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81話:お礼は感謝を込めて②

「お疲れ様~!お茶淹れたげるからこっち座って」


 お礼のマッサージを終え、俺はお茶を用意するため部屋から出て寮の給湯室に向かう。マッサージの後は水分補給が大事だから、俺はこの辺も抜かりはない。


「カップ黄色のでいい?」

「……おう」


 マッサージが終わってからもカイはなんだか大人しいままだ。結構しっかりほぐしたから疲れが出たのかも?


「熱いから気をつけてね」


 部屋に戻った俺はそう言ってカップを机に置いて、一緒にお茶を飲み始める。小一時間かけてマッサージしたから俺もちょっと疲れてきて、ちょうどいい小休憩って感じだ。


「ちょっと待ってろ」

「え?」


 しばらくそうしてのんびりお茶を飲んでいると、カイが急に立ち上がり、部屋の隅に置いていた荷物を手に戻ってくる。


「これ、やる」

「え?なにこれ?」


 カイはそのまま俺にそれを差し出して渡してきた。思わず受け取ったそれはカイが持ってくるにはあまりにも可愛い包装だった。


「……お前、昨日誕生日だったろ」

「えっ、もしかしてプレゼント?」


 去年は確か俺が冗談混じりにせがんで学食を奢ってもらったんだけど、今年はカイ自ら用意してくれたらしい。


「ありがと!開けてもいい?」

「いいけど、期待すんなよ」


 カイの了承を得て俺は包みを開く。


「あっ、もしかしてこれ最近できたお菓子屋さんのじゃない?カイが選んでくれたの?」


 中に入っていたのは街に最近できたパティスリーのクッキー缶。俺も行きたいとは思ってたけど、かなり人気で並ぶって聞いたからまだ行った事はないお店のだ。人気なだけあって、缶のデザインも可愛いし中に入ってるクッキーも宝石みたいで凄く可愛い。


「……お前、こういうの好きだろ、だから……」

「大好き!凄く嬉しー!カイありがと!!」


 あまりこういう事をするイメージのないカイが俺の好きなものを考えてプレゼントを用意してくれた事が嬉しくて、その気持ちのまま俺はカイに抱きついた。


「わっ!?おま……馬鹿っ!急に抱きつくんじゃねぇ!!」

「いーじゃん!ねぇこれ食べていい?」


 カイが文句言ってくるけど、俺は気分がいいから暫くこのままにしとこうと思う。


「お前のなんだから好きにしろよ」

「わかった!じゃあいただきまーす!」


 カイから了承を得られたので俺は早速お花の形のクッキーを手に取って口に運んだ。生地に花びらが練り込んであるのか、香りもすごくいいそれはサクサクとした食感と優しい甘さがとても美味しい。どのクッキーもすごく可愛くて食べちゃうのが勿体無いけど、取っておいて傷んじゃうのも嫌なので俺は気になったものを少しずつ味わっていく。

 俺がこんな感じでクッキーを食べ進めていると、カイが俺の方を静かに見つめていることに気がつく。食べ過ぎだろとか言うのかなって思ったのにそういうことも言ってこない。


「俺の顔に何かついてる?」

「いや、別に。それより、うめぇかそれ?」

「う、うん。すごく美味しい!」

「そっか、なら良かったわ」


 そう言って少し目を細めるカイは、なんだかいつものカイとは雰囲気が違う気がして落ち着かない。


 (なんていうか、見守られてる、みたいな感じ……)


 別にそんな事言われてないんだけど、そんな気がするのは俺の勘違い?

 なんだかむず痒くなって俺は缶からクッキーを一つ取り出して


「こ、これ一番好きなやつだからお裾分け!」


と誤魔化すようにカイの口に突っ込んだ。


「んむっ……お前なぁ、いつも雑すぎんだろ」

「だ、だって美味しいから分けたげようかなーって」

「まぁ別にいいけどよ」


 そう言って俺の手を掴んでクッキーを口で受け取るカイは、さっきまでマッサージでそわそわしてたのが嘘みたいに落ち着いていてやっぱりちょっと調子が狂う。


 (でも嫌な感じもしないし、なんなんだろうこれ?)


 こんな不思議な気持ちのままお礼の時間はゆっくりと過ぎて行く。クッキーの甘い香りだけが部屋を優しく包んで俺は午後の穏やかな時間を感じた。


 ◇


 カイが帰った後、お風呂を済ませて早めにお布団に入った俺はあることに気がつく。


 (シーツからカイの匂いがする……)


 結構長い時間ここでマッサージしたから匂いが移ったらしい。うまく形容できないけど、ちょっと男臭いみたいな感じの匂い。汗臭いとも違うんだけどちょうどいい例えがないんだよね。

 こうしてベッドに横たわっていると、すぐ近くにカイがいるみたいだ。


「……なんかよく寝れそうかも」


 カイの大きな背中の後ろにいるみたいな、ゆったりとした安心感に包まれて俺は目を閉じる。もらったクッキー缶はまだ半分以上残ってるから毎日のちょっとした楽しみにしようかな。

 体育祭の騒動の余韻はこうして少しずつ解けて日常へと戻っていく。俺はそんな穏やかな気持ちを抱えてゆっくり眠りについた。

 


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