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16話:他校交流会、秋の始まりと最悪な出会い①

 秋の始まりを告げる他校交流会。

 その楽しいはずの文化祭訪問で、望んでない新たな出会いがあるなんて、俺は予想もしていなかった。


◇◇


 楽しかった夏季休暇はあっという間に過ぎ、新学期を迎えて数日が経った。俺が窓越しに秋空を眺めていると、前からプリントが回されてきた。


「他校交流のお知らせ……そっかもうこんな時期か」


 他校交流なんていうと大袈裟な感じするけど、要は関係性のある学園同士で文化祭の見学ができるってものだ。

 基本的に文化祭は、校内開催日、他校交流日、そして外部のお客さんが来る開放開催日の3日間で行われる事になっている。うちの学校はカリキュラムの関係で他校交流日と解放開催日が同日開催の2日制だけど、規模は他の学園と遜色ない。

 うちの文化祭は来月だから今月他校の見学をして参考にするっていうのが例年の流れだ。


「去年行った、アクアマリス学園……人魚の学校なんて初めて見たからびっくりしたなぁ」


 俺は去年の見学を懐かしく思いつつ、今年はどこの見学に行くか今からワクワクして心が落ち着かなかった。


 ◇


「ルカはどこの見学行きたい?」


 午後の一年生とのペア授業で俺は、背中にくっついてくるルカを振り向きながら他校交流会の話題を振る。


「……見学?」


 あー、さてはまた授業聞いてなかったな……。悪びれもせず聞いてくる態度から、座学はできるようになったけど、授業態度は不良なままのルカの姿がありありと想像できた。俺はルカに今後はもうちょっと学校行事にも興味持ってもらいたいなと思いながら説明をする。


「一二年生は、ペアで一緒の学校に行くことになってるから、今年はルカが行きたいところに行こうかなって思って」


 去年はクロードが俺の行きたいところを優先してくれたから、今年は俺もそれに倣いルカの行きたいところにしようって決めていた。それに、何きっかけであれルカが興味を持てるものがあれば、きっとそれはいいことだと思うし。


「……フレンと一緒?」

「うん!どこの学校も文化祭は力入れてるから楽しいよ」


 各学園が、日頃の成果を発表したり、学生ならではのさまざまな出し物をする特別な日、美味しいものもたくさん食べれる上、授業日数にカウントされるというんだから最高だ。


「ルカは興味あることとかない?もっと知りたいこととか、そういうのやってる学校があれば……」


 ルカの見学先選びの役に立てばとアドバイスのつもりで提案するとルカは深緑の瞳で俺を覗き込んで


「……フレン」


とだけ呟く。


「ルカ……?」


 俺はそれっきり黙ったルカを見つめたけど、なかなか返事が返ってこない。何かわからない事があったのかな?なんて待ってるうちにペア課題が始まり、結局この日は見学先が決まらずに授業が終わってしまった。


 ◇


 見学先が決まったのはそれから3日後だった。

 前期までと違い少し頻度が減ったペア授業の冒頭でルカから


「……フレンの興味あるところ、行きたい」


となんの文脈も無しにいきなり言われたから、俺は最初は何のことかと思ったけど、話を聞いているうちに他校交流会のことだと思い至った。

 せっかくの機会だからルカが興味あるものの方がいいと思うけど、でも本人がこう言ってるし、この場合俺が決めるべき?


 正直交流会の行き先はルカに丸投げしてたから、今年の目星は全く付けてない。悩んだ俺は結局、去年凄かったと評判だったルナソール学園に行くことに決めた。去年から話題だったけど、なんか今年はもっとすごいって前評判が上がっていて、選ぶ前から妙に印象に残ってたんだよね。


 噂によると去年は特に学園演劇が凄かったらしい……どうすごいのかまでは知らないけど、こんな評判ならきっと面白いはずだし楽しみ。

 俺はルカにも了承を取って、見学先にルナソールと書き込んで提出した。


 ◇


「お金持ちな学校とは聞いてたけど、こんなに凄いなんて……」


 というありきたりすぎる言葉が出るのも無理はないくらい、ルナソール学園は大きく豪華だった。


 まず門構えからして他の学校と違う。大きくて豪奢な細工の門扉の横には背筋がピンと伸びた専門のガードマンが立っていて、それだけでも迫力が凄かった。敷地内も手入れが行き届いていて、学校というよりはどこかの国のお城みたいだ。

 ここに通う学生は貴族や大金持ちな人ばっかりだって聞いていたけど、確かにそれにぴったりな学校だと思う。中にいる学生達も皆品があって、なんというか大人びて見えた。


「出店はお手頃価格で良かった……」


 俺は学園の敷地内の豪華なベンチに腰掛けながら、ルカと半分こしたサンドイッチを頬張りほっと胸を撫で下ろす。見学前の腹ごしらえの為に買ったけど、もしこれが学園のレベルに見合った値段ならすでに今日の予算は尽きていただろう。

 こんな感じで、俺はすっかりこの学園の気迫に飲まれていたけど、隣にいるルカは何一つ気にしてない顔でサンドイッチを食べているからルカって本当肝が据わってるというか、大物になりそうだよね。


「学園演劇も楽しみだけど、他の出し物も凄そうで楽しみ!……ルカは何が見たい?」


 見学先は俺が決めちゃったからせめて見るものはルカの希望が聞きたいと思い、俺は白黒の前髪の下を覗き込む。


「……フレンの見たいものでいい」


 うーん、またこれかぁ、ルカの場合遠慮ではなくて多分本心からこう言ってるよね。だからこそ難しいというか、ルカが喜ぶことがわからないから困る。

 ただ、いつまでもベンチを占領してられないし、せっかくの他校交流会の時間を無駄にもしたくない。俺は近くにいたルナソールの学生さんの呼び込みに従って魔術発表会を覗くことにした。


 発表会会場は人がたくさんいて、呼び込みの子が言っていたこの学園でも屈指の人気の出し物だっていうのもあながち嘘じゃなさそうだった。

 会場の中心には見たことのない複雑な魔法陣が書いてあって、それだけで物々しい雰囲気だった。あんな魔法陣、用意するだけでどれだけ日数がかかるかわからない。それに触媒と思しき素材も、教科書の特記欄に書いてあるような高級なもので、そんなものをおいそれと使えるルナソールの資金力にも震えた。


 発表会の開始の挨拶が終わり、魔法陣の横に立った学生さん(魔術科の3年生らしい)が呪文を詠唱する。ぱっと見の印象だけどこの人かなり魔力ありそう。

 それに隣の助手の人も魔力補助をし始めていよいよ何かが起こる……と期待が膨らむ中魔法陣の中心から黒色の炎みたいなものが吹き上がりそれが形を作っていく。


「……っ」


 黒色の炎が家ほどもある巨大な魔獣の形になり、動き始めたのを見て俺は息を呑む。夏星祭で遭遇した恐ろしい魔獣の記憶が蘇り、俺は思わずルカの服の裾を握りしめていた。

 発表会はここからが本番らしく炎の魔獣が踊りのような複雑な動きで、魔法陣内を歩き回る。これは出し物だってわかっていても、大きさと動きの派手さからかなりの迫力があった。

 この出し物に魅入ってる中、ふと頭上の視線が気になり上を向くとルカは会場ではなく俺の方を見つめていた。それに加えてルカは俺が彼の服の裾を掴んでる手の上から細身だけど大きな手を重ねるようにして握っている。


「あ……」


 掴んだのは俺の方からだけどこれはなんだか恥ずかしい。俺は慌てて手を離そうとしたけれど、思ったより強い力で握られてて上手くいかなかった。ルカはこういうことをからかってくる性格ではないけど、このままじゃ俺の年上としてのちょっとした矜持が危うい。せめてこれ以上はビビってる姿を見せないようにしようと俺が再び会場に目を向けた瞬間


「ひゃっ!?」


丁度魔法陣から飛び出した黒い炎の魔獣が客席に飛びかかってくるところが目に入り、俺は先ほどまでの誓いを放棄して全力でルカに抱きついた。


 ◇


「あの演出は意地悪すぎない?」


 魔術発表会会場から出て第一声、俺はルカに抱きついた恥ずかしさを誤魔化すため大袈裟に文句を言う。

 会場の外は、秋の始まりの穏やかな日差しに包まれていて、さっきまでの緊張がほぐれて自然と俺の声も大きくなる。


「あれ考えた人絶対性格悪い」


 確かに凄い魔術だし、魔法陣から出たら霧散する特性上観客の安全性も配慮してるみたいだけど、あれは心臓に悪すぎる。事前に言ってくれなきゃ心の準備ができない。


「ルカもそう思うよね?」


 俺は頬を膨らませてルカを見上げたけど、ルカは


「悪く……なかった」


と、あろうことか目を細めて笑っていた。他校交流会にあまり興味なさそうだったルカが笑ってくれたのはいいことだけど、それがよりによってこのタイミングだなんて、ルカの感性って本当によくわからない。もしかしてホラーとか好きなのかな?

 ……俺は怖いのは苦手だからルカとは趣味が合わないかも。


「あ!学園演劇午後の回始まるみたい、行こ!」


 このままでは先輩としての矜持が保てないと思った俺はこの学園に来た目的、学園演劇を理由にこの場を後にした。

この規格外の学校の文化祭でも1番の目玉演目、どんなものか今から楽しみだ。


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