05 良い奴
僕と看護師さんは息をひそめ、ゴブリンがいなくなるのをひたすら待ち続けた。
まだゴブリンの声が聞こえ、また僅かな隙間から慎重に監視はしており、暗くてよくは見えないものの、かなり離れた場所に複数体らしき動きがあるように見える。
随分長い間、声を出し合っているので、何か話し合ってるのだろうか。言い合いにも聞こえる。
もちろん人ではないので何を喋ってるかは分からない。
すると話し合いらしき声がピタッと止まり、足跡が近づく音が響いてきた。
目を凝らして見てみると、複数体のゴブリンがこちらの方向を指差し、近づいているではないか。
まずい
非常にまずい
ここは4階だ。
僕の身体では、非常階段をつかって逃げることは不可能だ。
そもそも非常階段で向かう先も安全である保証はない。
しかし、
ここで待機して殺されるよりも、非常階段に賭けてみる方がマシだろう。
となると、僕はもう無理なので看護師さんだけでも、先に逃げてもらおう。それが1番良い選択肢だ。
「看護師さ••」
「ごめんなさい!!」
ドンッッ
「ぇ?」
僕は突き飛ばされたらしい。
しかもゴブリンに見つかりやすい場所に向けてだ。
あの人に。
「あなたの分まで生きるから!」
そう言い残してあの人は非常階段の方向に走り去って行った。
それはないよ…
普段の僕であればこんな惨めな状況にならなかっただろう。
見捨てないとあの人が言った言葉を簡単に信じてしまい、裏切られたから惨めなのだ。
何故そのつもりもないのに期待をもたす言動をするのだろう。
最初から逃がしてあげるつもりだったので結果は変わらない。
でも突き飛ばされる前に伝えてあげれば、こんなに惨めな形で死を迎えることはなかったんじゃないかな。
「クヮァマャマィグリ」
顔を上げるとそいつらは訳の分からないことを話してる。
どうやらお迎えがきたようだ。
あぁ惨めだ。
良い奴は嫌いだ。
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