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86話: 夏の海での大騒動①

 寮の談話室でテレビを流し見しながら、夏季休暇の課題をしていた俺は、横に置いていた携帯が光っている事に気がついて手を止めた。


『フレン君、海好き?お嬢様が良ければ招待したいって仰ってるんだけどどう?』


 こんなメッセージが、カイのお姉さん、レイラさんから届いたのは7月の半ばの夜だった。

 レイラさんはクリスフィアさんというお嬢様のボディーガードをしてるんだけど、俺は前にそのご縁でクリスフィアさんの誕生日会に招待してもらった事がある。クリスフィアさんとはその時にお話をして以来だったけど、覚えててもらえたのは嬉しい。だけど……


「海……行ってみたいけど、入れないんだよね。泳げないし」


 俺は隠してるけど半分夢魔の血が流れてる。普通に生活する分には、露出を抑えれば大丈夫なんだけど、水着越しとはいえ同じ液体に浸かるのは安全性の面から推奨されてない。修学旅行の大浴場も同じ理由でダメだったから俺は海はおろか、プールにも入った事がないのだ。

 それに、海には浮かれたナンパ野郎が沢山いるらしいし、それもちょっと気が引ける。俺はそんな事情を簡潔に説明して返信を送った。


『プライベートビーチだから他の人いないし、泳げなくてもパラソルの下で寛げるから、折角だしどう?すごく綺麗な海だし見てるだけでも楽しいよ!』


 (プライベートビーチ!?そんな物本当にあるんだ)


 流石お嬢様。話の規模感が違う。

 綺麗な海の写真と共に届いたレイラさんの返信にさっきまで億劫だった俺の心が動く。海自体に興味はあるし、夏らしいイベントには心惹かれる。

 俺は早速参加したいという旨を伝えて返事を待った。


『オッケー!あとお友達とか連れてきたい子いたら事前に連絡してくれたら大丈夫だから教えてね!』


「一緒に行きたい人……」


 確かに1人で海を見るより、誰かと行ったほうが楽しそう。


 (カイはきっと付き添いで来るだろうし、他に誰を誘おうかな)


 俺は頭に浮かんだ数人に声をかけることに決め、まだ見ぬ海に想いを馳せながら課題を終わらせた。


 ◇


「久しぶり!フレン君!!夏っぽい格好新鮮!超可愛い~」

「お久しぶりですレイラさん。今日はありがとうございます!」


 待ち合わせ場所に着いた途端レイラさんが駆け寄ってきてお出迎えしてくれた。レイラさんはいつものボディーガードの格好ではなく、スポーティな水着に上着を羽織っている夏らしいスタイル。ちなみに俺は上に長袖のパーカー、下は膝下までのハーフパンツ、髪はポニテにして上げた。夏だから流石に少しくらいは肌を出さないと暑くて辛いしね。脚は手やおへそと比べてそこまで体質に関係ない部位だから、外なのもあって短時間なら出してても問題ない。


「連絡してた友達、こっちがルカでこっちがエリオ君です。2人とも、この人がレイラさんだよ」

「はじめまして。エリオです。よろしくお願いします」

「……」


 エリオ君が挨拶する横で、俺はぼんやりしてるルカをつついてお辞儀だけさせる。ちょっと心配だったけど、レイラさんは気にしてないようで2人ににっこり笑いかけてくれた。

 体育祭では色々あったし、ちょっと時間が空いたけどエリオ君とルカがリフレッシュできたらなって思って誘ったんだよね。エリオ君にメッセージを送ったらかなり早く返事が来てちょっと驚いちゃった。意外と携帯よく見てるタイプなのかも?ちなみにルカは今年も俺とカイで勉強会をしたおかげで無事に夏季休暇を手に入れていた事もあって、誘ったらすぐ来るって答えてくれた。


「……お前の人選センスどうなってんだよ」

「だって予定ないって言ってたし、折角の機会だから!」


 それまで静かにレイラさんの隣にいたカイが俺に近づいてきて耳打ちする。その返しで俺が、本当はクロードも誘いたかったけど、実習で行けないって言ってたからという事も伝えたら


「マジで言ってんのかよ……」


と、ドン引きされたんだけどちょっとこれは失礼すぎない?

 確かにルカはちょっと不遜過ぎる所があるし、今日も夏なのに長袖という謎な格好だけど(俺と違って服装に規定はない筈なのに)ちゃんと私服で遊びに来るくらいの社交性はある。エリオ君も出会った当初はアレな態度だったけど今や可愛いところも多い後輩だ。俺がそんな気持ちを込めてエリオ君を見ていたら彼はカイの前に進み出て


「貴方もいたんですか、気がつきませんでした」

「最初からいただろうが!どこに目ぇつけてんだよ……お前本当に可愛くねぇな」

「ちょ、ちょっとエリオ君急にどうしちゃったの?」


と、なかなかな発言を口にした。そういえば、前に2人が初めて会った時にちょっと色々あって、エリオ君はカイにツンツンしていたっけ。


「ほら、クリスフィアさんに挨拶に行こ?」


 喧嘩まではいかないけどちょっとギクシャクし始めた空気を感じた俺は流れを変える為、レイラさんに目配せする。彼女の案内の元、俺はカイとエリオ君が近づかないよう間に入りながら、ビーチに脚を踏み入れた。

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