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40話:冬月祭、サプライズとプレゼント⑥

「フレン、寒くないか?ほら、これ」

「ありがと、クロード」


 すっかり暗くなった夜空に浮かぶ大きな月に照らされた寮の裏庭で、俺はクロードから手渡されたホットチョコレートを飲みながら庭の装飾を眺めている。

 庭師の人が毎年工夫を凝らして飾りつけるそれは夜空の星に負けないくらい輝いていて幻想的だ。街の飾りも綺麗だけど、密かに有名なうちの寮のこれを眺めながら過ごすのが、この学校に入ってからのクロードとの暗黙の了解だった。庭で一番大きな木があるあたりは、装飾も豪華で寮生も多く混雑するので、今はそこから少し離れた端の方に来ている。プレゼント交換は人が多いとしずらいから。


「フレン……冬月祭を祝して」


 俺がホットチョコを飲み終わった頃、クロードが俺を見つめながらコートのポケットに手を入れ、綺麗な小箱を取り出す。俺はそれを受け取り、中身を見るため凝った結びのリボンを解いて開いた。


「わぁ!かっこいい」


 箱に入っていたのは丁寧な縫い目の付いた上品な作りの手袋だった。防寒用ではなく、普段使い用の形状のそれは夢魔の血が流れる俺が体質をカバーするために付ける為の物だ。


「最近、手袋をよくはめ直してたから……そろそろ買い替えかと思ってな」


 クロードの言う通り最近は色々あったから(特にナンパとかで掴まれたり)今つけてる手袋はよれてきて買い替えたいなと思っていたところだった。でも専用のになると結構高いから、冬月祭のプレゼントでお金も無い俺はしばらく我慢するつもりでいた。


「今一番欲しいものだよ!ありがとクロード!」 

「気に入ってもらえてよかった」


 貰った手袋はお世辞抜きに色も質感も俺好みですごく素敵だったから、その気持ちを込めてクロードにお礼を言う。


「ね、今つけてもいい?」


 取り出した手袋を片手に俺がクロードに尋ねると、


「…………、それは構わないんだが、フレン」

「?」


クロードはその海色の瞳で俺を真っ直ぐ見つめて、返事の途中で言葉を切った。いつもならすぐに良いって言ってくれるのに、何か注意事項でもあるのかな?


「その、俺が嵌めてもいいか?」

「え?」

「あっ……変なことを言ってすまない」


 言い終わった後で、クロードが気まずそうに目を逸らす。嵌めるって手袋を俺にだよね?今までそんな事やった事ないけど急にどうしたんだろう。

初めてされた提案に少し驚いたけど、少し考えて俺は


「直接手に触れないように気をつけてね」


と、手袋をクロードに渡して手を伸ばした。


「い……いいのか?」

「うん。だってクロードだし。ね、俺これすごく着けてみたいから早く!」

「わかった。じゃあ、手を出してくれ」


 クロードが古い手袋を俺の指から抜き取ると、冬の夜の空気が素肌を撫でて少しヒヤッとした。変な場所じゃないのに、普段隠してる所だから人目に触れるのが恥ずかしくて指先が少し震える。それを支えるようにしてクロードが俺の手にそっと新しい手袋を嵌めていく。まるで宝石にでも触れるかのような丁寧な手つきにむず痒さを覚えながら、俺は手首まで布が滑る感触に身を任せ、両手分終わるのを大人しく待った。



「あれ……これって……」


 つけてから気がつく、手袋から伝わる微かな加護の感触。


「自動浄化魔法がかけてあるんだ。日常的に使うものだから汚れを気にしなくていいようにと思ってな」


 常に肌を隠す必要のある俺にとって、日常的に身につけておいても清潔を保てる高位の加護のついたこの手袋は画期的だった。いつも手袋の管理の為に洗浄魔法を自分でかけてたんたけど、地味に疲れるしストレスだったんだよね。まあ、そのお陰で浄化魔法系が少し得意になったから良し悪しではあるけどさ。


「すごーい!めちゃくちゃ便利で最高!やっぱりクロードってセンスいい!ありがとう!」


 俺は新しい最高の相棒を撫でながら、改めてクロードにお礼を言う。


「じゃあ俺からも、クロードに。冬月祭を祝して」


 クロードから、ドンピシャなプレゼントを貰って思わず舞い上がってしまったけれど、もらってばかりではいられない。俺は用意していた小包を鞄から取り出し、クロードに手渡す。


「ありがとう。開けてもいいか?」


 俺はそれに頷きながらクロードが包みを開くのをどきどきしながら眺める。


「……っこれを俺に?」


 クロードの手のひらには海色の刺繍の入った剣技用のグローブ。そう、実は俺とクロードのプレゼント、チョイスが丸かぶりしてたんだよね。強いて言えばこれは剣を扱う時につける用のやつだからそこが違いだけど。


「拘りとかあるかもって最初は別のにしようと思ったんだけど……どうしてもこれがいいって思って」


 華美ではないけれどシンプルで美しい刺繍が施されたそれを見た時、俺はいつも守ってくれる優しい掌を思い出してこれしかないって思った。


「剣術は詳しくないし、使いにくい型?とかだったらごめん」


 だけど、俺は話しててだんだん自信がなくなってきていた。プレゼントが手袋で被った上、こっちは専門的な知識なしで買ったものだから。一応クロードの使ってる剣のタイプには合わせたけど、全然使えないとかだったらどうしよう。そんな事を考えて、なんだか恥ずかしくなってきて俯いた俺に


「すごく……嬉しいよ。ありがとう。フレン、その、良かったら……俺の手にこれを嵌めてくれないか?」


クロードが心の底から嬉しそうな声でグローブを差し出してくれる。クロードは今剣を持ってないけど、俺と同じですぐ付けたくなるくらい気に入ってくれたってことかな?そうだといいな。


「う、うん!任せて!えっと……こう?」


 俺は受け取ったグローブを丁寧にクロードの手に嵌めていった。俺と違って大きくて少し筋張っている男の人って感じの手をグローブがちょうど良く覆っていく。良かったサイズは合ってるみたい。


「すごく手に馴染む、大事にするな。ありがとう」


 クロードが大事そうにグローブを指で撫でるのを見て、俺はさっきまでの悩みが杞憂だったと知る。プレゼント選びはたくさん悩んだし不安もあったけど、クロードからこう言ってもらえて俺は心の底から嬉しかった。この気持ちを今すぐ共有したくて俺はクロードを見上げて口を開く。


「クロード、手出して?」

「こうか?……っ!?」

「えへへ、クロードの手あったかーい!」


 俺は差し出してもらったクロードの大きな手に指を絡ませて向かい合わせで手を繋ぐ。贈り合った手袋を嵌めた手を重ねて伝わる体温は、少し熱い気もしたけどポカポカして心地良い。クロードは何でか少し静かになっちゃったけど、きっと同じ気持ちだよね。


 今年のプレゼント交換は全部上手く行ったし、良い冬月祭を過ごせた気がする。まだ繋がったままの手を眺めながら俺は心の中に広がる満足感に浸って電飾で輝く夜空を見上げた。大きな満月が優しい光で俺達を包み込んでくれているようなそんな素敵な夜がもう少し続いてくれるといいな、なんて思いながら俺はもう一度繋いだ手にそっと力を込めて、祈るように静かに目を閉じた。


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