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21話:文化祭、騎士と邪竜の共同演目 ③

「これ本当にうまくいくの……?」


 文化祭の準備は初日から難航を極めた。俺はラスト数分立っとくだけでいい役なので、今は裏方の手伝いをしながら校庭での演舞練習を見てるんだけど


「ストップ!ストップ!!ルカ君もうちょっと火力抑えてください!!」


 早速、本日何度目かわからないガネマルの声が校庭に響く。


「……なんで?」


 宙に浮き、火炎弾を打ち込んでいたルカが不機嫌そうに地面に降りてくる。


「こんなに広範囲に降らせたら観客まで燃えちゃいますよ!火炎弾はあの円の範囲内にとどめてください!!」


 ガネマルが指差す円は直径10メートル位の物だったけど、先ほどのルカの火炎弾は校庭全部を覆うほどの規模だった。ちなみに俺だと直径5メートルくらいの範囲に火炎弾を出すだけでも息切れするくらいしんどいんだけど、まあそこは流石ルカだよね。


 さて、前にも言ったけどルカは手加減が苦手だ。厳密に言うと苦手……というか彼にとっては学校全体を覆う火炎弾を出すのと、手のひらサイズのそれを出すのも大した差がないから調整が難しいんだと思う。とはいえ、練習の段階でこの規模の攻撃が直撃すると校庭がいくつあっても足りない。


「ガネマル、そろそろ一度休憩にしてみたらどうだ?今から声を張りっぱなしだと文化祭まで保たないぞ」


 同じく校庭に出て演舞の練習をしていたクロードが剣を鞘に収めつつガネマルに声をかける。


「クロード先輩こそお疲れ様です!!先程もフォローありがとうございました!お言葉に甘えて一回休憩にします!」


 クロードの言葉に従ってガネマルが休憩の合図を出す。彼のクロードへのお辞儀の角度が深いのは、ルカの火炎弾が校庭に直撃する前に全て切り落として対処したクロードの功績に対する物だろう。

 朝からずっと文化祭の練習をしているけれど、ルカの魔力が強すぎて、練習どころか、まだ魔法の規模を演舞用に調整する段階から進んでいない。


「クロードお疲れ様。あの数を1人で捌いたのすごいね……俺全然動き見えなかったよ」


 午前中ずっとルカの降らせる無数の火炎弾や魔力砲を校庭に被害が出ない用に受け続ける、なんて離れ業をやってのけたクロードを労う為、俺はタオルとドリンクを片手に駆け寄った。


「ありがとうフレン。流石にあの規模は手加減できないからな……いい練習になったよ」


 殲滅戦みたいなあれを練習と言ってのける幼馴染の底知れなさに軽く震えながらも、俺は思っていたことを口に出す。


「ルカは手加減苦手なんだけど、授業ではもっとうまく調整できてるんだよね。何で今日はこうなんだろう?いつもと環境が違うからかな?」


 そう、いくら手加減が苦手とはいえ普段のルカは一応授業用の手加減モードで攻撃ができる。文化祭用に規模を上げるとしても、こんな過剰に威力が上がるのは不自然だった。


「やっぱり俺がルカに嫌われてるからだろうな」


 俺の疑問にクロードが気まずそうに口を開く。


「5月の魔法練習の日のこと?うーん、確かにあの発言はルカにとって良くなかったとは思うけど……」


 数ヶ月前、クロードとルカの初対面である魔法練習の日。ルカの魔力を邪悪だって言ったクロードの事をまだルカは許せてないのかもしれない。でもいつまでもこの状態が続くのは良くないし、このままじゃ文化祭の成功も見えない。


「クロード、もう一回ルカに謝ってもらえる?前と違ってルカも少しは丸くなったし今度は聞き入れてくれるかも?」

「そう……だな」


 少し歯切れの悪いクロードの返事は気になったけど、善は急げだ。俺はルカに声をかけて2人を引き合わせて声をかける。


「あのね、ルカ……前にクロードが言った言葉、まだ許せないかもしれないけど、少しだけ歩み寄ることってできないかな?」


 まずは俺が声をかける。この後はクロードがあの事を謝ってルカの気持ちを変えれないか期待する流れだったんだけど


「……言葉?」


当のルカがまるでピンと来ていない反応を返してきたので、俺の作戦は崩れてしまった。


「え?ルカ覚えてないの?初対面でクロードがルカに言った事」


 直接そのセリフを口にするのは憚られたから俺はその時の状況を説明してみたけど、ルカの反応は変わらない。ルカにとって忘れちゃう程度のことだったの?じゃあなんでルカはクロードにこんなに態度悪いんだろう。クロード他に何かした??

 人格者で有名な俺の幼馴染がルカに酷い事をしたとも思えなくて俺は疑問をそのまま口にする。


「じゃあなんでルカはクロードの事避けてるの?」


 聞き方によっては配慮に欠けた言葉かもしれないけれど、俺がずっとこうだと思ってた理由が外れていた今、この疑問は大きかった。


「……フレンが」

「え?俺?」


 ルカからの返事を待っている中、突然の名指しで俺の頭は固まる。


「……フレンが、いつもこいつの話ばっかりするから」


 そう言ってクロードを睨むルカの顔は、およそ先輩を見るような物じゃなくて、まるで――


 (竜が天敵を見てる時みたい……)


 ふと思いついた比喩が頭から離れなくて俺はルカの言っている言葉を深く理解できなかった。


「だってクロードは幼馴染で、親友だから」


 その気迫に気押されて、俺は無意識でクロードの服の裾を掴みながらルカに答える。


「……じゃあ、俺は?」


 ルカが俺の真正面に立って見下ろす。ルカは背が高いから見下ろされるとまるで日影みたいになって、俺は暗い影の中で光るその深緑の瞳から目を逸らせなくなった。


「ルカは後輩で、ペアで友達……だけど」


 思ったままの答えを口にすると、俺を見下ろす深緑が不機嫌そうに歪む。


「……もっと……別のがいい」


 そう言って俺を抱き寄せ頭に顎を乗せてくるルカがどんな表情をしてるのか俺には見えなかったけど、拗ねた様なその声色を聞いて俺はあることに思い至る。もしかしてルカはやきもちを焼いてるんじゃないかという事に。


 ルカにとっておそらく初めての友達である俺が他の(クロード)の話をする事で起きる感情。それがクロードへのルカの態度の理由だとしたら諸々に納得ができる。まるで小さい子供みたいなそれを少しだけ可愛らしく感じてしまうのは一歳だけでも俺が年上だからかな?


「ルカのことも大事な友達だと思ってるよ。それじゃだめ?」


 俺は抱きしめられてるからよく見えない視界の中、手探りでルカの頭に触れて優しく撫でる。ルカはそれに返事を返さなかったけど、心なしかさっきより腕から伝わる力が優しくなった気がした。


 そうしているうちに休憩が終わり、ガネマルが戻ってきて練習が再開する。ルカはまだ俺にくっついていたがったけど、時間がない状況なので俺はたくさんルカを撫でて練習に戻る様に促した。少し不満げな様子で校庭に出ていくルカの背中を見守りながら、俺は疑問が解けてスッキリした気持ちで持ち場に戻る。


ルカのやきもちが少しでも軽くなる様にこの練習期間中は沢山構おうかな。もしそれでやきもちが解消されたらルカとクロードの関係も少しは良くなるかもしれないし、頑張ってみる価値はあるかも。


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