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54話: 春は出会いと波乱を連れて③

 目の前で繰り広げられる高位魔法の応酬。

 目で追うのもやっとな怪獣大戦争みたいな光景に俺は思わず叫ぶ。


「これ、俺が何かできる事ある!?」


 ミチル先生のお願いを受けて、俺は少しの間ルカとエリオ君のペア授業に同席する事になった。先生の言う事でさえ特に聞く気のないルカがペア決めの時みたいな行動を起こさない様に、または起きた時に止める為、1年間ルカのペアを勤め上げた俺に協力して欲しいというのは理解できる。ミチル先生は研修期間が終わったばかりの新米の先生だし、座学の方が得意だから、ペア決めの時のあれで不安もあるだろう。だけどさ、これは――


「……フレン、見て、前に褒めてくれたやつ」


 褒めて欲しそうな目で俺を見るルカの手によって生み出された魔力の竜巻。確かに凄い、魔力の量だけでなく魔法を形作るコントロールの精度もあり得ないくらい高い。だけど、文化祭で披露した魔法演舞で使ったそれを、1年生との授業で使うのは、違くない!?いくら今日がペア同士での攻防の練習だと言っても攻撃がこんなに強かったら練習にならない。


「わっ!エリオ君危ないっ!」


 あんな攻撃先生でも受け切れないだろう。俺はあれをクロード以外の人が捌いてるのを見たことがない。迸る魔力の渦にエリオ君が飲み込まれ、俺は思わず目を瞑ったけれど


「……ふっ」


竜巻の中から出てきた彼は、強力なシールドに覆われていて、傷一つついていない。そのまま流れる様に詠唱し、魔力弾を展開してルカに狙いを定めた。鏡の様に魔力を乱反射させて威力の増幅したそれが雨の様にルカと、ルカの横にいる俺に降り注ぐ。


「ちょっ、こんなの無理っ!」


 轟音を上げて近づいてくるそれに死を覚悟しながら防御魔法を展開するけど、紙みたいな耐久のこれで受け止められるわけがない。せめて直撃は避けたいと俺は身を縮めたけれど


「……フレン、こっち」

「わっ!?」


魔力弾は着弾する前に全て跳ね返されていた。シールドならともかく、カウンターするなら離れてても大丈夫なのに、ルカは今の一瞬で俺を後ろから守るように抱き寄せ、エリオ君の方を見てもいない。

 結局この後はこの規模の魔法の応酬が続き、俺は肉体的には無事だけど精神的には満身創痍で授業が終わった。


 (ルカって今まで手加減してくれてたんだ……)


 ルカは手加減が苦手だと思ってたけど、それでも今日の授業で今までルカがめちゃくちゃ手加減してくれていた事が理解できた。俺とのペア授業で、俺にとっては物凄い攻撃に感じてた魔法も、今日と比べると子供のごっこ遊びみたいなものだった。


 (というか、エリオ君って何者……?)


 もう一つ理解した事、それはエリオ君の実力だ。ペア決めの時のエピソードから腕に自信があることはわかってたけど、ルカがこの出力を出せる相手を俺は今までクロードしか見た事がない。クロードは歴代でも学園トップと言われている実力の持ち主だ。入学したばかりの子がそのレベルに達してるなんて俺は信じられなかった。


「エリオ君もお疲れ様、凄いね!魔法得意なんだ」

「……」


 ペア授業の後、俺はエリオ君に話しかけた。ミチル先生から頼まれた事とはいえ、事務的に監督するだけじゃなくて、できればエリオ君とも仲良くなりたい。そう思って言葉をかけてみたんだけど、返事は返ってこなかった。

 随分な反応だけど、実はこれが初めてと言うわけじゃない。授業の初めに自己紹介(前にいらないとは言われてたけど一応ね)をした時も目線すら向けられずにスルーされた。自分より弱い相手と話したくないってのは本当なんだろう。


「……俺の方が強い」

「うんうん、ルカも凄かったね。庇ってくれてありがと!」


 エリオ君に話しかけてたら急に後ろからの圧力が強くなる。振り返ると少し不満げな顔でルカが体重をかけて褒めを催促するので俺はわしゃわしゃとルカの頭を撫でた。俺に頬を擦り付ける様に甘えてくる姿は去年から変わらないな、なんて思っていたら


「……弱いだけでなく、強者に媚びて生きているのって恥ずかしくないんですか?」


エリオ君からなかなかな事を言われる。

 少しわかってきた事だけど、彼は俺からの挨拶とかは無視するけど見下すための声は割と積極的にかけてくるみたいだ。多分だけど、弱さを嫌うあまり、弱い相手に苛立ってしまうんだと思う。


「そう見えたらごめんね?ルカこうすると喜ぶからつい……」


 魔法は凄いし、優等生らしい振る舞いをしてるけど、多分精神は年相応な思春期真っ盛りな彼を怒らせないよう俺は言葉を選んで笑い返す。俺が彼より弱いのは事実だし、去年一年ルカを見て強さは見慣れてるからこういうのでは傷つかないしね。


「……っ、プライドとかないんですか?これだから弱い人は!それに」


 俺に言い返されなかったことが返って癪に触ったのか、余計不機嫌になったらしい。弱い人が嫌いな割にスルーされるのは嫌ってもしかして彼は構われたがりなのかもしれない。俺は同じく構われたがりのルカを撫でて構いつつ呑気に話を聞いてたんだけど、続くエリオ君の言葉に固まる事となった。


「兄さんも、兄さんです。なんでこんな弱い人に構ってるんですか?気持ち悪い」

「に…兄さん!?!?」


 今この場にいるのは俺とルカだけだ。当然俺は彼とは縁がないから消去法でルカに対する言葉になるわけだけど――


 (……でもまさかそんな事あり得る?)


 耳から入った情報を理解する事を脳が拒んでいる。確かにルカは弟がいるとは言ってたけど、こう来るとは思わないじゃん。何かの冗談?いやでもエリオ君ってそう言うこと言わなそう。混乱した俺は頭を整理したくて顔を上げた。そして――


 (あ……目の色深緑なんだ)


 いつも俺のことを無視してる横顔しか見たことなかったから気が付かなかったけれど、俺の真正面に立った事で初めて見れたエリオ君の瞳はルカと同じ色をしていた。

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