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39話:冬月祭、サプライズとプレゼント⑤

「あー!カイいた!ちょっとこっち来て」


 ルカと一緒に街から帰ってきたその足で俺はカイの所属してる寮に向かった。

 他寮に入るのは緊張したけど、幸い探し人はすぐ見つかる。俺が声をかけたら寮の庭でランニングしてたカイは足を止めてこっちを見た。


「……おま、なんでここに」

「カイに用事があってさ……わっ!?」


 カイを見つけて気がはやった俺は、彼に近づく途中で道に落ちていた小石に躓いてバランスを崩してしまった。まずいと思った時にはもう遅くてそのまま地面にダイブするかと思ったんだけど、そうなる前にカイが駆け寄って受け止めてくれたおかげで事なきを得る。


「なんでこの距離でこけるんだよ。お前足元見なさすぎだろ」

「あ、ありがと、カイ」


 運動した直後だからか熱さすら感じるカイの体温を間近に感じながら俺は素直にお礼を言う。

 文化祭準備の時もだけど、カイって運動神経いいからこういう時さっと助けてくれることが多い気がする。


「ずっと走ってたの?」

「一時間くれぇだけど、それがどうかしたか?」

「冬なのに汗かいてたから、そうかなって」

「!?」


 俺は目の前にあるカイの首筋に汗がつたっていたからその事を言っただけなんだけど、カイはそれを聞いた瞬間俺を地面に下ろしそのまま俺から距離を取る。


「えっ、何!?どうしたの??」

「なんでもねぇよ!……くそ、臭ぇとか思われてねぇよな……」


 急にそんな事をされて驚いた俺に、カイが何か言うけど声が小さいからよく聞こえない。

 ただ、このまま距離を置かれると今日の目的が果たせないから俺はそれを気にせずカイに近づくことにした。


「ちょ、お前あんま近寄んなよ」

「もー!さっきから急に何?いいからちょっとこっち来て!」


 何故か俺から遠ざかろうとするカイを引き止めて俺は用意していた袋を鞄から取り出してカイに差し出す。


「冬月祭を祝して!文化祭ではありがと、カイ……開けてみて?」

「俺に……?」


 何故かギクシャクとした動きでそれを受け取るカイが、見かけに似合わず丁寧に袋を開く。カイのことだからビリビリに破くかと思ってたのでちょっと意外に思ったのは秘密。


「カイよく走ってるの見えるから、使うかなって……あとサボってる時頭にかけるのもちょうどいいと思う」


 俺が渡したのは麦畑色の厚手のスポーツタオル。カイのキラキラした髪の色に似たそれは、速乾性能の高い特別製。俺はいつもみたいに難癖つけられる前にこのチョイスの理由を説明したんだけど


「……今日から使うわ……サンキュ」


カイはびっくりするほど素直に受け取ってお礼まで言ってくれた。

 照れ隠しに絶対何か言ってくると思ったのに、一度広げたタオルを丁寧に畳んでそう答える姿に俺の方が面食らってしまった。


「ちょっとそこで待ってろ、勝手に帰んなよ!」

「え?」


 プレゼントは渡せたしそろそろ帰ろうかと思った矢先、俺は突然大きな声でそんなことを言われ、急に寮に走って行ったカイを首を傾げながら待つことになった。


「ちょっとこっち来い」

「早……」


 さっき背中を見たと思ったらもう帰ってきた。カイって本当足早いよね。

 俺はカイに促されるまま俺は寮の少し人目に付かない建物の影に脚を運ぶ。


「あー、これ、……っ冬月祭を祝して」

「え?」


 カイが目を逸らしながら俺に向き直り、手に持っていたものをこちらに差し出してくる。

 俺は目の前に突き出されたその小包を見て固まった。


「おい!何ぼーっとしてんだよ馬鹿」


 そのまま、俺がびっくりしてかたまってたら、カイが荒っぽく声をかけてくる。そう言って乱暴に押し付けられたこれに対して俺は


「もしかして……プレゼント?」


なんとも間の抜けた問いかけをしてしまう。

 だって、もらえると思ってなかったし。カイへのプレゼントはサプライズ枠だから事前に連絡なんてしてない。仲はいいけどこういう事する感じじゃないカイからのこれは本当に予想外だった。


「それ以外に何があんだよ!いらねーんなら返せ!」


 口悪くそんなこと言ってるけど照れ隠しなのは見え見えなのでカイの言葉はスルーして、俺は包みを受け取って開けることにする。


「お守り?」


 包みから出てきたのは、金色のルーンが刻まれた、丸い魔鉱石のストラップ。僅かに加護の魔力を感じるそれは安全祈願、怪我避けのお守りだった。


「お前どん臭えし、そんなんでも無いよりマシだろ。さっきもこけてたし……今年はよく下の兄弟達が世話になったから……その礼」


 ぶっきらぼうな悪口混じりのその言葉の中にカイの優しさが滲むのを俺は見逃さなかった。文化祭の日、怪我して歩けなくなった時助けてくれたのはカイだったしね。きっとその時のことを心配して選んでくれたんだろうな。


「ありがと。カイって意外とセンスいいよね!今日からつけるね」

「意外は余計だろ!やっぱ返せ!」

「もう貰ったから俺のだし!よく見るとこれ結構可愛い~」


 俺は手のひらサイズのコロンとしたお守りを握って、少しからかいを交えてお礼を言う。驚かせるつもりが逆にサプライズされちゃった。俺の言葉に反応してカイが色々言ってくるけどそれを流しながら俺はお守りをバッグに仕舞う。

 なるべくよく使うものに付けたいな。学校に必ず持っていくキーケースとかがいいかも。身につけやすく、身近で手助けをしてくれるこれはどことなくカイみたいだと思った。


 そうしているうちに、陽が落ちてきて少し寒くなってきたけれど、プレゼントのおかげか心はポカポカしている。俺はカイに手を振ってその場を後にして、寮で待ってるクロードの元に向かった。

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