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60話: 初めての誕生日を君に②

「遅いです、貴方待ち合わせくらいちゃんとできないんですか?」

「ごめんごめん!信号に捕まっちゃって……」


 開口一番飛んできた言葉に俺は手を合わせて謝る。エリオ君との待ち合わせ、俺はいつも使ってる道が工事中で遠回りになった上、長い信号に捕まってしまい5分ほど遅刻してしまった。一応道が工事中の段階でエリオ君に連絡を入れていたんだけど、それでもまあ怒るよね。


「それで、何買うんです?」

「うーん、まだ決めてない。エリオ君と一緒に考えられたらなって」

「は?無計画すぎません?僕兄さんの好きな物とか知りませんよ」


 呆れたような声で返されるエリオ君の言葉は、想定の範囲内だ。兄弟についてルカが話してこないってことは、そこまで深い親交が無かったことを示しているし、俺もそこを頼りにするつもりはない。俺がエリオ君に求めてるのは、今から一緒にルカのことを考えてプレゼントを買うこと、それと――


「俺、竜族の事よく知らないから定番のプレゼントとか、あとは絶対避けたほうがいいものについてアドバイスもらえたら嬉しい!」

「……それなら、まあ、いいですけど」


 俺がまだよく知らないルカに関することを教えてもらうことは必須だ。前提として、邪竜に関してのみならず、竜族は秘密に包まれた種族だ。全種族中トップクラスの圧倒的な魔力に、強靭な肉体を持つプライドの高い種族とは聞いた事あるけど、彼らは珍しい種族な上基本的に同族以外と関わろうとしないから、俺はその他のことを何も知らない。エリオ君の高飛車な態度も、思うところはあったけど、竜族としてのプライドの高さだと思えば納得できる。彼の場合はそれに追加してルカへのコンプレックスもあったから余計にあれな感じになってただけで。


「竜族の中でも僕達は翼竜なので、贈り物のモチーフとしては空に関するものがポピュラーですね。逆に海に関する物は、海竜がよく使うので好んでは使われません」

「えーっ!2人って翼竜だったの?翼とかあるの?見たーい!」


 様々な種族が集ううちの学園では、形態変化で仕舞える種族特性は隠すのが校則だ。ツノとか肌の色とかはそのままでいいけど、人にぶつかりやすい翼や、大きすぎる尻尾とかはしまっておかなきゃいけない。ちなみに、社会に出たら校則はなくなるけど、良識に則って適宜種族特性をしまいつつ生活するのがマナーではある。だから、竜族のような大きな翼を見た事ってなくてその興味から俺はこう発言したんだけど……


「ちょ、こんな往来でやめてください!貴方露出狂ですか?」

「え?」

「竜族は人前で種族特性を見せることはありません。聖なる姿は同族のみに見せる物だからです」


俺の言葉にエリオ君が信じられないと言った表情を向ける。その必死さに、早速俺は竜族のタブーに触れかけた事に気がついた。


「ごめん知らなかった!教えてくれてありがと」


 翼一つとっても種族によって考え方が全然違う。妖精族には特にそういう決まりはないし、むしろ社会人とかならチャームポイントとして見せてる人も多い。学生でも休日とかならおしゃれ感覚で出す子が普通にいるくらいだ。俺の場合は羽に夢魔の特徴が混ざっているから出せないだけで、基本的に羽は他の種族でも出す事の多い種族特性。だから俺は、その感覚で何気なく聞いただけなんだけど、どうやら竜族にとっての翼は妖精族とは全く別の意味を持つ神聖な物らしい。

 こんな風に、ある種族では普通な事が別の種族だとタブーだったりするから、俺は竜族についてちゃんと把握しておきたいと思ったんだよね。まあルカはあんまり気にしなさそうだけど。


「……せ、先輩は、何族なんですか?僕だけ知られてるのはフェアじゃ無いですし……」


 エリオ君の言葉に少しだけ緊張する。ちなみに種族について聞くのは、ある程度仲が良ければ問題のない行為だから彼は全く悪くない。

 だからこの質問はエリオ君なりに俺の事が知りたいって意図で、彼にはきっとその思いしかない。ただ、俺の方が勝手に気にしてるだけ。その事に少しだけ罪悪感を感じながら俺は


「俺は半妖精。俺も羽あるけど小さくて恥ずかしいから…見せるのは無しね?」

「小さ……っ!べ、別に気になってませんけど!!」


そう言って冗談めかして背中を隠した。このフレーズは夢魔の血を隠すために昔から言ってる俺の常套句。妖精族は羽が綺麗な種族だから見せてって言われることも多くてそれをうまくかわすために考えた言葉なんだよね。こうして冗談っぽくしたら相手の気を悪くすることなく羽を見せずに済むし、俺の羽が小さいのは本当だからまるっきり嘘ってわけじゃない。

 ちょっと苦手な自分の種族に関する話題だからエリオ君の反応が怖かったけど、彼は特に突っ込んではこなかったので俺はそっと胸を撫で下ろす。


 そうしているうちに今日の目当ての店が近づいてきたので俺はそれとなく話題を変えて、なんでもないように話を続けた。


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