24話: 文化祭、騎士と邪竜の共同演目 ⑥
文化祭2日目である他校交流日は朝から大賑わいだ。
昨日の校内開催日と違いすれ違うのも大変なくらい校内には人が溢れかえっていた。
背のあまり高くない俺は、人混みをなんとか掻き分け進んでいたんだけど
「わっ」
ものすごい勢いで飛び込んできた金色毛玉に突進されて尻餅をついてしまった。金色毛玉……俺の上に乗っかった子供、背丈は俺の腰くらいだけどふわふわした金髪にお揃いの金眼が特徴的なその顔になんとなく既視感を覚えて眺めていたら
「この馬鹿!走んなって言ってんだろが、あと人にぶつかったら謝れ」
聞き覚えのある荒っぽい口調が上から降ってくる。
「はーい……おねーちゃん、ぶつかってごめんなさい」
俺の上に乗っかった金色毛玉を回収したのはカイだった。それをみて俺は気がつく、そうだこの子カイに似てるんだ。
「ちゃんと謝れていい子だね、まあ俺はお姉ちゃんじゃないけど」
俺は髪が長いしこの見た目だから勘違いするのも仕方ないけど、一応訂正しながら起き上がる。
「お前かよ……あー、弟が悪かったな」
バツが悪そうに目を逸らすカイに俺は
「カイって弟いたんだね!すっごくそっくり……だけど可愛い~」
と前のめりに話しかける。カイの足にしがみついてる金色毛玉君を眺めながら俺は思わず笑みが溢れた。
「にーちゃんと、ねーちゃんいる、あといもーと!」
「そうなんだ!今日はお兄ちゃんと来たの?」
「うん!ねーちゃんといもーともあとでくる!」
カイのお姉さんと妹ちゃん……凄く見てみたい。弟くんがこんなにそっくりなら兄弟みんな似てるのかな?……なんて思って俺がカイを見上げると
「お前面白がってんだろ」
とカイから明らかにめんどくさそうな顔で返される。バレたか……でもそっくりな顔が4人並んでるところって見てみたくない?
暫くそこで話してるうちに弟くんがトイレに行きたいと主張したため、カイとはそこで別れて俺は魔法演舞の控え室に向かった。
◇
控え室の中は校内より慌しかった。
やっぱりリハーサルより本番の方が力が入るものなのか、ガネマルも忙しなく歩き回っては何かを確認している。
「2人ともお疲れ様」
俺は控え室の椅子に離れて座ってるクロードとルカにそれぞれ出店で買った軽食を差し入れる。
「忙しいとは思ってたけど、文化祭は見て回れない感じ?」
昨日時点では今日の午前は自由時間になるかなと思ってたんだけど、この状況だと難しそうだ。
「昨日のリハーサルで色々改善点が出てな、思ったより時間がかかってるみたいだ」
俺の質問に、クロードが手元の資料を読みながら答える。
「そっか……でもせっかくの文化祭なのに……」
演舞も確かに大事だけど、文化祭を楽しむのもまた学生生活の醍醐味だ。特に一年生で今年が初参加のルカが文化祭を見て回れないのは少し可哀想な気がして俺はガネマルに話をすることにした。
「忙しいのはわかるんだけど、ルカ達が文化祭を回る時間って作れないかな?」
「確かにそうだな!!すまない!失念していた……なら宣伝も兼ねて看板を持って文化祭を回ってくれないか?」
俺の申し出は快諾され、俺達は3人で魔法演舞の宣伝がてら文化祭を回ることになった。
「あそこの出店!薬草のハーブティーがすごくいい香りでおすすめ!あっちは魔法科学の実験がすごかったよ!」
俺は昨日一通り回った上でピックアップしておいたおすすめの出店を紹介しながら看板を持って校内を歩く。ちなみに俺がさっきからずっと途切れず話してるのは少しでも恥ずかしさを誤魔化すため……というのも、これは宣伝も兼ねているから俺も衣装を着ないといけなくて、つまり女装したまま校内を練り歩くという羞恥プレイの最中なのだ。クロードとルカも勿論衣装を着ている。ただでさえ顔の整ってる2人がそれぞれものすごく似合う衣装を着てるものだからその注目度はとんでもなくて、俺は2人の陰に隠れる様にして歩いている。
「看板、重くないか?疲れたら交代するぞ」
クロードが俺を振り向いて声をかける。俺がこの格好であんまり目立ちたくないのを察してさりげない助け舟を出してくれるところにクロードの優しさを感じた。
「ありがと、でも大丈夫!腕限界になったら言うね」
クロードは女装した俺があんまり外から見えないよう、壁になって歩いてくれている。その上でここまで甘えるのはちょっとなと思った俺は気持ちだけ受け取ることにした。
「ルカは見たいものある?俺わかるところなら案内するよ!」
「…………あれ」
「やっぱないかぁ……ってなに何!?どれ見たいの??」
いつもこういう時、どれも興味ないって言うルカが珍しく指さしたのは
「えっ、あそこかぁ……うーん」
俺が昨日あえて避けていたホラーダンジョンの出店だった。この間の他校交流会の時から思ってたけどルカって怖いの好きなのかな?俺は苦手だから本当なら遠慮したいところだけど……
「わかった……入ろっか、今は空いてるみたいだし、行こ!」
せっかくルカが興味を持ったものだし、ルカに少しでも文化祭を楽しんでほしい俺は少し震えながらもホラーダンジョンに入ることに決めた。
「うわ……暗……」
ダンジョン内は薄暗く、空気も澱んでるみたいだった。教室を投影魔法と幻覚魔法でダンジョンに見せている仕組みだからそこまで広くはないはずだけど、なかなか出口に辿り着かない。それに
「ひゃっ!?」
俺は首筋にヒヤリとした感触を覚えて、思わず目の前のクロードに抱きついた。
「大丈夫だ、怖くないぞ」
クロードは俺の頭を撫でながらそう言ってくれるけど、暗闇で変な感触がしたら怖いに決まってない?
「……フレン、こっち」
ちょっと不機嫌そうに鼻を鳴らしてルカが俺の手を引っ張る。
「ルカちょっと待っ……わあっ!!」
今度は目の前に急に人魂が現れて、俺は反射的にルカの腕にしがみつく。
「あっごめん……びっくりしてつい」
俺はルカの機嫌が余計に悪くなってないか気になり謝ったんだけど
「……これで、いい」
なんでかルカの機嫌は治っていて、それは杞憂に終わった。その後も度重なるホラー演出に俺は都度怯えては醜態を晒す。そんな永遠にも思える時間が過ぎ、出口の光が見えた時には俺の精神は限界を迎えていた。
「クロード、ちょっと看板お願いしてもいい……?」
少し1人になりたくて俺は、2人に宣伝を任せて飲み物を買いに行くことにした。
可愛い後輩の要望とはいえ、流石にこれは耐えられなかった……今度からはやんわり断ろう。




