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82話:ある邪竜の運命論① sideルカ

 何度も何度も反芻して思い出す、一年生の春、フレンと出会って間もない頃の記憶――

 旧校舎の裏で俺の腕を引く、春薔薇色から目が離せなかった。


 ◇◇


 邪竜は悪役で、倒される存在。一人ぼっちで詰め込まれた書庫にあった本には全部そう書いてあった。

 白と黒の髪をした邪竜は、いつだって1人で息を引き取る。そういう話を読むたび、俺は強いから倒されない……つもりだけど、もしかしたら俺もそうなるのかもしれないと真っ暗な気持ちになった。でもその中でたった一冊だけ、そうじゃない話があった。暴君の邪竜が、1人の夢魔と出会い、怒りを鎮められてやがて聖竜になる古い伝説の物語。

 真っ暗な書庫の中、その本だけは輝いて見えて、俺はずっとその本ばかり読んでいた。親というものにすら疎まれた俺にも、いつかこんな存在が訪れるのを本当は心の底でずっと待っていた気がする。


 長い時間の中そんな淡い希望も忘れて、全てを拒絶していた俺の目の前に現れた春薔薇色の髪を靡かせて笑う夢魔……フレン


 ずっと、ずっと待っていた俺の運命。

 あの日からずっと運命は俺を祝福している。


 ◇


 フレンの声が聞こえると心が落ち着く。


 フレンの瞳に自分が映ってると満ち足りた気持ちになる。


 フレンの手に触れられるたびに胸の中がポカポカして気持ちがいい。


 フレンと出会ってから、俺は世界に色がついてることに気がついた。

 フレンといるだけで、世界はこんなに生きやすい。


 俺の人生は、フレンに出会うためにあった。


 俺の居場所はフレンの隣だ。

 だけど俺がフレンの近くにいられるのはペア授業と昼休みだけ。

 フレンが困ると言うから我慢してるけど本当は、運命なのになんで離れる時間があるのかわからない。


 フレンの横には俺だけがいればいい。

 なのに、フレンは俺以外の奴ともいて、俺から離れる。

 特にクロードは気に入らない。いつもフレンの近くにいて、フレンがよく笑いかけてるから。それに、何か嫌な気配がする所も気に食わない。


 フレンに怒られるから手を出さないけど、フレンは俺の夢魔なのにどうして他の奴らと過ごす必要があるのか俺には全くわからない。


 俺だけを見て、俺だけに笑って、俺だけに祝福を与えてくれたらいいのに、フレンはそれをしてくれない。それがずっと嫌で、もやもやするけど、きっとこれは運命を手にするための試練だから俺は我慢している。


 フレンが、俺の隣にいるように、俺は俺の力を使う。

 邪竜の力は、きっとそのためにある。

 だってこれは運命だから。


 ◇


『……あーあ、俺が夢魔じゃなかったらなぁ』


 体育祭の日、この言葉が聞こえてからの記憶があまり無い。


 ただ一つ、フレンが綺麗な羽を広げている姿だけは覚えてる。

 キラキラした、薄虹色の羽。触り心地が良くて、いつまでも触っていたかった。


 なのに気がついたら、俺は知らないベッドに横になっていて、フレンは近くにいなかった。そのままどうにか部屋に戻って、そこからこの休みの間ずっと、俺は頭に焼きついたフレンの羽と、扉の隙間から聞こえたフレンの言葉の事を考えてる。


 フレンは俺の夢魔なのになんであんな事言ったんだろう。


 体育会の昼ご飯の時にフレンのお父さん……フレンじゃない夢魔を見たけどフレンを見てる時とは全然違う気持ちだった。


 フレンを見てる時はもっと、胸の辺りが不思議な感覚がして、ずっと目が離せない。

 これはきっとフレンが俺の夢魔で運命だからだ。


 それ以外に答えがないのに何故か、フレンの言葉がずっと頭の中に残って消えないまま俺の中に残り続けている。


 ◇


 この言葉の他にもう一つ心に残っているものがある。


 あの時、フレンは泣いてた。


 フレンが泣いてるのは初めて見た。

 なんで泣いてたのかはわからない。

 だけど、それを見たらよくわからなくなって、俺はフレンがこれ以上泣かないようにしなきゃと思った。


 結界が必要なら俺がもっといいのを作ればいい。

 俺の近くにいれば何があっても守れるから、俺の近くにだけいればいい。


 だってフレンは俺の夢魔だから、俺がフレンを守るのは当然だから。


 なのに今、フレンは俺の近くにいない。

 やっぱりこれが1番おかしい。

 フレンはダメだって言うけど、なんで好きな時にフレンのところに行っちゃダメなんだろう。

 フレンがダメって言うから我慢してるけど、どうして?


 フレンと出会ってから毎日考えてる事が今もまた頭の中をぐるぐるする。


 部屋の端で何かの音がしたけど、そんな事はどうでも良かった。


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