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35話:冬月祭、サプライズとプレゼント①

 すっかり寒くなった12月の今日この頃、俺は教室の窓からすっかり葉の落ちた校庭の木々を眺めていた。

 それらは葉っぱの代わりに人工の電飾をつけ、吹き荒ぶ北風に枝を揺らしている。


「もうこんな季節かぁ」


 この電飾は庭師さんの気まぐれなどではなく、年末に開かれるイベント、冬月祭の準備の一つだ。

 一年で一番月が近くなる12月の日、夜の眷属が始めたというお祝い事が広まって、全種族共通で祝うお祭りになったんだって。月を迎えるために歓迎の星空の代わりとして樹々を電飾で飾りつけて彩り、月からの恵みを模してプレゼントを送り合うっていうのが主な流れ。

 まだ自分でプレゼントの買えない子供には、祭りの夜に親が夜にプレゼントをこっそり枕元に置いて月からの贈り物として渡すこれは、一年の中でも夏星祭に並ぶ人気のあるビッグイベントだ。


 夏星祭と違って祭りの会場があるわけではなく、国全体が月をお迎えするために着飾るから、この時期はどこを見ても煌びやかで楽しい。


「今年はクロードに何あげようかな……それとルカ、あとカイにも……この間のお礼もあるし」


 交換するプレゼントの個数に制限はないけれど、あまり多くの人と交換すると懐が寂しくなるので特にお世話になった人や仲のいい人に送るのが通例だ。俺は毎年固定でクロード、あとはお世話になった人を中心に交換している。


 ちなみに俺が今制服の中に着ているカーディガンは去年クロードがくれたプレゼント。サイズぴったりで着心地が良くてお気に入り。クロードはセンスがいいから俺も今年はプレゼント選び頑張ろう。ルカは何あげたら喜ぶかな?あんまりこういう行事に参加したことないって言ってたし楽しんでもらえるといいな。カイは何あげても文句言いそう。でも結局照れくさそうに受け取るんだろうな。

 俺はそれぞれの反応を想像しながら、冬月祭に向けたプレゼント選びに思いを馳せた。


 ◇


 冬月祭のプレゼント交換は、交換って名前がついてるけど厳密にはそれだけじゃない。

 まず、俺とクロードみたいに暗黙の了解がある場合やお互いに事前の約束をしておく方法。これは交換だ。親から子にプレゼントするのもこれに該当するかな。

 次にサプライズ、これは相手に一方的に渡す形式。送った側にプレゼントのお返しはないけれど相手を喜ばせたい時とか感謝したい時にする感じ。事前申告しないのは、感謝したい相手にプレゼントを強請るってのはちょっと変だから。


 他にはアイドルとかに応援で送ったりとかはあるけどそれは俺たち一般人には関係ないから基本的にこの二つがオーソドックスな冬月祭でのプレゼント形式になる。俺はルカとはイベントを楽しむ目的もあるから交換、カイには文化祭のお礼のサプライズをする予定。


 部屋に飾ってあるカレンダーの丸印、今度の休みに俺はプレゼントを買いに行く事にしてるから、その時までに相手が何を欲しがってるか調査するのが腕の見せどころってわけ。俺は割とプレゼントを選ぶのが好きだからもういくつか候補は絞ってるけど、あと数日の間により良い物が選べるようにこっそりリサーチしないとね。


 ◇


 買い出し予定の休日、寮母さんに外出届を提出した俺は、予定通り1人学園麓の街を歩いていた。


 道すがら見上げた街路樹にも電飾が付いていて、街は冬月祭一色だ。街角には俺と同じくプレゼントを買いに来た人がたくさんいて、いつもより賑わっている。ぼんやりしていると目当てのものが売り切れてしまうかもしれない。俺は用意していた買い物リストを片手に、少し緊張しながら賑わう街頭に足を踏み入れた。


 ◇


「あっぶな……予算ギリギリだった……」


 俺はすっかり軽くなったお財布を撫でながら、代わりに膨らんだバッグを眺める。仕送りと短期バイトで積み立てた予算は、これでも多めに見積もったつもりだけど、いざ店で実物を見てみると、もっといいものが見つかったりして、買い物は難航した。

 結構悩んだけれどいいものが買えてよかった……みんな喜んでくれるかななんて当日の3人の顔を想像して俺は思わず笑顔になる。


 すっかり懐は寂しくなったけど、新作のアイスを買うくらいは残っているので俺は寮に戻る前に、駅前のジェラート屋さんに寄る事にした。


「あれ……あの子もしかして」


 向かっている途中で、道の真ん中でしゃがみ込んで泣いている金髪の女の子が目に入る。歳の頃は4.5歳かな?1人みたいだし、心配になった俺は駆け寄り怖がらせないように話しかける。


「どうしたの?お家の人とはぐれちゃった?」


 俺は小柄な方だけど、それでも彼女をびっくりさせないようにしゃがんで目線を合わせて声をかけた。


「ねーねと、にーにいなくなっちゃったっ」


 わんわんと、不安そうに泣きじゃくりながら俺に答えてくれたその子の金色の瞳に俺は何となく既視感を覚える。もしかしてこの子……?いやそんなことの前にまずは交番!


「そっか……お兄ちゃんが一緒に探してあげる!お巡りさんのところ行こ?」


 そのまま女の子の小さな手を握って立ってもらおうと思ったんだけど、立った拍子に膝小僧に血が滲んでるのが見える。


「わぁ……痛かったね。ちょっとごめんね」


 俺は女の子に確認をとって彼女をゆっくり抱き上げた。いくら小柄とはいえ俺も男だ。ちょっとふらついたけどなんとかバランスをとって、なるべく揺らさないよう気をつけながら交番に向かった。

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