108話: 文化祭準備、大型新人襲来!?③
「ほらそこ!脚もっと上げて!」
チアライブ練習初日、俺達元チアメンバーはライブメンバーとしてマリアに体育館に集められた。
「ブランク結構あるねー」
「うち脚上がんないんだけど」
「でもさ、フレン脚結構上がってない?」
「あー、もしかしたら俺、最近ストレッチ良くしてるからかも?」
久しぶりの練習で、皆が思い思いの感想を口にする中、メンバーの1人からそう言われて俺はカイとのトレーニングの成果を感じた。
「へー、どんなのやってるの?」
「俺がやってるのは簡単なやつ!こういうのとか。隙間時間でできるから結構楽しいよ」
「うちもやっとこうかなーライブまでに前みたいに脚上げたいしね!」
俺達が話してると、他のメンバーも集まってきて練習が一時ストップする。
「フレンこういうの詳しいの?」
「俺がってより、カイが詳しいんだよね。最近一緒に運動してるんだけどそこで色々教えてくれる感じ」
「カイってそういう感じなの?怖そうってイメージしかない……」
「わかる、不良だし体大きいし」
カイは不良な上に顔立ちも割と強面だから、特に面識のない女の子からは怖がられがちだ。不良って言っても授業サボったり制服着崩したりしてるところしか見た事ないし喧嘩に明け暮れたりはしてないんだけどね。
「口は悪いけど結構優しいよ!特に女の子には優しいタイプだと思う」
「そうなの?」
「てかカイって一年の頃フレンに告白してなかった?」
「そうそう!そこんとこ今はどうなの??」
カイの評判のフォローをするつもりがなんだか風向きが変わってきた気がする。
「どうって……普通に友達だけど……。あの時は俺の事女の子だって勘違いしてたみたいだし、今じゃ黒歴史なんじゃない?」
「そーなん?でもフレンなら女の子じゃなくてもいいってなりそう」
「わかるー、だってフレン可愛すぎるもん、うちの学校で一番じゃない?」
移り変わりの激しい話題の中で、最近聞いたような言葉が耳に止まり、俺は思い出した事を何気なく口に出す。
「そうかな?この間俺、結構普通って言われたんだけど……」
「えーっ!?誰に言われたの??絶対それ嫉妬だよ!」
「フレンが普通ならうちどーなんの??」
ああいう事初めて言われたから、ちょっとした衝撃って意味で話題に出しただけなんだけど、思ったより反応が凄いことになってしまった。
「ねえそれどういうこと?いつ言われたの?」
「どんな顔してたらフレンに普通とか言えるわけ??」
「えっと、学園演劇の顔合わせの時に……」
そんなに話す気はなかったんだけど、誤魔化しが効きそうにない鋭い追求に負けて、俺はあの日の出来事を簡単に説明した。
「あー、ミカエラってあの子か……可愛いけど性格やばいって噂だよね」
「あのアイドルでしょ?胸大きいし、男人気凄いけど性格悪そう」
「あたし同級だけど、性格きついの有名ですー!」
「ぜーったいフレンの方が可愛いよ!フレン性格いいしその時点で勝ってる!」
「いや、その……でも俺はあの子の自信があるところとか普通に凄いなって思うよ。そのおかげで今年は劇にでなくて済むし……」
陰口を言うつもりはないので、俺は話題がエスカレートする前に彼女に対して思ってることを口にする。実際彼女のおかげで今チアライブの方に参加できてるわけだし、短所と長所は表裏一体って言うしね。
「フレンがそう言うならいいけどさー、うちらはフレンの味方だから意地悪されたら相談してね!絶対守るから」
「裏方いびりとかありそうだし気をつけてー」
「いや、そこまではないと思うけど……皆ありがとね」
こういう時の女の子の団結力って凄いよね。まあ、そんなドラマみたいなことはそうそう起きないだろうし大丈夫だと思うけど。
いつの間にかメンバー全員に囲まれていた俺はそんな事を思いながら次の裏方シフトに思いを馳せた。
◇
「えーっ、フレン先輩演出魔法も使えないんですかぁ?演劇だと必須だと思うんですけど?」
チア練習直後の裏方シフトの日。張り付いてくるルカをなんとか練習に戻して、俺が1人道具のペンキ塗りをしていたらミカエラさんから声をかけられた。曰く前回の建国の姫役としてのアドバイスが欲しいとのことで、質問に答えていたら彼女からまた強烈な言葉が飛び出してきた所。
「フレン先輩って、可愛いですけど魔法は普通ですよね?演技も普通だし、去年ってもしかして人手不足だったんですかぁ?」
もしかしてこれって皆の言ってた裏方いびりなのかもしれない。こんな即伏線回収することある??けど去年は確かに俺の可愛さのせいという謎の理由で極度の人手不足だったし、言われてる事はあながち間違ってもない。俺自身も立ってるだけの役だからなんとかなった所はあるし、ここで張り合う理由はないよね。
「やむを得ない理由があってね……。ミカエラさんはまだ練習始まったばかりなのにもう全部セリフ覚えてて凄いね」
さっき見た練習風景では周りがほとんど台本を持ったまま練習してる中彼女1人だけ完璧にセリフを暗記して演技に入ってるのを見かけた。あのエリオ君でさえまだ台本を持ってるのに凄い記憶力だと思う。
「まあ、あれくらい仕事では普通ですし?それより、これなら去年の評判を超えるのも確実ですね♡」
「アイドルって凄いんだね。ミカエラさんのファンの人も来るだろうし盛り上がるといいね」
「盛り上げるのは当然です!それが小悪魔族の本分ですし、みーんな私の虜にして名実共に学園一可愛いのは私って証明します♡」
小悪魔族は天性のアイドル気質のある種族だ。魅力的な容姿や仕草、声で人の気を引くカリスマ性を持つ芸能系に強い人が多い。こう言うと夢魔に似てるけど夢魔は精神や魂に干渉して人の心をくすぐるけど彼女達は行動や言動で人の心を動かすので世間的にも違いがはっきりしている。
「先輩の長所って可愛さだけですし、私が一位になったらきっとクロード先輩も先輩派から私に乗り換える筈です♡」
「えっ、クロード?」
あー、なるほどね。なんか前半ものすごいこと言われた気がするけど、それより突然でてきた幼馴染の名前で、俺は今まで謎だった彼女のあたりの強さの理由を理解した。
(ミカエラさんクロード狙いだったんだ……)
というのも、結構昔から似たような事を言われた経験があるから。クロードってあり得ないくらいモテるんだけど今まで一回も彼女がいたことがないんだよね。告白はされるけど全部断ってるらしい。で、その振られた子達が
『いつもフレンがべったりしてるから』
『フレンが近くにいるからクロード君が振り向いてくれない』
みたいに言ってくる事は少なくない。まあ、俺とクロードって幼馴染で距離が近いし、クロードは俺に対して過保護なところがある。だから手のかかる弟分がいて忙しいから付き合ってもらえないって解釈されてるみたい。たぶんミカエラさんも例に漏れずこんな感じに考えてるんだろう。
「まあ、えっと、頑張ってね?」
「……っ、その余裕も今だけですから!じゃあ練習戻るのでこれ片付けといてください♡」
俺派とかはよくわからないけど、モチベーションがあるのは悪い事じゃないし、俺は無難に応援の言葉を告げる。ミカエラさんは一瞬不機嫌そうに眉を歪めた後完璧な笑顔で俺に飲み終わったペットボトルを渡して練習に戻って行った。
「これって……捨ててこいってこと、だよね?」
うーん、やっぱりこれ裏方いびりではあるかも?




