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114話: 文化祭、波乱の学園演劇とライブ③

 迫り来る竜の鉤爪が俺に届く寸前、激しい閃光が目に入って俺は思わず目を瞑った。


 それから数秒経っても痛みがやって来なかったから、俺が恐る恐る目を開けると目の前に剣を構えたクロードの背中が見えた。


「あ……クロード……」


 俺の声に一瞬振り返ったクロードが何かを確認してすぐに竜に向き直る。


「あれ……、これシールド?」


 よく見ると俺とミカエラさんの周りにとても頑丈なシールドが貼られているのに気がつく。周囲を見渡すと、必死な表情でこちらに手を伸ばしているエリオ君の顔が見えた。


 (エリオ君が貼ってくれたんだ……)


 とりあえず、最悪の状態は免れたことに俺が胸を撫で下ろしていると、後ろからミカエラさんの声が聞こえる。


「なんで……っ、なんで、こんな事したんですか?」


 睨むように俺を見つめて、そう言われた言葉に俺は目を伏せる。


「ごめんね……自分でも何でかわからないんだけど、気づいたら飛び出しててさ」


 結果として乱入者が入ってしまったから劇の邪魔をしてしまったかもしれない。それに彼女の覚悟にも水を刺したと思われたかも。

 ミカエラさんが再び口を開こうとした瞬間、身の毛のよ立つような恐ろしい鳴き声が響いて俺は再び後ろを振り返った。


「……何、あれ……?あんな魔力見た事ない……」


 ルカの生み出した竜から発される魔力はもはや魔法というより台風のようなエネルギーを秘めて暴れ回っていた。あんなの、クロードでもどうにかできるわけない。


 (なんとかルカの暴走を止めて、魔法を解除してもらうしかない)


 だけど、エリオ君の貼ったシールドは頑丈で、俺はここから出てルカの元に行くことができない。このままじゃ、今度はクロードが危ないのに俺は何もできずに見守ることしかできなかった。


「……っクロード!!」


 竜の魔力が極限まで高まり、全てを破壊し尽くすような攻撃がクロードに直撃する寸前――


 (……え?クロードの魔力が膨れ上がった……?)


 一瞬の事で、俺は何が起きたかよくわからなかった。だけど、気がついたら幻影の竜は切り裂かれ、魔法でできた夜空が晴れて空には本物の青空が広がっていた。


 ◇


 クロードが幻影の竜を倒した瞬間、大歓声が会場を包み込んだ。会場が揺れてると錯覚するような称賛の声の中、一番最初に動いたのはミカエラさんだった。彼女はまるでこれが劇の演出の一部であるかのように振る舞い、クロードと俺の飛び入りを去年のキャストのゲスト出演だと観客に信じ込ませるという荒唐無稽な事をやってのける。

 そして、竜退治のメインで活躍したクロードが注目を浴びている中、俺はこっそりと舞台袖へと抜け出し、呆然とした様子のルカの腕を引いて楽屋に連れて行った。


 ◇


「ルカ、大丈夫?」


 俺は楽屋でルカに抱きついて鎮静魔法をかける。幸いまだ軽い魔力暴走だったようで、出会った頃の暴走よりもずっと早く治まった。


「……ふ、フレン……お、俺……」

「ん?どうしたの?」


 普段よりもより一層辿々しくルカが言葉を発する。見ると顔は真っ青で瞳孔も開いている。俺が努めて穏やかな声で返事をするとルカは泣きそうな顔でこう言った。


「……お、俺、フレンを、攻撃、するつもり、な、無く……て……」


 明らかな動揺が見えるその言葉に俺は察する。どうやら、暴走の一端は、魔法が暴れ回って俺を攻撃しかけたことによるショックもあるらしい。


「うん、わかってるよ。暴走して上手くコントロールできなかったんだよね」


 落ち着かせるように優しく頭を撫でながら俺はルカと目を合わせようとしたけど、ルカは苦しそうに目を伏せてしまう。


「……ふ、フレン……ごめ……なさい……」


 ルカが謝るのなんて初めて見た。多分それほどショックが大きいんだろう。何がきっかけで暴走してしまったのかはわからないけど、暴走した本人が一番苦しくて怖いのはわかるので俺はルカに安心して欲しくて口を開いた。


「大丈夫。それに俺に魔法当たってないでしょ?」

「……で、でも……」


 暴走魔法はクロードが対応してくれたし、劇もミカエラさんが繋いでくれたから、結果として大変なことは起きてない。


「心配しなくても、こんな事で離れたりしないよ。俺はちゃんとルカの側にいるから安心して」


 昔俺が魔力暴走した時、一番怖かったのは周りの人が怖がっていなくなっちゃうかもってことだった。今だって夢魔ってことがバレて人から拒絶されることが一番怖い。きっと邪竜で人から拒絶され続けてきたルカにとっても一番怖いのはこれなんじゃないかなって思う。だから俺は俯いたルカの顔覗き込んで目を合わせて声をかけた。


「……!ほ、本当……?フレン……?」

「うん、本当だよ。約束する」


 そう言って俺はルカの手を取って、小指同士を絡める。そのままルカの手を両手で包み込んで握っていたら、ルカが甘えるように頭を擦り付けてくる。


「……うれ、しい……フレン……」

「………ん?うん」


 今の言葉に嬉しいって、おかしくはないけどちょっとだけ違うような気もして俺はルカの顔を見る。色が深まった深緑の瞳が、甘えるように細くなり、俺はそこに映った自分の顔がどんな表情を浮かべてるのかよく見えなかった。


 ◇


 しばらくこうしてルカと2人で楽屋で話していたら、不意に携帯のアラームが鳴る。時計を見るとチアライブの練習時間の少し前だった。そういえば集合に遅れないように先にアラームをセットしておいたんだよね。


「あっ、もうこんな時間……ルカごめん、そろそろライブだから俺行くね」

「……え……フレン……」


 その言葉にルカは一瞬奇妙な間を置いて俺の顔を見つめる。もしかしたら、1人楽屋に残るのが不安なのかもしれない。確かに暴走の直後だし、周りから何か言われるかもって思うよね。


「今日のこと、俺も一緒に皆に謝るから、心配しなくても大丈夫!」

「……」

「ライブチケット、エリオ君に2枚渡してるから一緒に見にきてね!約束だよ?」

「………わかった」


 もう一度ルカと軽く小指を絡めた後、俺はライブ準備に向かうため楽屋を後にする。

 思わぬトラブルで思ったより時間の余裕がないから急がないと。

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