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76話:体育祭、種族混在大波乱の行方は ⑥sideクロード

「快諾してくれて嬉しいよ!君とはいい関係になれそうだね」

「俺はただ、今回は手を貸すと言っただけだ」


 俺は目の前のヘラヘラと笑う男から目を離さないようにして返事を返す。学園内が不審者による騒動に飲まれた時、フレンのいるブロックに駆けつける途中で俺はこの男に引き止められた。


「君、フレンの幼馴染君だよね?」


 こう声をかけてきたのはルナソールの学生で、フレンに付き纏っているという男。名前は確かジン。


「お前に構っている暇はない」


 俺はそのままジンを無視して通り過ぎるつもりだった。一刻も早くフレンの安否を確認したかったから。

だが……


「フレンのこと、助けたくない?」

「何を……」


俺は続くジンの言葉に足を止めざるを得なかった。 

振り返る俺を見て、ジンの血のような赤い瞳が俺の心を見透かしたように細くなる。


「俺も、フレンを助けてあげたいんだけど、人手が足りなくてさ。……どこかに強さに自信がある人がいたら助かるんだけどなぁ」

「本題を言え。お前は何を知っている」


 ジンのわざとらしい芝居がかった仕草が癪に障るが背に腹はかえられない。俺が話に乗ったのが面白いのか、軽薄な笑みを浮かべてジンは言葉を続けた。


「恐らくフレンはこの騒動に巻き込まれてる。多分もう被害に遭ってどこかに隠れてるだろうね」

「……っ!!」

「不審者は多数の生徒に種族特徴誘発剤をかけて逃走、解除薬は保健室に少しだけ。これじゃあフレンの分は確保できない」

「だったらどうすれば……」


 ジンの話を法螺話だと切り捨てる事はできなかった。今起きている事と学校の資材の状況から考えればこれは説得力のある内容だ。

 フレンの羽はフレンが隠したい夢魔の特徴を持っている。もし被害に遭えばきっとフレンは表に出てこられないだろう。そして、フレンの羽を隠すためには薬が必要だが、恐らく保健室には被害者が殺到している上被害の大きい生徒から薬が割り当てられるから羽だけの変化のフレンまでは薬が回ってこない可能性が高い。

 焦る俺の傍で何がおかしいのかヘラヘラと笑うジンに苛立つが、この状況ではこいつの話を聞くしかない。


「恐らく確実に解除薬を持ってる奴がいるでしょ?」

「そんな人が……あ、もしかして、そうか」


 スプレー式の薬剤は風向きで自分が吸入する可能性もある。法律で決まってはいないが、日常生活では目立つ種族特徴は隠すことがマナーだ。特に学校の様な施設ではその傾向が強い。


「そうそう、間違って自分に薬がかかった場合に安全に逃げられるように、犯人なら絶対に薬を持ってる。ここまで言ったらわかるよね?」

「目星がついているんだろう?早く案内しろ」


 趣旨がわかった以上、長話に付き合う義理はない。フレンを助ける。これ以外にやるべき事など俺の中には存在しなかった。


 ◇


「本当にここにいるのか……?もう外部に逃げているんじゃ」

「それはないと思うなぁ、それならわざわざ今日やらないはずだよ」


 俺はジンの案内で校内の人気がない場所、旧校舎までやってきた。ジンは俺の疑問に緊迫感のない声で答えつつ、携帯を見せてくる。


「犯人はこういうのが好きらしいから、絶対にリアルタイムで見れるここにいると思うな」

「なんだ……これ」


 背景的に警察署と思われる場所に仕掛けられたカメラで撮られた動画。被害者が種族特徴を隠して怯えながら駆け込む姿を捉えたそれに背筋が凍る。ジンの見せたそれは被害者にモザイクがかかっていたけれど、問題はそこではなくてそんなものが出回っている事だ。


「最近よく聞くこの事件、伝手からの情報で可愛い子が狙われてるって聞いてね。丁度不特定多数が入っても疑われない体育祭に絶対出ると思ったんだよね。本当はフレンが被害に遭う前に止めたかったんだけど、流石に犯人までは特定できなかったからさ」

「なぜそんなことを知っているんだ……」


 先日のホームルームではそこまで細かい情報は話されなかった。もし伝わっているなら少なくとも女子生徒への注意喚起があっただろう。

 ジンの情報網への不気味さはあったが、これならフレンが狙われる根拠も信憑性が高い。


「恐らく犯人たちは保健室にカメラを仕掛けてそれをリアルタイムで見て、気になった子がいたら会いに行くつもりだろうね」


 淡々と説明される内容に嫌悪感が募る。フレンはきっと自分の羽が誰にも見られないように保健室ではない場所にいるだろう。だがもしこんな卑劣な奴らの目にフレンが留まったとしたら……と考えるだけでゾッとする。


「うん、人の気配もするしここだろうね。準備はいい?俺は手荒な事が苦手だから、あとは頼むね……何してもいいけどバレないように気をつけて」

「全員警察に突き出すだけだ」


 俺は犯人に警戒されないように、人数を把握してから乗り込もうと考えていた。息を潜めて中の様子を伺う。


「やっぱ種族特徴出て取り乱してる子エロいわ!後で動画回して」

「なあ、あのチアのピンクちゃんいないのかよ?」

「俺もあの子目つけてたんだよね、驚いて泣いてるところ見てぇ~」

「お前やったんだろ?どうだった?」

「すぐ逃げちゃったから見れなかったんだよな~ぜってぇエロ可愛いから早く見てぇ」

「チアしてる時の動画ならあるぜ!あとで売ってやるよ」


 人が発してるとは思えない下卑たやり取りが聞こえた瞬間、頭の中で何かがぷつりと切れた。

 気づけば俺は扉を蹴飛ばし、召喚した剣に魔力を通して即座にその場にいた全員を叩き伏せていた。


「なっ、なんだよお前ぇ……」

「痛え……」

「は……?1人……?」

「ぐぇっ……」


 まだ言葉を吐く余裕があるとは、手加減しすぎたか。だが解除薬を出させるためには話せる状態にしておいた方がいい。俺は全部で10人程の犯人を捕縛し、詰問する。


「解除薬を出せ」

「は、はぁ?なんでお前なんかに……ひっ」

「答え以外を口にするな、もう一度だけ聞く、解除薬はどこだ?」


 顔面の真横に剣先を突きつけると先程まで喧しく喚いていた口が震えながら近くの鞄や服のポケットを示した。俺は無言でそれを取り上げ、10個ほど確保する。そのうち一つを目の前の男に飲ませ、その反応から本物の薬だろう事を確認した。


「トマリ・ヘルダー、君がリーダーかなぁ?今までの録画って全部この中?それともバックアップとかある?」


 いつの間にか近くに来ていたジンが犯人の1人から携帯を取り上げ画面を示す。


「い、言うかよ……」

「オックス銀行って結構大手だよね?普段は真面目なのかなぁ、ストレス溜まっちゃった?へぇ娘さんいるんだ……パパがこんな事してるって知ったらどう思うかな?」


まるでセリフを読み上げるようにスラスラと犯人達の所属を口にするジンの言葉に男の顔から血の気が引いていく。


「なっ、なんでお前そんな事……」

「こういうの、プライベートの携帯でやるとリスクあるよねぇ」

「まさかお前ハックして……」


 男の言葉には答えず、ただ目を細めるジンの姿は普段とは違う威圧感があった。笑っているのに心の底が見えない瞳がこちらを振り向く。


「あの子はきっと空き教室にいるよ。本当は俺が届けてあげたいけど、今の状態じゃ話を聞いてもらえないかもしれないし……俺はもう少しお話ししたいから」

「言われなくともそのつもりだ」


 解除薬を手に、俺は旧校舎を後にする。ジンが言うようにフレンはきっと校舎の出口すぐの空き教室にいるだろう。咄嗟に逃げ込みやすいその場所が1番確率が高い。俺は一度も振り返らず全速力でフレンの元に向かった。

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