表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

私の頭

作者: 血路誘拐
掲載日:2025/10/04

父が亡くなってから、私の思考はどこにもない気がする。いや、父が亡くなるよりも前から、私には脳内の声が周りに漏れている感覚がすることがあった。ただ、父が亡くなってから。その仏壇が私の生活圏に存在するようになってから。ずっとそれと目が合うようになってから。声が漏れる相手と場所が限定されただけだ。


私は家のリビングに1人過ごしているとき、独り言をよく言う。もともと常に脳内で喋っているものが、人がいないからと声に出ているだけだ。そういう時、私のその声は全て亡くなった父に聞かれるためのものとしてしか存在できなくなる。また、家に母や姉がいる時は、声に出さないので、脳内の声がそのまま父に聞かれているような感覚になるのだ。


それは、私の思考を限定することになる。私は父に聞かれているからと言って、父に聞かれるための言葉しか喋れなくなるのだ。家に誰もいないときの独り言も、脳の中で喋ってることも全て支配される。いや、無意識のうちに自分からそのようにしているのだ。聞かれていることによって限定されると言ったが、それは同時にその声を使って承認欲求を満たしている状態だとも思う。無論全て無意識に。そのために思考や独り言をしているときはそんな欲求を満たそうと思って言葉を選んでいるのではない。ただ、ふと、声が漏れるなどは全て勘違いやキチガイの錯覚で、自分の声は全く誰にも聞かれていなくて、今までに聞かれていた声は実はやっぱり私しか知らないものではないか?と思うと、いつもの感覚と違う感覚になり、孤独感に襲われるのだ。つまり、いつもはやはり本気で自分の声が父に聞かれていると無意識に感じていて、それに合わせて言葉を選んでいるということになるのだ。


それに気づいた人間は自分の思考を疑う。自分の思考だと思っていたものは自分が欲求を満たすためにわざわざ改変した偽りの思考ではないか。もし今話している相手が心を読める可能性のある眼鏡をかけていて、自分は見られて恥ずかしいことを考えていたとしたら?眼鏡の効力に確信がなかったとしても、そんなことを考えるのはリスクがあるように感じ見られてもましな思考に切り替えるだろう。つまりそういう、単純な心配からなのである。そして私は自分が全く誰にも見られていないときどんな風に考えたり行動したりするのかがわからなくなるのである。あまりにも馬鹿で愚かな行為である。しかし確信がないからそうなるのだ。


こんなふうに見られているように思う理由には心当たりがある。そもそも私が脳内の声が漏れる感覚を持っていたということもひとつ。そして、亡くなってしまったが、ちゃんと見守ってくれているという考えである。今の時代、私も私の家族も、仏教をしっかりと信仰しているから。という理由ではない。所謂自称無宗教だとしても、亡くなった家族が見守っていてくれるという風に考える人は多いだろう。そして、それは遺された人にとって心の支えになるかもしれない。私も、手を合わせるときは、決まり文句のように見守ってて欲しいということを父に伝えているのだ。しかしそれが、私に脳内の声が漏れているように感じさせる原因なのだと思う。だからと言って、亡くなった父という子供にとって大きな存在に限って、見守らないで欲しい、死んだんだから何も無い、などと言う風に思えることもないのである。私は脳内の声が漏れているように感じ、自分の本当の思考を見失うことに悩みながらも、その原因である亡くなった人は見守ってくれているという考えを捨てることに抵抗を覚える、いや、できないのである。


私は脳の声が漏れるという感覚について調べた。すると、漏れているのではないかと不安になったら、その相手に、今私が何を考えているかわかるか。と質問をし、わからないという答えを聞くことで確信を得て安心するという人を見た。私はそんなことを誰にも聞いたことが無かったので、いい考えだと思った。今まではそれでよかったのかもしれない。しかし私の場合、相手が限定されてしまっていてそれが叶わない状態になってしまっていた。そして確認ができないことが余計にその心配を大きくさせるのだと思う。そうは言っても、見守られていることを否定する気など起こせないから、このまま葛藤を抱えていくしかないのだと思う。そもそも父は私に優しくするだろうし、父相手にならこれほど悩むこともないのだと思う。自己意識が強いということなのだ。結局は私の脳が悪いのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ