、隠さない疲れの影が一瞬よぎることもある。


 だが、その光は、前よりずっと強かった。


 弱さを隠さないことは、演出より難しい。

 偶像のひびを見せたまま立つには、別の勇気が要る。


 ライブ終盤。

 光はマイクを持って言った。


「私は一度、光でいられなくなるのが怖くて、自分で自分を壊そうとしました」


 会場が静まる。


「でも、戻ってこられました。完璧じゃないまま、戻ってきていいと教えてくれた人がいたからです」


 そして光は、客席ではなく、袖の方を見る。


「言葉。出てきて」


 スポットライトが横へ流れる。


 言葉は息を呑み、それでもステージへ出た。

 歓声とざわめきが入り混じる。

 まだ賛否はある。

 すべてが綺麗に回収されたわけではない。


 だが、もう、それでよかった。


 光が笑う。


「ありがとう」


 その一言に、言葉は首を振り、それでも笑った。


 イントロが流れる。


 二人で一曲を歌い、踊った。


 光は光として。

 言葉は言葉として。


 振りは揃っていた。

 だが、同じではない。

 声質も違う。

 表情の作り方も違う。


 なのに、その差異が、むしろ曲を完成させていた。


 言葉はもう、憧れをなぞっていなかった。


 憧れは消えない。

 消える必要もない。


 ただ、その背中を追うだけでは、届かない場所がある。

 誰かに救われたままで終わるのではなく、

 自分の足で立ち、

 自分の声で返すところまで行かなければ、

 本当の意味で、その光は受け取れない。


 曲の最後。

 二人の手が、一瞬だけ触れた。


 客席から上がる拍手は、以前のような熱狂だけではなかった。

 傷も、失敗も、弱さも通ったあとで、それでも立っている人間に向けられる拍手だった。


 光は、偶像ではなくなった。

 言葉も、代役ではなくなった。


 それでようやく。


 二人は、同じステージに立てたのだった。


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