51話: お誕生日会にご招待⑥
少し窮屈な感覚を覚えながら俺は目を覚ました。
「あれ?俺正装着たまま寝てた……?」
昨日の誕生日会から帰り道の記憶がない。もしかしてカイが送ってくれたのかも?今日学校でカイに聞いてみようかな。
そんな事を考えつつ、俺は少しガタつく体を引きずってシャワーを浴びる。正装のまま寝たせいで凝った体に温かいお湯が沁みた。バスルームから出て、タオルで髪を拭きつつ、俺は机の上にある錠剤の瓶を掴む。中から取り出した薬を口に入れる前、ほんの少し躊躇うけど、この時期は仕方ないよね。着替えてる間に効いてきた薬がもたらすほんの少しの眠気を抱えて、俺は朝食を食べ学校に向かった。
◇
今日の授業はペア授業だ。俺はルカと授業の準備をしながら昨日参加した誕生日会の話をする。
「それでね、クリスフィアさんがね……」
「……」
ルカは無口だけど、無愛想ってわけじゃない。俺の話に洒落た言葉を返したりはしないけど、今もずっと俺の目を見て真剣に話を聞いてくれる。そういうところが居心地良くて俺は結構ルカと話すのが好きだ。そうして色々話してる内に俺はあるとんでもない事実に気がつく。
(俺、ルカの誕生日知らない……)
仲良くなって1年経つのにこんな重大な見落としがあったなんて……自慢じゃないけど俺は友達の誕生祝いを欠かした事がない。仕送りのお小遣いと短期バイトの使い道の大半がこういう事のための費用だ。なのに、言い訳になっちゃうけど……ルカと誕生日のイメージがあまりにもなくて今の今まで話題に出す事がなかった。時期的に過ぎてる可能性が高いけど奇跡的に3月末とかならまだ間に合うし、過ぎてても後からごめんって渡そう、そう思って
「る……ルカって誕生日いつ?」
って聞いてみたんだけど
「……覚えてない」
なんて事ない調子で、とんでもない返事が返ってきたから俺は言葉を失った。
「えっ?それって……どういう」
「……誕生日ってなんに使うの?」
「あ……」
ルカから心底不思議そうな顔で尋ねられ、俺は悟る。おそらくルカは一度も誕生日を祝われる事がなかったということを。冬月祭のプレゼント交換も初めてだって言ってたから予想できないことではないのかもしれないけど、それはあまりに悲しい。勝手に悲しむのも失礼かと思ったけど、思うのは止められない。
「学生証見せて?そこに載ってるから……あ、4月なんだね。春生まれなんだ!去年渡せなかった分奮発するから楽しみにしてて?」
見せてもらった学生証の無機質な印字をなぞりながら、俺はルカに笑いかける。
「……わかった……?」
ルカは、俺の言ってる意味がよくわかってないみたいだけど返事をしてくれた。その素直な姿に心が苦しくなる。ルカの家族ってどんな人なんだろう。物語では常に悪役として描かれる邪竜。竜族にごく稀に生まれる異端とは聞くけど、本当にそんなに悪い存在なのかな?ルカを見てると少なくとも俺はそう思えない。子供の、誕生日すら祝ってくれない親ってどういうことなんだろう。そんな考えが頭の中をぐるぐるして俺はつい
「ルカの……家族って……」
と思ったことを口にしていた。俺は自分で吐いた言葉が耳に入った瞬間まずいって思ったけど
「……親と弟……がいる」
ルカは感情のこもってない目で何かを思い出すように答えてくれた。
「お、弟……いるんだ」
聞いたくせに、なんて答えていいのかわからなくて、俺は一番無難そうな言葉を聞き返す。
「……どんな子?ルカに似てる?」
「………………俺より弱い」
最強の魔力を持つルカのその回答は、世界中の人に当てはまる事なので弟君の特徴は全く特定できない。でもそれ以上突っ込んだ事を聞いていいのか悩んでいるうちに授業が始まり、全てが曖昧なままこの話は終わってしまう。春の訪れ、俺にとって少し憂鬱な季節が終わるまでまだもう少しかかりそうだった。




