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130話: エリオ君のお家訪問! ⑦

「おはようございます、先輩」

「おはよ、エリオ君。朝早いんだね」


 窓から差し込む光に起こされる朝。

 目を擦りながら伸びをしていたらエリオ君から声をかけられる。俺と違ってエリオ君はだいぶ前に起きていたみたいで、もう着替えて髪も整えていた。


「あっ、そういえば昨日の大丈夫だった?今日は体調どう?」

「ああ、昨日は少し移動の疲れが出ていたみたいです。ご心配をおかけして申し訳ありません」


 そうだったんだ。色々準備してくれてたし、無理させちゃったのかもしれない。


「あのさ、まだきついなら休んでてね。無理に俺に付き合わなくていいからさ」

「ゆっくり休んだのでもう大丈夫です。今日は午前中に昨日の復習をして昼食を食べてから寮に戻りましょう」


 そう言ってエリオ君は優しく笑ってくれたけど、目の前で倒れられた身としてはやっぱりちょっと心配。彼は頑張り屋さんだから、無理をしそうになったら俺が止めないとね。


「エリオ様、少し宜しいでしょうか?」

「今行きます。先輩、着替えたら連絡ください。そのまま朝食にしましょう」


 マーセルさんに呼ばれてひと足先にエリオ君が部屋を出る。その間に俺は着替えをして、ついでにベッドの片付けもする。


「あれ、そういえばいつの間に俺ベッドに行ったんだろう?」


 昨日はエリオ君の様子を見るためにベッド横に座ってた筈。もしかしてエリオ君が途中で目覚めて運んでくれたのかな?体調悪いのに余計な面倒かけちゃったかも。

 そんな事を考えつつ俺はエリオ君にドアを開けてもらい、そのまま朝食会場へと足を運んだ。


 ◇


「午前の練習ですが、僕は少し用事ができてしまったので、マーセルに見る様に頼みました」

「そうなんだ、了解!なんの用事かわかんないけど無理しないでね」


 朝食を食べながら、申し訳そうな顔でエリオ君がそう伝えてきた。お世話になってるのはこっちの方だから、気にしなくていいのに。


「それでは僕は少し出ますが、マーセル、先輩の事を頼みましたよ」

「承知いたしました。それではフレン様、参りましょうか」

「はい!よろしくお願いします!」


 エリオ君は朝とはまた違った少しかっちりした服装に着替えて出掛けていった。それを見送りつつ俺はマーセルさんと一緒に昨日の部屋に入る。


「僭越ですが、私の方で見させていただきます。それでは始めてください」


 俺は一呼吸おいて、昨日と同じ様に詠唱を唱え始める。昨日何回も繰り返し練習したからか、ちょっと魔力が乗せやすい気がした。

 たくさん寝て魔力も回復したし、どんどん練習しよう。



「少し休憩にいたしましょうか。今お茶を持って参ります」


 そう言ってマーセルさんがお茶と椅子を持ってきてくれる。朝からずっと練習してたから喉が渇いたしちょうどいいタイミングだ。


「そういえば、エリオ君って昔からあんなすごかったんですか?」


 別にエリオ君がいる時に聞いても良かったんだけど、せっかくマーセルさんと2人なので俺は気になってた事を聞いてみる。


「ええ、エリオ様は幼少よりとても優秀でいらっしゃいました。それに加えて厳しい修練も重ねておられますからね」


 そうだと思ってたけど、エリオ君は才能がある上に努力家なんだ。ずっとエリオ君を見てきたマーセルさんの言葉だからこそ、それが深く伝わってくる。


「ですから、いずれ成長期を迎え、成竜となられた際には今代一の竜族と呼ばれる事でしょう」

「あれ……成長期?今はまだ違うんですか?」


 基本的にどの種族も体の成長時期はそんなに変わらない筈なんだけど、竜族は違うのかな。そう思って俺が聞いたら、マーセルさんが説明をしてくれる。


「身体の方は今まさにその時期ですが、竜族はその能力を十全に使える成竜になる事も成長期と呼ぶのです」

「えっ、じゃあ今よりもっとすごくなるの!?それっていつくらいなんですか?」

「身体と違って特定の時期とは決まっておりません。個々の才覚によりますが基本的には50から100歳のうちに迎え、10年ほどかけて成長しきります」


 マーセルさんの言葉に俺は目を見開く。竜族は長命で数百年とか生きるらしいけど、それでもそんなにかかるんだ。妖精族は体の成長期と能力の成長がだいたい同じくらいだからスケールの違いが凄い。


「ですがエリオ様ならその半分の時期で至ると思います。成長にかかる時間もおそらく一年程かと」

「それってかなり早いんじゃ……」


 単純に考えて、普通の人の倍以上のスピードだ。元から凄いと思ってたけど、エリオ君ってもしかしてとんでもなく優秀なのかもしれない。


「いずれ成竜となられ、頭に立派な角を戴いたエリオ様を拝見する事が、私の楽しみなのです」

「あれ……エリオ君はまだ生えてないんですか?」


 竜族の人は翼や尻尾に加えて角があるっていうのは知っていた。だから俺はマーセルさんの言葉に違和感を持つ。


「他種族の方はご存知なくても仕方ありませんが、角は成竜の証なのです。エリオ様の角はそれはそれは美しいものになるでしょう」


 そう言ってマーセルさんは思いを馳せる様に目を閉じる。


「マーセルさんはエリオ君の事、すごく大事に思ってるんですね」

「生まれた時から見守っておりますからね。……ですが、時折度を超えた無理をなさるので私は心配でございます」


 確かにそれはわかる気がする。エリオ君ってストイックなところがあるしね。そう思って俺が頷いていると、少しだけ低い声でマーセルさんが言葉を続ける。


「……あの邪竜の事さえなければエリオ様も、もう少しご自身を認めて肩の力を抜けるのですが……」


 (あ……)


 不意に溢されたその言葉に俺は小さく固まる。きっとマーセルさんの言ってることは正しい。出会った頃のエリオ君が必要以上に弱さを嫌悪していたのはルカが原因だから。

 昨日今日でわかったけど、マーセルさんはとても優しくて良い人だと思う。エリオ君も彼をとても信頼しているし、プライドの高い筈の竜族なのに、客とはいえ他種族の俺にもとても親切だ。だからこそ、その彼にすらルカが疎まれている事が、竜族と邪竜の間にある深い溝を示しているみたいで苦しかった。


 (俺がどうこうできる事じゃない、だけど……)


 俺はマーセルさんと話しながら、この後したい事を一つ考える。これが正しい事なのかはわからない。だけどエリオ君が帰ってきたら相談してみようと思う。今の彼なら、一緒に考えてくれる気がするから。


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