90話: 夏の海での大騒動 ⑤sideカイ
海魔を追い払い、俺とエリオは浜辺に戻ってきた。
「2人とも凄い!!怪我はない?大丈夫??」
そこに、空から戻ってきたフレンに続いて、浜辺で待機してた連中も集まってくる。
「あんた達よくやったわね。助かったわ」
「っ痛えよ、もう少し力おさえろって!」
合流するや否や姉貴から背を叩きながら労われたが、こいつは力加減がおかしいので正直海魔の攻撃よりきつい。疲れてんのに殺す気かよ。
そんな会話をしつつ管理人からの説明を聞く。海魔はいなくなったが、入り口は少し荒れているのでそれが整備されるまで少し時間がかかるとの事だった。
整備を待っている間、今更海に入る気にもならず、俺が木陰で休んでいたらエリオが近づいてくる。
「……」
まるでこいつの兄貴みてえな無言のまま、エリオが突っ立って5分は経った。無視しようと思っていたがこうなると流石に少し気まずくなってくる。
「……あの」
「なんか用か?」
エリオがこちらを見もせずにかけてきた声にとりあえず返事をしたが、会話が続かねぇ。
それからまた数分が経過した。あまりの沈黙の長さに、俺が流石に何か言えよと口を開こうとした時
「………あ、貴方は僕より弱いですが……先程の、体術に関しては……貴方の方が上回っていました。カイ……先輩」
「お前……」
エリオがようやくまとまりのある言葉を口にする。一言に何分かけるんだよというくらい辿々しい口調でこんな事を言う姿に俺は思わず固まった。だが、こいつ俺の名前覚えてたんだなという感慨に耽る間もなく
「でも僕の方が強いのは変わらないので、勘違いしないでくださいね。それでは」
さっきまでのしおらしさが嘘のような流暢な捨て台詞を吐かれた。本当にこいつ可愛くねぇな。さっさと背を向け遠ざかる姿を追う気にもなれず、俺はさっきより疲れた気がしながら目を閉じ木に寄りかかる。そうしているうちにまた人の気配が近づいて来たので目を開ける。
「……なんだよ?」
「カイ、お疲れ様。そのまま動かないでね」
張り付いていたルカをどうやって置いてきたのかわからねぇが、フレンは1人で俺の横に屈んで声をかけてきた。発言の意図はわからねぇが特に拒否る理由もねぇ。エリオと違って変なことはしてこねぇだろ。……そうたかを括っていたのがまずかった。
「なっ、おま、何して……」
「前に身体強化の後って体疲れるって言ってたから。ほら、足伸ばして、早く!」
気づけばフレンの小さな手が脚を包んで上下に動いていた。確かに前の夏星祭でそんな話をして、マッサージをされた記憶はある。この間も体育祭の後にお礼とか言ってマッサージされたのは記憶に新しい。が、その時より今の状況はまずかった。どちらの記憶でも俺は服を着ていたが、今は水着で直に肌に触れられている。戦闘後で神経が昂っている時にフレンの柔らかい指で念入りに体をほぐされるのはある意味で物凄い拷問だ。
「……んっ、しょ……」
握力が弱いから恐らく全力で揉み込んでいるのだろう。こいつが時折漏らす悩ましげな吐息に俺は勘違いしそうになる。これはまずい。こんな薄着で、変な反応なんてしたらすぐバレちまう。2人きりでもやばいが、ここには姉貴もいやがるのでなお最悪だ。そんな最悪を避ける為、俺は必死に煩悩を振り払いマッサージという名の試練を耐える事になった。
◇
「……カイさ、エリオ君のことフォローしてくれてたよね。あの子あんまり人に頼るの得意じゃないから、助けてくれてありがと」
「あ?……まあ、あれで目の前うろつかれても困っからな」
マッサージの合間に俺の顔を見上げてフレンが口を開く。やったことは事実だが、はっきり口にされると少しむず痒い。
「前の夏星祭の時もだけど、今日も本当にかっこよかった!カイってやる時はやるよね」
いつもは俺を揶揄うような生意気な事ばかり言ってくる癖にこういう時だけ素直に褒めて気持ちをくすぐってくるのはタチが悪ぃと思う。俺はフレンのキラキラしたでけぇ瞳を直視できなくて目を逸らした。今触れられてんのは脚だから跳ね上がった鼓動には気づかれてねぇよな?俺はそれを鎮める為目を閉じてこっそり深呼吸をする。
しばらくそうしてよそを向いていたら急に膝に重さを感じる。疑問に思った俺は視線を戻し、そして言葉を失った。
「……は?」
フレンの小さな尻が、俺の太ももの上のあたりに乗っている。
正確には、俺の脚の上に馬乗りの様な姿勢きなってフレンが跨っていた。フレンの夏らしい薄いハーフパンツ越しに、もちもちとした感触と体温が伝わってくる。柔らかい肉が敏感な場所近くに触れ合う感触は姿勢もあってあまりに生々しい。
(こんなのほぼ直に触れてるじゃねぇか!!)
そうしてフレンが俺の脚先をほぐす為にゆっくりと上下に動き始めたところで、俺は限界を迎えた。
「わっ!?どうしたのカイ?」
俺は力ずくでフレンを膝から退け、そのまま前傾姿勢で海に飛び込む。後ろを振り向く余裕すらなく思い切り泳いで溜まった熱を発散した。砂浜からはフレンの困惑した声が聞こえてきたが、これは流石にあいつが悪ぃ。浜辺から呼びかけられる声が聞こえるたびに鮮明に残っている記憶がフラッシュバックし、まだまだ体温は下がりそうにない。俺は冷たい水温に感謝していっそう深く海に潜った。




