11話: 夏星祭、夏夜の願いと大騒動②
ルカとクロードと訪れた夏星祭。
あらかた出店も周り終わって、あとは後半の出し物か夏星の打ち上げまで特に何もないかなって思ってた所で俺は見慣れた金髪を見かけて声をかける。
「カイも来てたんだ?こういうのはあんまり好きそうじゃないから意外かも」
「夏星の伝説は興味ねぇけど、祭りは好きだからな、お前は……?1人じゃねぇよな?」
きょろきょろと辺りを見回すカイに俺は後ろを指さして答えを示す。
「うん、クロードとルカと一緒、カイはこのあとどうするの?」
「お前……どういう頭してたらあいつら2人を一緒にすんだよ……はぁ、俺はそろそろ帰ろうかと思ってっけど」
カイから明らかにめんどくさいものを見る目で見られて俺は胸がうっとなる。
「まあ、色々事情があってさ、ていうか夏星見ていかないんだ?やっぱカイって変わってる」
「変わってるは余計だっつの、俺はお前と違って耳がいいからああいうのは好きじゃねぇんだよ」
そっか、ワーウルフって結構大変なんだ。それなら引き留めるのも悪いしそのまま別れようと俺が口を開きかけた瞬間――
「魔獣が逃げ出した!こっちは危険だ!!」
耳をつんざくような人々の悲鳴と重たい唸り声が響いて俺は動きを止める。
「カイ、今の……」
「デマならいいが、この匂い、多分本物だわ」
声の方向に鼻を向けたカイが苦虫を噛み潰したような顔で呟く。
大変なことが起きる時ってなんでこんなに急なんだろう。人々の逃げる声と姿でこれが現実だってわかってるのに実感が湧かないまま俺は立ち尽くす。
「規模はわかんねぇけど、少なくとも1匹2匹じゃねぇ。魔獣の種類によっちゃやべぇことになる、早くここを離れっぞ」
俺が呆然としてる中、カイの判断は的確で、それに従うのが最善なのは誰の目にも明らかだった。
「フレン、今の聞いたか?」
騒ぎを聞きつけて、クロードが駆け寄ってくる。
「うん、魔獣が、逃げ出したんだよね。でもこのままじゃ被害が……」
俺は授業で習った魔獣のことを思い出す。その情報とこの祭りの人だかりと照らし合わせると、最悪な状況が目に浮かび顔が青ざめていくのを感じた。
「フレンを安全な所まで届けたら俺は討伐に参加する。避難所はこっちだ」
正義感の強いクロードは俺よりも的確に状況を判断した上でどう動くかをもう決めている。一歳しか違わないのにこんな時何もできない自分が歯痒くて仕方ない。俺がクロードに腕を引かれるまま足を進めかけたところでルカにもう片腕を引き寄せられる。
「ルカ?」
「緊急事態だ、今は大人しくしててくれ」
クロードがルカに詰め寄ると、ルカは何が問題なのかというような心底不思議そうな顔で答える。
「……フレン、1番安全なのは俺の近く、でしょ?」
ルカからあまりに当然と言った顔で言われたから俺は思わず状況も忘れてぽかんとしてしまった。
確かに、ある意味ではそうなのかもしれない。学園最強生物のルカならいくら魔獣が来ようとも問題なさそうではある。だけどそれをこんな堂々と言われるとなんか緊張感がちょっとね、なくなる感じがするというか。
「確かにルカのシールドなら最強かもしれないけど……あ!」
その時俺の脳裏に閃いたのは、この状況と、入学以来学校でずっと一人ぼっちのルカの事を少しでも変えられるかもしれない一つの行動だった。
「ルカ、やっぱり避難所まで行こう?」
「……ここでも俺はフレンを守れる」
俺の提案に、人混みが嫌いなルカは難色を示す。
まあそうだよね、避難所は人も多いし。ルカにとって居心地は悪いだろうから。でも俺はこの閃きを試してみたいという気持ちが抑えられず、確認も兼ねてもう一声重ねる。
「ルカ、広場一帯を囲んだシールドって出せたりする?」
「……できるけど、なんで?」
ルカの回答で、俺の作戦に必要な要素は揃った。ただ、頭の中のこれがうまくいくかはまだわからない。ルカが納得してくれる事を祈って俺は考えを伝える。
「ルカの力でみんなを守ってあげてほしい!避難所もきっとまだ安全じゃない。たぶん魔獣に怯えてる人がたくさんいるから」
「……それ、必要なの?フレンだけじゃだめ?」
意地悪とかではなく、心の底からわからないと言った顔でルカが俺を見つめる。
ルカにとっては多くの人が自分を拒絶してきた人間で、だからこそこんな考えに至るのも正直理解はできるし無理強いすべきではないのかもしれない。
でも、もしこれがうまくいったら、もしかしたらだけど周りの人のルカを見る目が変わるかもしれない。だからこそ俺はそれに賭けたかった。
「お願い、ルカ。俺は今日のルカとの思い出を嫌な気持ちで終わらせたくない」
その想いを込めて俺はルカの手を取ってその深緑の瞳を覗きこんだ。
「……今日の、思い出……」
俺の言葉を反芻したルカは数回瞬きをして、そして口を開く。
「……避難所ってどっち?」
「ありがとう!」
俺はルカの手を握りしめ、避難所の方向に指をさす。
ルカは俺の目を見ててそっちの方向は見ていなかったけど、さっきまでと違い、きっとついてきてくれるという信頼があった。
俺の思いつきがうまくいくかはわからない。だけど俺は、握った手から伝わる体温を信じたかった。




