表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/67

63話: 初めての誕生日を君に⑤

「ルカ!今日お昼、一緒に食べよ!」


 ルカの誕生日当日、ペア授業の終わりがけに俺は声をかける。俺の言葉にルカは嬉しそうに頷いてくれたので、俺はエリオ君と目配せして準備を始める。ルカには先に中庭に行ってもらって、お弁当を取りに行くふりをしてプレゼントとケーキを持って行く流れだ。特別な会場は借りれなかったけど、中庭にはしっかりしたテーブル席もあるからお祝いには十分だと思う。

 プレゼントを後ろ手に、エリオ君と並んで中庭に現れた俺を見てルカは不思議そうな顔で俺を見つめた。


「ルカ、誕生日おめでとう!」

「兄さん……誕生日おめでとうございます」

「……?」


 エリオ君に手伝ってもらってパーティ用の花火魔法でお祝いの空気を作る。

 そのままケーキを出してルカの目の前に並べた。


「……フレン?ご飯は?」


 ここまでしてもまだ自分の誕生日祝いだとは分かってないルカに俺はちょっと切なさを感じたけど


「前に言ったでしょ?ルカの誕生日お祝いするって。ご飯も食べるけど、ケーキ食べよ?」

「……俺の?誕生日?」

「うん、そう、ルカのお祝いだよ」


 生まれてからずっと、お祝いどころか誰からも拒絶しかされてこなかったルカがすぐにこれを受け入れられるとは思っていない。見方によっては俺のエゴだろう。だけど、それでも俺は今、ルカがこうやって穏やかに過ごせる中でお祝いをしたかった。

 炎魔法で蝋燭に火をつけ、ルカに声をかける。


「ほら、火を吹いて消してみて。魔法使っちゃダメだよ」

「……?わかった」


 俺はまだルカのことを何も知らない。だけど今日一つ新しく知った事がある。それはルカは蝋燭を消すのがとても苦手だという事。肺活量はあるはずなのに要領がわからないみたいで全然消えないのには笑ってしまった。やっと消えたそれを見て、切り分ける前に俺はルカとエリオ君に声をかける。


「ルカ、こっち見て、ほらエリオ君もこっち!」

「……何?フレン」

「ほ、本当にするんですか?」


 素直についてきてくれた2人を引き寄せて俺は魔導カメラを起動する。


「ほら、笑って!……ルカそれ笑顔のつもり?あはは、真顔すぎ!」


 シャッターを切り、魔法が作動して写真が出てくる。拾い上げたそれに写ったルカは笑顔が作れなくてキョトンとした顔になったし、エリオ君は証明写真みたいにカチカチだったけど、誕生日らしい1枚だった。


「ルカ、この写真とこれ、俺からのプレゼント。」


 俺は隠しておいた袋を取り出してルカに差し出す。よくわからないと言った顔受け取ったルカに開けるように促した。


「……フレン、これ」

「前に、冬月祭の時に撮ったやつ入れてるから、今日のも入れて使ってね」


 俺が選んだのは空色のガラスでできたフォトフレーム。2枚組になっていて片面には前にルカと出かけた時に撮った写真をあらかじめ入れておいた。それに今日の写真も入れてもらって完成するプレゼント。エリオ君から教えてもらった翼竜の好む色合いにしたそれは所々に雲のような意匠がついていて空を切り取ったみたいなデザインだ。


「ルカとの思い出、こうやって形にできたらなって思って。飾ってくれると嬉しいな」

「……フレン」


 急に視界が暗くなる。体にかかる重さから、正面からルカに抱きしめられたみたいだ。


「……大事に、する」


 ルカの表情は俺からは見えない。だけどその声から滲む体温に俺は確信した。さっき、写真を撮るときはできなかったけれどきっと今は素敵な笑顔がそこにあることを。

 春の終わりのこの日がルカにとって素敵な思い出になりますように。そんな願いを込めて俺はいつもみたいにルカを優しく撫でた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ