78話:大切な幼馴染と誕生日の約束を①
波乱はあったけど無事に終わった体育祭の翌日、俺は窓から差し込む朝日で目を覚ました。
「おはよう俺、誕生日おめでとう!」
自分で自分をお祝いしてから朝の準備をする。
今日は朝ごはんの後クロードと待ち合わせをして街にケーキを買いに行って、寮で2人分の誕生日のお祝いをする予定だ。
俺は朝ごはんを手早く食べて、出かける支度に取り掛かる。
(気分がいいし、今日はうんと可愛い服にしよ!)
なんて言ったって年に一度の誕生日、楽しい予定に胸が踊る。俺はいつもより丁寧に髪をとかして編み込み、お気に入りの服を選んでクロードの部屋に向かった。
「クロード!準備できた?」
「おはようフレン。誕生日おめでとう。ああ、そろそろ行こうか」
そのまま2人分の外出届を提出して、駅まで歩いた所で見慣れた俺の目に水色が映る。
「おはよ!エリオ君も街行くの?」
「え……?あ、おはようございます。いえ、少し用事があって……先輩は?」
うちの学校で休みに街以外に行く子は珍しいな、なんて思いながら俺は答える。
「俺は今日誕生日だからクロードとケーキ買いに行くんだ!」
「せ、先輩今日お誕生日だったんですか?言ってくれれば……」
「えー!お祝いしてくれるの?楽しみにしてもいい?」
出会った頃はエリオ君の態度に面くらった事もあったけど、今ではこんな可愛いことを言ってくれる様になって少し感動する。そのまま流れる様にお祝いの催促をしてみたけど、このくらいの冗談、今のエリオ君なら大丈夫だよね?
「こ、今度、絶対祝いますから、予定空けておいてください!では、電車が来たので失礼します!!」
「えっありがとう……!それじゃあまたね?」
軽い気持ちで言った言葉を真面目に返されて、俺の方が少しどきっとした。エリオ君の電車は街とは逆方面なので俺は手を振って見送りながらクロードに話しかける。
「エリオ君って義理堅いなぁ。最初はツンツンしてたけど可愛いよね」
「……そう、だな」
ちょっとだけクロードの返事が遅かった気がするけど、話してるうちに街に向かう電車が来たので俺は特に気にせず乗り込む事にした。クロードとの久しぶりのお出かけ、誕生日である事を差し引いてもとても楽しみ。
◇
今日の予定なんだけど、まずはケーキを見る前に、クロードとお気に入りのカフェでランチを食べる事にした。お腹が空いてると全部のケーキが食べたくなって収拾付かなくなるから、これは戦略的なスケジュールっていうわけ。運ばれてきた焼きたてのガレットはいつも通りとても美味しくて、いくらでも食べられる気がした。
「今度ね、マリア達とチアチームの打ち上げするんだ!楽しみ!」
「そうか、フレンが楽しそうで良かった。昨日の応援合戦も頑張ってたな」
そう言ってクロードは優しく目を細める。体育祭当日は色々あったけど、チアに誘われてみんなと応援できたのは俺にとって凄くいい思い出だった。
「俺、クロードに手振ったの見えた?」
「ああ、よく見えたよ」
クロードの出る競技は事件で中止になっちゃったから、少しでも励ましたくてやった応援が届いてたみたいで嬉しい。
「体は、もう大丈夫か?」
「うん!羽の感じもいつも通りだし、元気!」
クロードの気遣わしげな視線が俺の背中に向く。確かに事件の時は色々あって取り乱しちゃったけど、クロードが薬を持ってきてくれたおかげで応援合戦にも出れたから俺は満足してる。終わりよければすべてよしってね。
「そろそろ出るか?」
「うん!ケーキ見に行こ!」
昼食を食べ終えた俺達はそのままの足でケーキ屋さんに向かった。今なら空腹に惑わされず選ぶ事ができるはずだから。
◇
「どうしよう…フルーツタルトとショートケーキどっちも食べたい、でもチョコも捨て難いよね?」
街で一番大きなケーキ屋さんのショーウィンドウに並ぶケーキはどれも輝いていて、抗えないほど魅力的だった。せっかくの誕生日だから2人でお金を出してホールを買う予定だったんだけど、どれにするかなかなか決まらない。
いつもだったら好きなやつをピースで買うけど、誕生日に限ってはホールの方が特別感があるから今日は一個に決めないといけない。
「去年はチョコだったから、それ以外はどうだ?」
「確かに!これで候補は2つ、一個は来年に回そうかなぁ……あ」
自分で言って気がつく、来年クロードは卒業しているということに。今までは学生という括りで一緒にいられたけど、クロードが働き始めたらこんな風には過ごせないかもしれない。きっと忙しくなるし、優秀なクロードは外のつながりも沢山できるだろうから。
(もしかしたら、今日がクロードとこうやって過ごせる最後の誕生日かも……)
そう思うと少し寂しくて、綺麗なケーキがお別れの花束みたいに見える。
「フレン……?どうしたんだ?」
「あ、えっと……来年のこと考えたらちょっと寂しくなって……」
言葉にすると余計に現実味が出てきて、声に元気がなくなったのが自分でもわかった。生まれてからほとんどずっと一緒にいたクロードと距離ができるかもって考えるだけでとても心細くなる。できる事ならずっと今まで通りの大事な関係が続いて欲しいのに実際は環境がそれを許してくれないのがとてもやるせない。
「今年のケーキ、フルーツタルトにしないか?」
「え?」
その突然の提案に俺が驚いていると、クロードは俺の頭を撫でながら目を合わせる。
「来年はショートケーキにしよう。それで、どうだ?」
そう言って海色の瞳が優しく笑いかける。言葉にしなくても、クロードも俺と同じ様に考えてくれたのが嬉しかった。俺はそれに同意して、宝石みたいなフルーツタルトを包んでもらう。帰ってこれを2人で食べるのが楽しみだし、来年のショートケーキも同じくらい楽しみだった。




