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44話:不良ワーウルフの決意②

 予想通りの馬鹿みてえな音量の目覚まし時計に叩き起こされた修学旅行2日目の朝、朝食もそこそこにバスに乗り込んだ俺たちは博物館に来ていた。

 ここでの見学は様々な種族の特性や種族を紹介する展示を自由に見回り、後日レポートにして提出するというものだ。


 自由行動になり、ガネマルとノートンはよくわかんねえ古い歴史の何かを見に行くと言って別れ、俺はフレンと2人で回ることになった。ただ、仲良く並んで見学はなんか恥ずかしくて、俺は少し距離を置いて適当に展示を眺めていた。

 俺から少し離れたところで、何が楽しいのかぴょこぴょこ歩いてるフレンは、ひっきりなしにクラスの奴らから声をかけられている。見ていると、女子とは楽しげに、まるで女同士で話してるみたいに盛り上がってるが、男からは妙な距離感で囲まれていることが多いのに気がつく。悪意とかではねえけど、何かしらの意図を感じるそれを見て俺は人に好かれて引く手数多なあいつが俺とつるみがちな理由を察する。


 そうしているうちに、昨日風呂の話をしていた二人組もフレンに話しかけていた。フレンは普段通りの愛想……俺にはあんまり向けてこない感じのやつ……で受け答えしてるが、奴らはクラスメイトに向けるには少し違和感のある視線でそれを見つめている。俺が口を出せる事じゃねぇけど何となく気になって目が離せないでいると、フレンがこちらに歩いてくる。


「カイ、何か面白いものあった?」

「……別に」

「そんなんじゃレポート書けないじゃん。もー!何してたの?」


 お前見てたんだよ。なんて口には出せねえから俺は適当に誤魔化す。


「お前こそくっちゃべってばかりでメモ取れてんのかよ」

「あー……話しかけてくれるのは嬉しいんだけどね」


 いつもみたいに可愛くねぇ言葉が返ってくるかと思ってたのに、返ってきたのは少し疲れたような言葉で思わず俺は


「あっちの方、あんま人いねえし、静かに見れんだろ」


と明らかに人気のないゾーンを指差してしまった。


「こんなのどうまとめるつもり?カイってセンス謎すぎ」


 悪態をつきながらも素直に俺の提案に従うこいつの顔が少しでも元気になってくれたらいいなんて、そんな柄にもないことを思いながら俺たちは面白くもねぇ見学を続けた。


 ◇


 それから何個か港町に点在する歴史的建造物を回ってバスは昨日とは違うホテルに到着した。昨日のもボロかったけど、今日のは輪をかけてボロい。その貧相な見た目から嫌な予感はしてたがそれはすぐに的中した。

 風呂前の休憩時間に俺たちの泊まる部屋、4人部屋の設備がショートし、泊まれなくなったと説明があった。空調から煙が出たらしい。ボロ過ぎてびびったしまじ終わってんだろ。

 代わりに空いていた2人部屋が二つ当てがわれ、ガネマルとノートン、俺とフレンで別れることになった。


 風呂の時間が来たので部屋に荷物を置いて俺は大浴場に向かった。フレンは昨日と同じく部屋の風呂に入るらしい。俺が大浴場から部屋に帰った時にはフレンは風呂から上がってベッドの上で寛いでいた。昨日より狭い2人部屋、当然並んだベッドの距離も昨日より近くなっている。フレンのいる方からするボロホテルの安っちい石鹸と人肌の混ざった香りが俺の鼻腔をくすぐって落ち着かない。俺はそれに気がつかないふりをして自分のベッドに座っていたが


「昨日はガネマルがすぐ電気消しちゃったから、今日はなんか話そ?面白い話とかないの?」


と、フレンが急に近づいてきて隣に腰掛けたから心臓が飛び出るかと思った。

 風呂上がりの上気した肌の赤みが鮮明にわかる距離。安ホテルのたいして泡立たない石鹸のすえた匂いに混じってフレンの花みたいな甘い香りがする。


 ……あんまり大っぴらには知られてないがワーウルフに多い嗜好は匂いフェチだ。御多分に洩れず俺もその気がある。


 なんで急にそんなことを暴露したかっていうとつまり、今の状況がやべぇってことが言いたいわけで――


「ちょっとー聞いてる?無視しないでよ」


 そんな気も知らずフレンは俺の脇腹をツンツンと指で触ってきやがった。こいつわざとやってんのか?あざとすぎるだろ……。その刺激に俺が必死に耐えていたら


「って硬……もしかしてこれ腹筋?えー!見てみたーい!ねえ見せて?」

「は?お前何言って……おい!その目やめろ」


 勝手にめくってはこないが、フレンから明らかに期待された目で見つめてこられる。長いまつげに縁取られた大きな薄灰色がキラキラしていて、目を逸らせない。だから俺は無視することもできず


「すごーい!ボコボコしてる!触っていい?」


フレンに言われるがままに腹を晒すしかなかった。もうなんか、断る気力もなく、続く要望も許可すると


「わぁ!かたーい!いいなぁ……かっこいい」


 フレンは男としての憧れを浮かべ、身を乗り出して触れてくる。

 いつもは俺に対して生意気な口ばっかり聞いてくる癖に、こういう時に限って純粋にべた褒めしてくるから調子が狂う。かくいう俺も、鍛えてる自覚はあるから悪い気はしなくて、結局その日は消灯するまでずっと、男にしては小せぇ手で触られまくった。

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