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10「サイフを探しに」

 後日、マオは琉太の母、早織が言っていたことをようやく理解する。


 食事の時、早織から言われたことを笑い流した。しかし、思い出してみると、どうして琉太があんなに慌てていたのかが分からない。

 仕事の合間に、どうしても指輪や、「マオちゃんから行く」というフレーズが理解できなかった。

 琉太の様子からして、彼には聞きづらかった。恥ずかしそうにしていたし、彼と彼女についての話だ。母にもやめてと言っていたので、マオは琉太に嫌な思いをしてほしくないと、彼には聞かないようにした。


 白崎さんはマオが無意識に拒絶し、指輪などのことを聞ける人の枠から外れていた。マオはまだ、この世界に来てから琉太に頼りっきりなため、彼以外となると相談できる人物が限られていた。当然、女神なんかに聞くことはない。他にも理由はあるが、これからコンビニに行くのに、もしあの脳波がどうとかいうものをやられたら、もうコンビニに行けなくなる気がした。


 仕方なく、マオは指輪などのことはあきらめて、せめて琉太の足手まといにならないようにとコンビニでまたバイトをしに行った。週五日、十時から三時。一日五時間だが、店長がコンビニで雇っているのもマオだけなので、時給はだいぶ高い。マオの力もあってか、いらぬ客も寄らなくなった。


 九時五十分ごろ、十時十分前にはマオは店長のところにいた。そしてすぐに制服に着替え、いつも通り店長から敬語を使えと教訓されている時だった。


 コンビニの制服に着替えたマオを見て、品川店長はマオの帽子を指す。

 

「そんな良いもの、帽子につけてなくしたら大変だよ。あの兄さんがくれたのかい?」


 マオはあきらめていた指輪の話が話題となって、すぐに角から取った。


「これがどうかしたのか?」


 マオは指輪をとり外すと店長に渡した。

 

 店長は指輪を手の上で数回ひっくり返し、それからマオの手を取った。

 

「これは相手に思いを伝えるものだよ。あの人は君のことが好きってことさ」


 彼は指輪をマオの指にすっとはめた。


「す、好き?」


 マオはその言葉を以前琉太に説明されていた。指輪は琉太の母から貰ったものだが、この時初めて「マオちゃんから行く」という早織の言葉が分かった。それは琉太がマオのことが好きなのだが、自分では言わないのでマオから先に自分の思いを伝えてほしい。そういうことだと、店長によって気づかされた。

 しかし、マオは自分の琉太に対する感情を明白に分かっていない。最初の出会い、勇者としての琉太に一目ぼれしたのはマオの本能だった。本能的に一生を共にしたいと、叶わぬ願いを敵わぬ相手にした。


「我が、リュタを……?」


 当然、店長はマオが琉太からプロポーズされたと思い込んでいる。

 この男、マオについて話の噛み合わなくならないのが奇跡的なくらい勘違いをしている。だが、毎度勘違いによって生まれたアドバイスは、マオをこの世界と少しずつつなぎとめるものであった。

 

「自分が相手のことを好きかなんて、すぐに分かるものじゃない。時間がかかるよ、とてもね。相手のことを気遣うのも大事だけど、まずは君がどう思うかだよ。その思いをまずは確かめてみたら良いんじゃないかな?日常と非日常、そのふたつを共に過ごし、彼と一緒にいることが君の生を際立てるものか……だね」


 彼は過去を思い出すようにして話した。遠い昔、誰か大切な人を愛し、別れたかのような。


「時間は無限じゃない。でも、焦ればとっておいた時間さえもが消えてしまうかもしれない」


 マオはどこか悲しそうな店長を気遣うようにして彼の手を軽く握った。


 そんなマオを察して、店長はすぐに切り替える。


「だから、きちんと働かないと月給もらえないよ!ほら仕事に戻りましょう!」


 いつもの元気?な店長に戻ってマオは安心して接客を始めた。


 ▼▲▼▲▼▲


 コンビニでは、マオが地球の人間とふれあう機会がたくさんある。たまにお菓子を買いに来る哀れな子供勇者もそうだが、案外変わった人物に会うこともある。


「あーもう疲れた!」


 金髪の女性がひとり、コンビニに入ってくる。


「いったいどこなのよ、アイツの家は。せっかくこの辺りに住んでるって情報貰ったのに……」


 イライラした口調の女性はとても薄い服を着ていて、今子供勇者がコンビニに来たら危ないかもしれない。

 彼女はスマホを見ながらコンビニの通路を行ったり来たりして、適当な商品に怒鳴っていた。


「ほんと、他の男はみーんな貧乏なんだから!彼氏が使えないんじゃ、お財布を探さなくっちゃいけないし……」


 大人ならば、この女性のたくらみが分かるであろうが、当然、マオは人間界を知らない。彼女の目には、財布を無くして困っている女性がいた。


「サイフがないのか?」


 盗み聞きされていると気づいた女性は、マオの声に少し跳ねた。


「そ、そうなのよー。ねえ、この近くに孤住って人、住んでない?」


 マオはその名前にピンときた。琉太の名字だ。


「住んでいるぞ。案内できる」


「えー、ほんと?ありがとー」


 女性は作り笑顔の前で手を合わせた。


「私、その人と話さなきゃいけないことがあるんだよねー」


 マオは時計を見た。三時十分前。


「すぐ終わる。少し待っていてくれ」


 その後、マオは着替えてすぐに女性と琉太のアパートに向かった。


「ところで、あんたは何でアイツの家知ってるの?」


 途中、金髪の女性がマオに聞いた。


「そちらこそ、なぜ知っているのだ?サイフというものを無くしたのに、なぜ彼の家に行く必要があるのだ?」


 マオは質問を質問で返した。

 女性は少し腹が立った様子だったが、取り乱さぬよう、感情をなだめた。


「……っ、私、アイツとは大学が同じだったのよー。それで、ちょっと用事があるんだよね」


 マオの質問にある程度答えつつも、全てを伝えはしなかった。


「で、あんたは?」


 マオはこの女性が何かおかしいと感づいていたため、マオもまた自分が琉太の家をしっている理由をでっちあげた。


「よくコンビニに来るのだ。それで仲良くなった」


 完全な嘘にはせず、相手に嘘だと悟らせないというものだった。


 女性はこれを聞いて、何かに嫌気がさしたのか、小さく舌打ちをした。

 マオを上から下へと見下ろし、何かと見比べているようだった。


「ここだ」


 マオは琉太のアパートの敷地に着くと、彼の部屋まで階段を上った。

 マオは何となく、この女性に自分が琉太と住んでいることがバレてはいけないと思い、自分で鍵を開けて中に入れるなどはしなかった。

 部屋の場所、番号だけ教え、マオは金髪の女性と共にアパートの駐車場に来た。

 

「詳しいのね。それでいつ帰ってくるの?」


 女性は駐車場のコンクリートカーブに座り、琉太の帰宅を待つことにした。


「あと二時間半くらいだと思うぞ」


「そうなんだ。もう教えてもらったから大丈夫よ」


 マオにいてほしくないのか、帰れと言うジェスチャーを繰り返していた。


「しっかり会えるところまで見るぞ」


 だがマオの家はここなのでどこへ行くというのも特にない。


「あっそ」


 女性は駐車場から道路を見ながらずっと爪を噛んでいる。

 

 ふたりは何も話さず、沈黙が続いた。


 しばらくすると、確かに琉太が帰って来た。彼の目には、初めて外で自分のことを待つマオと、見知らぬ金髪の女性がいた。


「あの、どちら様でしょうか?」


 突然現れた琉太に、女性は驚いて立ち上がり、後ろへ跳ねる。


「私のこと、覚えてない?サラだよ、サラ」


 サラと名乗る女性は、自分の顔面を指差しながら言った。


「サラ?ああ、髪色が……」


 琉太も彼女を思い出したようだ。


「そう。分かりづらかった?ちょっと以前の私と変わるために、イメチェンしてみたの」


 サラは髪をなびかせ、琉太に近寄る。


 それに対し、琉太は半歩下がった。

 この距離のやり取りにマオは疑問を抱く。琉太が嫌がっているのではないかと。言葉からは分からないが、きっとこの女性と歴史があるんだと悟った。


「私、気づいたの。今までの私じゃダメだったって。だからお金で付き合うのもやめたの」


 女性のこの言葉には、琉太はとても驚いているように見えた。


「そうよ。そして私は間違ってた。あなたが気づかせてくれたの」


 彼女は過去を語った。そして琉太からの発言も埋め合わせると、彼らは大学が一緒だということ、彼女は容姿を使い大学内の金持ちな男子ばかりと付き合っていたこと、彼女はいろんな男を財布代わりにしてきたということが分かった。


「でももういいの。あんなことしない」


 サラは琉太を見上げた。

 

「私、本当に好きなのはあなただってこと、今になって気づいたの」


 これには琉太はとても驚いた。すぐ後ろのコンクリートカーブに躓きそうとなるくらいに驚いた。

 いつも周りのことを気遣っていて、評判も良かった琉太だが、一度も彼女を作ったことがなかった。そのため、このような押しかけに弱かった。


「そうなのか?」


 この琉太の言葉も、サラの本心を確かめるものではなく、彼女ができるかもしれないという嬉しさを再確認するものであった。


「そう。だから、付き合わない?」


 サラは更に近づいた。胸と胸がくっつきそうなくらいに。


「じ、じゃあ……」


 琉太が答えようとしたその時、今まで黙ってみていたマオが割り込んできた。琉太も、サラも、マオがいたことをすっかりと忘れていた。


「リュタ、騙されるんじゃないぞ。その女、ここに来る前、男を財布にするような話をしていた」


「そ、そうなのか?」


 琉太はサラとの詰めた距離をまた広げる。


「あーもう、あとちょっとだったのに!」


 サラは突然声を上げて、その場でぴょんぴょん飛び跳ねた。


「そうよ。あんたと付き合ってあげるふりをして金を搾り取るつもりだったわよ」


「そ、そんな……」


 琉太はサラへの怒りより、自分が数々の男たちのように騙されそうになったことを情けなく思っている気持ちが大きかったため、弱々しく出てきた。


 サラはその後、諦めて逃げて行った。


 マオは琉太を勝ち取ったような、謎の感覚に浸っていた。


「マオ、ありがとう……」


 琉太はマオのそばまで行った。


「我は魔王だからな。あの程度、簡単に見抜ける」


 マオは琉太のスーツの袖を握る。


「それに、リュタは我の物だ。他の女に渡すなど……」


 マオは思ったことを口にしただけだったが、目を大きく開いて聞く琉太の顔を見て話すのを止めた。数秒経ってから、自分が一体何を言っているのかも理解した。


「そ、そういう意味じゃなくてだな?!」


 店長に言われたことを思い出して、マオは必死に否定した。彼女自身まだ心の整理がついてないため、理解が追い付かないままふたりの関係が発展するのを避けたかった。


「いや、どうあれ嬉しいよ。改めてありがとう」


 琉太は言う。マオの慎重さを分かったうえで、自分にも整理の時間を与えた。今の彼にとっては、マオがそばにいてくれるだけで十分ありがたかった。

 

 ぐうう……。っと静かにマオの腹部から音が聞こえた。

 マオはとっさに下を向く。


 少しの沈黙が続いた後、琉太はマオを連れてアパートに戻った。


「夜食にしようか」


「そ、そうだな」


 ふたりは互いの顔を見ることなく、部屋に戻った。そして戻るなり、琉太が夕食の準備に取り掛かる。


 

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