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129話: エリオ君のお家訪問! ⑥sideエリオ

「う……頭が、痛い……」


 ズキズキと痛む頭に手を当て、目を開けると部屋の天井が目に入る。その光景に眉を顰めながら、何度か瞬きをした後、僕は何をしていたかをゆっくりと思い出した。


 (確か、先輩がお風呂から上がって、それで……)


 そこまで記憶を遡った所で、急激に体温が上がる。一瞬のことでぼんやりしか覚えていないけれど、抜けるような白肌が残像のように脳裏に焼き付いていた。


 (僕は、なんて物を見て……)


 沸き起こる罪悪感に反比例して心臓はバクバクと脈打つ。明日からどんな顔をして先輩と話せばいいのかわからない。


 (……あれ、なんか重いような……)


 そんな感じで頭は混乱していたのに、妙に冷静な意識が自分の右腕に何かが乗っている事を気づかせる。たぶん、現実逃避できる材料を探した結果だろう。そして、その重みの正体を見るため動かした視線の先には、ベッド脇の椅子に腰掛けて僕の腕にもたれかかるように眠っている先輩がいた。


「……え?せ、せんぱ……」


 その光景を見て僕は察した。おそらく先輩は倒れた僕の事を心配して夜通しここで一緒にいてくれたんだということに。詠唱練習で疲れている筈なのに、ベッドで寝る事もせず、僕の為にずっとそばにいてくれたのだろう。


「……ん、えりおくん、おきた?」


 僕の声で目が覚めたのか、先輩からぼんやりとした舌足らずな声で名前を呼ばれる。それに僕が答える前に先輩は僕の顔に手を伸ばし、撫でる様に優しく触れた。しばらくそうした後、先輩は安心した様に笑ってまた夢の中へと戻っていく。


 (あ……涙の跡……)


 とっくに乾いてはいたけれど、先輩の目尻にキラキラしたものが見えて心臓がきゅっと痛む。きっと先輩は僕が倒れた時に本気で心配してくれたんだろう。その様子は見ていなくても容易に想像ができた。


 (また、僕のせいで泣かせてしまった)


 もう二度と泣いてほしくないと思っていたのに、他ならぬ僕が先輩に涙を流させてしまった。これは許されない事だ。なんで僕はいつもこうなんだろう。先輩の大きな瞳から流れる雫の事を考えるだけで心が締め付けられる様だった。

 だけど、その事に罪悪感を感じつつも、僕の中にあるもう一つの感情が心を揺らして、心の奥底に眠っていた気持ちを呼び覚ます。


 (ああ、そうだ僕はこの人のこういうところが……)


 自分よりも人の事を想って行動する、人の為に泣いてしまう様なこの人だからこそこんなに惹かれてしまうのだ。だからこそ、これは情動による欲求なんかよりよほど強くて、手放し難い感情だった。

 さっきまで熱を持っていた体はいつの間にかそれよりも強いこんな感情で満たされていた。


「……失礼します」


 起こしてしまわない様に静かに起き上がり、僕は先輩を抱き上げた。僕とそんなに身長は変わらない筈だけど、僕よりずっと柔らかくて、簡単に持ち上げてしまえる身体を壊さない様に丁寧に運ぶ。そのままベッドに横たえて、宝物に触れる様にして毛布をかけた。


 (ああ、僕はこの人のことが……)


 穏やかに眠っている顔を眺めて、いつまでもこうしていたいと思った。この人が泣く事なくいつまでも笑っていてくれたらそれだけでいい。ただこの穏やかな時間が少しでも長く続いてくれたらいいと心の底から思った。先輩といるとそんな感情が溢れて止まらなくて、何故だか少しだけ苦しい。


「……フレン、先輩」


 たっぷり時間をかけて、この世で一番大切になった言葉を口にする。それだけで胸がいっぱいで僕はそれ以上何かを言葉にする事もできなくてただずっと先輩の事を見つめていた。


 こんな夜を過ごしてもきっと世界は何も変わらない。そんな小さいけれど、僕にとってはかけがえのない時間を、今だけは独り占めして心にしまっておこう。


 そんな静かな決心をした部屋の中では、すぅすぅと心地の良い寝息だけが、ただ小さく響いていた。


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