48 墜落
僕らはまたトイフェルの森に来ている。
ここは強い魔物も出ないので、今回の魔法の練習にはぴったりな場所だろう。
結局僕らが教えてもらった魔法はフレイムアクティベーションとフライトのみ。
どちらも慣れるまで時間がかかるので、今回はこれだけらしい。
次からは中級魔法を教えてくれるみたいなので、楽しみである。
「フレイムアクティベーション!」
魔法を唱えると、全身の力がみなぎっているように感じる。
今までにない感覚だ。感動した。
「ねぇ、成功したの?」
この魔法はスーパー〇イヤ人みたいに見た目が大幅に変化するような魔法ではなく、他者から見ると一切の変化がない。
アズサさんが気付かないのも仕方ない。かなり地味な魔法だな。
「えぇ。成功だと思います。早く魔物と戦ってみたいですね。」
「ふーん。あんたは気楽でいいわね。私の魔法と違ってリスクなさそうだし。」
確かに僕の魔法はリスクは特になさそうだ。
シエルさんに脅されてもいないしな。
アズサさんはフライトの使用についてはかなりビビっており、まだ魔法を試す決心がつかないらしい。
「慣れるまで難しいって言われましたけど、すぐにできましたね。僕にも才能があるかもしれませんね。」
【主よ。フレイムアクティベーションが難しいのは魔法の持続じゃ。あの女は恐らくそのことを言ってるのじゃろう。】
「持続?」
【そうじゃ。一定時間、魔法発動しながら戦うことが想定されるが、途中で発動を切らしてしまうと戦闘に影響するじゃろう。】
「なるほど……一瞬の発動だけだったら簡単ってことか。」
【そういうことじゃ。少なくとも30分くらい発動を持続できるように練習をするがよい。】
「分かった。そうしてみるよ。」
そこから魔法の持続を試してみるのだが、30分はおろか、5分の持続するできない。
少しでも気が緩むと魔法が解除されてしまうのだ。
確かにこれは時間がかかりそうだ。
今日中には無理だろうな。
「アズサさん、決心はつきましたか?僕はまだまだ時間がかかりそうです。」
「えーっと……うん。」
「じゃあやってみましょう。」
「ちゃんと見ててよね!私が落ちたら助けるのよ!絶対よ!」
「分かりましたよ。でも急に高くまで飛ばないでくださいね。」
「分かってるわよ!高く飛ぶつもりなんてないわよ!」
アズサさんは深呼吸をしている。
この魔法のために、シエルさんと別れた後に体力ポーションを追加で10個も購入したのだ。
多分大丈夫だろう。
「フライト!」
アズサさんが唱えるとともに、徐々に彼女の身体が地面から浮かんでいく。
そう。飛んでいるのだ。
今は僕の身長程度の高さまで、彼女の足がくるように浮かんでいる。
「凄いですね!飛んでますよ!まずはこのまま維持しましょう。高く上がっちゃだめですよ。」
「ヒロキ……あのね……」
「どうしましたか?」
「高さってどうやって調整するのかな……?」
「え?」
「どうやって維持するのか、降りるのか分からないの……助けて……」
僕に聞かれても知らないよ。
「え……どうやってって……ちなみにどうやってそこまで浮かんだんですか……?」
「えっと……唱えてから、浮かぼうと思ったらここまで浮かべたの……」
「それですよ!同じように念じればいいんじゃないですか?」
「分かったわ……あ……」
ブワッッッ
「え⁉」
勢いよくアズサさんの身体は急上昇し、森の木よりも高くまで浮かんでいる。
そして上空でよろよろと移動したのちに、落下し、勢いよく森の木に突っ込んでいった。
あ……
大丈夫かな……




