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4話:過保護幼馴染と執着邪竜後輩の邂逅

 ほんの少しだけ初夏を感じる5月の半ば

 新緑に囲まれた中庭でそれは勃発した。


俺の過保護な幼馴染と、ちょっと懐きすぎな後輩との初対面は予期せぬ事態に発展してしまった。


 ◇◇


「えー?ルカ、これ本当にできるの?合ってる?」


 少し皺がよった教科書を開きながら、俺は半信半疑で後ろのツートン前髪を振り返る。


「……大丈夫、そのまま手に魔力を集中して」


 ルカは教科書を一瞥もしない代わりに俺に視線を合わせ両手を補助するように包み込み合図する。


「……今」


 瞬間、俺の手のひらに集められた魔力が綺麗な弧を描いて飛び出す、魔力操作の応用、追尾型の魔力弾だ。


「やったー!本当にできた!ルカありがとう」


 ずっとうまくいかなかったのに、ダメ元でルカに聞いてみたらすんなりできるようになった。その感動と喜びで俺はルカに抱きつく。


「……っ、うん、フレンが喜んでくれて嬉しい」


 抱きつかれた衝撃からか、ルカは言葉に詰まりながらも目を細めて笑う。初めて会った時から約1ヶ月、こうしてたまにルカが笑ってくれるのが俺はとっても嬉しい。


「よーし!今の感覚忘れないようにもう一回やってみる!ルカは手伝うのなしね……今度は俺一人でやるから見てて」


 さっきはルカのアドバイスで上手く行ったけど、テストは誰にも手伝ってもらえない。俺は一人でも再現できるようにもう一度手のひらに魔力を集め始める。


「ん……あれ?ちょっ」


 手に込めた魔力が大きすぎたのかうまく制御が効かなくて手のひらから魔力が弾け飛ぶ。その激しさにびっくりして俺は思わず両目をつぶった。 


「あれ?」


ちょっとした怪我は覚悟してたけど、いつまで経っても痛みはやってこなかった。俺が恐る恐る目を開けると目の前に厳重な魔力シールドが張られてるのに気がつく。


「このシールド、ルカの?」

「……手伝いはダメって言われた、けど、フレンが怪我するって思って」


 少しバツが悪そうに目を逸らすルカに俺は前のめりにお礼を言う。


「すごい頑丈なシールドじゃん!ルカは防御魔法も得意なんだね!ありがとう!」


 目の前にあるシールドは暴発した俺の魔法が当たったのに傷ひとつなかった。それにこの密度でシールドを貼ったら俺ならそれだけで魔力が枯渇すると思う。こんな物を無詠唱で瞬間的に出せるんだからつくづくルカって規格外みたい。ほんと凄い。


「……え?」


 なんて事を考えてたら突然裂けるような音を立ててシールドが壊れ、俺はいつの間にか、クロードの背中に庇われていた。びっくりして変な声が出たけど言葉が続かない。


「……誰?」


 最初に言葉を発したのは意外にもルカだった。出会った時よりも不機嫌そうな低い声に思わず震える。だけど今はそれより気になることがあったので俺は目の前の幼馴染に声をかけることにした。


「クロード?どうしたの?」


 彼はそれには答えず、目の前のルカに剣を突きつけてこう言い放った。


「お前が、フレンを怪我させたペアか?」


 いつも優しくて穏やかな声が、刃物のような硬質な冷たさを持って別人のように響く。 


「……怪我?フレン怪我、してるの?」


 クロードの言葉に反応してルカが俺を見る。さっきまでの不機嫌さはなりを潜め、心配の色が見えた。


「クロード、あの怪我はもう治ったし、ルカは悪い子じゃないから大丈夫」 


 クロードは俺が怪我するのを過剰に嫌がる。だからきっとこの間の件と旧校舎の件で俺が怪我した原因をルカだって思って(合ってはいるけど)怒ってる。これはまずい。


「フレンも感じるだろう?この禍々しい魔力、お前に何か悪影響が出ないともかぎらない。俺の後ろにいてくれ」

「……っ」


 言葉には出さないけど、ルカの瞳孔がキュッと細くなるのが見えた。

 クロードの言い分はわかる。ルカが俺に怪我をさせたのは本当だし、ルカの魔力は普通じゃないから。それにクロードは俺のことを大事にしてくれているからこれが心配から来ているのもわかってる。でも、それでも俺は言わないといけない事があった。


「そういう言い方は嫌い!まだルカは何もして無いでしょ?今だって俺を守ってくれただけだし……クロード、ルカに謝って」


クロードの優しさを裏切るみたいで心が痛いけど、俺は何も悪い事をしてないルカを責められるのはいやだったから責めすぎないように、でも言いたい事はしっかり込めてクロードを見つめた。しばらくそうして目を合わせていたら、彼は群青色の瞳を揺らして伏せる。


「……っ、いきなり悪かった……その、すまない」


 そのまま剣を鞘に収めながらクロードがルカに対する謝罪の言葉を口にする。俺の訴えが届いたようで、クロードのさっきまでの怒りも少し静まったみたいだった。

 謝罪を受けた当人、ルカはそれには返事を返さず俺に駆け寄ってきて


「……フレン、怪我って、俺が怪我……させたの?」


 と子犬のような目で見つめてきた。


「ほら、ルカが尖ってた時期にばちばちしてたじゃん?あれがちょっとね」


 気に病まないように俺がわざと軽く説明すると、ルカはこの世の終わりみたいな顔で俺のことを見つめてきて、俺の方がなんか悪いことをした気持ちになった。そりゃ今は仲良しの先輩に、若気の至りで怪我させたって知ったら落ち込むと思うけど、そこまでショック受ける?ルカって繊細なのかも。


「あ、そうだ!ルカ、練習再開しよ!ね?」


 この一件でとても落ち込んでしまったルカの気を紛らわすために俺は練習の再開を提案した。


「練習?何をしてたんだ?」


 クロードから聞かれて俺は教科書を開いて追尾弾の項目を見せる。


「これ!後少しで出来そうなんだよね」

「その単元なら俺も教えられる……」


 教科書を覗き込んだクロードが少し不満げにそう呟く。確かにそうだろうし、彼なら親切でそう言ってくれるのはわかってたけど


「クロード3年生になってから忙しそうだったからさ。さっきはびっくりしたけど会えてよかった!今日は夜ご飯一緒に食べよ?」


 騎士コースの1組ともなればかなりのカリキュラム密度で有名だ。クロードなら全部こなせるだろうけど俺のせいで余計な負担はかけたくない。


「そう、だな……今日は19時には終わるから待っててくれるか?」

「うん!約束ね」


 ニコニコ笑いながら小指を差し出すとクロードもそれに小指を絡めてくれる。昔からやってる約束の印、今でもこの癖は変わらない。


「……フレン、そいつ誰?」


 突然背中が重くなったと思ったら、いつの間にか背後にいたルカが俺にのしかかるように体重をかけてきた。細身だけど身長が高い分重い。なんだかいつもより圧が強いのは気のせいかな?


「幼馴染のクロード。去年の俺のペア!強くてすごく頼りになるからルカも頼るといいよ」


 クロードの紹介をしながら俺が本当に去年何度お世話になったことかと、しみじみ記憶を思い出していたら


「俺の方が強い」


 なんて、不遜すぎる態度で返すんだから、ルカってば子供みたいなところあるよね。声の調子もいつもより低くてなんだか威嚇してるみたいだし。さっきの事まだ根に持ってるのかも。


「……っお前」


ルカの言葉に反応して、クロードの表情が変わる。俺が見た事ない鋭い目付きで握った拳にも力が入っていた。確かにルカの発言は煽りにも取れるけど、クロードってこんなに堪え性なかったっけ?なんて思いながら、俺は2人の間に割って入る。


「もー!2人とも、喧嘩はダメ!まだ俺練習したいからいい子にしててね?」


 一応納得してくれたのか静かになった2人を横目に俺は魔力弾の練習を再開する。

 テストは来週、時間は待ってくれないからね。詠唱をして集まった掌の魔力に手応えを感じる。今度はうまくいくといいな。


練習に集中していた俺は、背後で交わされる2人の視線とその意味に気がつく事はなかった。


静かな威嚇と牽制の渦巻くそれは初夏の中庭で人知れず芽吹きを迎える。




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