124話:エリオ君のお家訪問!①
「わぁ……ここがエリオ君のお家?大きいー!」
「そうですか?普通だと思いますが……」
少し肌寒い11月の半ばの今日、俺はエリオ君のご実家の門の前に立っていた。
エリオ君は普通って言ったけどどう見ても普通じゃないお屋敷は小さめのお城みたいな風貌だ。
そんなとんでもないお家になんで俺が来ているのかっていうのは少し時を遡る必要がある。
◇◇
『今度、魔法教えてくれない?』
ミカエラさんと話した夜、エリオ君に送ったメッセージは、俺の予想よりもだいぶ早く返信が来た。具体的には送った1分後には了承の返事がきていた。その速さにちょっとびっくりしたけど、エリオ君は律儀だから前に言った言葉を覚えててくれたのかもしれない。
そして週明けの放課後、早速俺はエリオ君と校舎裏で魔法の練習を始めた。
「ではまずこの魔法をやってみてください、その次はこれを……」
エリオ君は予めノートに何種類かの魔法の手順を書いて用意していてくれたから、俺はその指示に従って魔法を使っていく。
「これ、結構難しくない?俺苦手かも……」
「なるほど、ではこれは?」
こんなやりとりをしながら手元の携帯端末に何かを打ち込んでいくエリオ君は優等生然としていて、なんだか俺の方が後輩みたいだ。
「やっと全部終わった……、もう魔力限界かも」
「お疲れ様でした。少し休憩したら次に進みましょう」
そう言ってお茶まで出してくれて、至れり尽くせりといった感じがする。
「あ!このお茶前にエリオ君がくれたやつ!俺これ好き!」
「っ、先輩のお口に合ってよかったです」
ちょうど良い温かさのそれで喉を潤しながらお礼を言うと、恥ずかしそうに目を逸らされた。普通に笑いかけただけだけど、なんか変だったかな?
「そ、そろそろ次に進みましょうか。今からお見せするのは先輩の魔力と魔法の傾向です」
「えっ、何それ、エリオ君そんなのわかるの?」
「アプリで記録しました。それと魔力分析は得意なので、それを踏まえて説明します」
そんなアプリがあるんだ、それに分析できるのもすごいなぁ。流石エリオ君。
「先輩の魔力は妖精族の平均的な質と量でした。ですがそれにしては発動に安定性が乏しく、威力も十分とは言えません」
「うっ……わかってはいたけど言葉にされると結構来る……」
俺は半分妖精族の血が流れている。だから、本来なら魔法が得意なはずなのに下手だって事を淡々と指摘されてしまった。エリオ君は事実を述べているだけだからこそ刺さる言葉だ。
「この不安定さの原因はいくつかあります。まずは魔法陣の欠けや詠唱の間違いによる物、これは継続的な修練で身につける事が可能です」
「はい……」
つまりここは練習あるのみって所。苦手だけど、やっぱり頑張らないとだよね。
「一方で、詠唱や魔法陣に問題がないのに本来の出力になっていないものがいくつかありました」
「えっ、そうなの?」
「はい、それでこれに関しては僕の推測ですが……先輩、その……て、手を少しお借りしても……?」
俺はエリオ君に言われるままに手を差し出すと、何故か少し躊躇いつつ触れられる。心なしか触れる手が熱いのは気のせいかな?
「俺の手、なんか変なの?」
「えっ、いや、小さくて可愛い……じゃなくて、手というよりこれが原因だと思います」
「これって……手袋?」
返事の前半は早口でよく聞き取れなかったけど、それよりも後半の指摘が意外で俺は聞き返す。
「いえ、これ自体ではなく手袋をはめている事が、ですね」
「どういう事?」
「恐らくですが先輩は常に手袋へ意識を向けていて、心がそこに縛られてる状態になっているんだと思います」
妖精族の方は自然と調和し解放された心が魔法の根源なので、と彼は続ける。以前エリオ君には妖精族に関する本を貸したりプレゼントした事があるからきっとそれを読んで考えてくれたんだろう。
「そうなんだ……でも俺、これ外したりはちょっと……」
半分夢魔の血が流れてる俺にとって、手は能力器官で、人前に出して良いものではない。だからこそ手袋でガードしてる場所だ。
「大丈夫です、外せなんて言いませんよ。ただ、少し魔法をかけても良いですか?」
「いいけど、どんな魔法?」
俺が了承するとエリオ君は歌のような綺麗な旋律で詠唱をして俺の手袋に手をかざす。
「手袋をつけた感覚はそのままに、少しだけ着け心地を軽くしてみました。どうですか?」
「あっ、確かに楽かも!エリオ君すごーい!こんな細かい調整できるんだ」
魔法というのは大きな出力を出すのも大変だけど、こういう繊細なコントロールをするのもまた難しいものだ。完全に重さをなくすなら楽だけど、そうなると手が隠れてるか不安になるから、そこまで考えて調整してくれたんだろう。
手袋が着いてるかどうかはわかる状態のまま布一枚分軽くする調整するなんて難しい事を簡単そうにやるんだからエリオ君って本当に凄い。
「このままもう一度この魔法を使ってみてください」
「うん!」
ノートに書かれているのは氷の花を作る魔法。言われた通りに魔力を集中させると、さっきまでとは明らかに違う安定した形の花がそこに咲いていた。
「えーっすごい!今までで一番綺麗にできた!」
「先輩は妖精族ですし、魔力の質も悪くないですから、慣れれば他の魔法も同じ様に使えるはずです」
エリオ君は嘘をつかないからきっとこの言葉は本当だ。それが何より嬉しくて、俺はますますやる気が出る。
「後は最初に言った魔法陣と詠唱ですが、これは反復練習あるのみですね」
「だよね……エリオ君はどうやって練習したの?」
エリオ君はお手本の様に綺麗に魔法を使うから是非そのコツを知りたい。
「魔法陣は、基本の型から応用していくのでその法則を考えながら覚えましたね。自分用のまとめがあるので今度貸しましょうか?」
「いいの?ありがとう!」
一応授業でも型の話は習ったけど種類が多くて丸暗記でなんとかしてる感じなんだよね。エリオ君のまとめたやつならすごく効果ありそうだし、上手くなれそう。
「詠唱に関しては竜族が幼少に使う教材があるんですが、それが結構良かった気がします」
「えー何それ!俺も使ってみたーい!」
「えっと、すみません、持ち運びできる物じゃ無くて……あ」
そう言ってエリオ君は少し固まり、何かを考え込む。かなり険しい表情をしてるし、難しいこと言っちゃったかな。
「よよ、良かったら、その……ぼ、僕の実家に行っても、よ、良ければ、使ってみますか……?その、距離的に泊まりになるんですが……」
「えっ」
「い、いえっ!その、変な意味とかじゃ無くて、結構遠いので、で、でも嫌でしたらその、大丈夫です……」
全然悪い申し出じゃ無くて、むしろありがたい申し出だ。だけど何故かエリオ君はこの話をしてる最中一度も目が合わなかった。ついでに言うと顔も赤いし、声も所々裏返ってる。
(……あ、もしかして)
エリオ君って人付き合い経験少なそうだし、人を家に誘うのが初めてで緊張してるのかもしれない。それなのに俺のためにこんな提案までしてくれたんだから、これは乗らないと寧ろ失礼だよね。
「ありがとう、俺エリオ君の家行きたい!」
「っ!!わっ、わかりました。家の者に伝えておきます。それでは次の休みに……」
「うん、楽しみ!」
そんなわけで俺はエリオ君との魔法練習の為に彼の実家がある竜族の居住エリアに訪問する事になったのだった。




